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2026.10.23 11:00

新しい「美」を探求し、創造し、共有する――資生堂CEOが語る成長戦略

先の見えない時代だからこそ、人は信頼できるブランドを求める。

日本発のグローバルビューティーカンパニーを目指す資生堂は、何を守り、何を変えるのか。

2025年にCEOへ就任した藤原憲太郎が信じる「美の力」とは。


資生堂。その社名は、中国の古典「易経」の一節「万物資生」に由来する。万物の素晴らしさに力をもらい、その時代を生きる人々の暮らしに思いをはせながら、新しい価値と美しい生活文化を届けてきた。

藤原憲太郎CEOは、「変化の激しい不確かな世の中で本物を求める今の時代、そしてコロナ以降の環境変化のなかで構造改革に挑む私たちにとって、資生堂の原点とあらためて向き合うことは不可欠でした」と語る。

資生堂の創業は、1872年。日本初の民間洋風調剤薬局として銀座に誕生し、初代社長の福原信三が化粧品事業に進出する際に芸術の要素を取り込んだことで、「アート&サイエンス」をDNAにもつ現在のグローバルな化粧品事業の礎が築かれた。

藤原は1991年に入社し、20代後半から欧州やアジアなど海外畑を長く歩んできた。そこで資生堂が単なる化粧品メーカーではなく、日本独自の美意識や文化まで届ける会社として海外で評価されていることを知る。フランスで携わったフレグランスブティックの立ち上げでは、異なる文化を尊重しつつ、まだ存在しない価値を生み出す意志の強さや醍醐味にも触れた。

かつては、日常的な交流を通じて「資生堂とは何か」が暗黙知として受け継がれていた。しかし働き方の多様化や、グローバル化が進んだ現在、その方法だけでは独自性を生み出す源泉である企業文化を維持できないのではないか―。藤原はそう危機感を抱いたという。

そこで、資生堂グループで働くすべての従業員がすべての瞬間に持っていなければならない心構えや所作を「The Shiseido Way」として言語化した。

響かせる、再びのスローガン「一瞬も 一生も 美しく」

資生堂は、2025年11月発表の「2030中期経営戦略」で 、企業使命「BEAUTY INNOVATIONS FOR A BETTER WORLD(美の力でよりよい世界を)」のもと、ビジョンを「ひととの繋がりの中で新しい美を探求・創造・共有し、一人ひとりの人生を豊かにする」と定めた。

そして、このビジョンを体現するスローガンとして2005年に発表した「一瞬も 一生も 美しく」をあえて再び掲げた。

「美の力の素晴らしさとは、人の日常生活に溶け込んで心に豊かさを届け、ときに励まし、勇気づけるところにあります。この言葉は、一人ひとりの豊かな人生のために新しい美を発見し、創造し、届けるという私たちの宣言でもありました」

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ふじわら・けんたろう◎資生堂取締役、代表執行役社長CEO。1991年、資生堂入社。韓国資生堂社長、中国地域CEOなどを歴任し、2023年に社長COOに就任。2025年1月より現職。

24年に掲げた「アクションプラン2025-2026」では、安定的に収益を生む経営基盤の構築を目指し、注力ブランドへの選択と集中、グローバルでの抜本的な構造改革を進めた。

計画していた主な施策は25年中に着手し、26年はその効果が数字にも表れ、新たな成長へとかじを切るフェーズへと転換している。地域別売上構成比は、特定の地域への依存度が低下し、日本、中国・トラベルリテール、欧米・アジアからの売り上げが各3分の1へと均衡した。また利益成長をけん引する注力ブランドの売上高構成比は、21年比で9%ポイント増の77%に上昇した。ここからは、投資をかけたブランドの着実な成長がうかがえる。

「2030中期経営戦略」では、より強固になった経営基盤から創出される利益を新たな価値創造へ再投資し、さらなる成長につなげる好循環を目指す。経営目標としては、年平均売上成長率を市場を上回る+2~5%と設定し、2030年にコア営業利益率10%以上、ROIC10%以上、ROE12%以上、フリーキャッシュフロー1,000億円以上を掲げている。

「資生堂には本当に良い商品やブランドがあり、私はそれを誇りに思っています。ここから、その価値を最大化していきます」と藤原は力を込める。

藤原が成長の原動力と位置付けるのが、長年磨き上げてきた「価値創造力」と「価値伝達力」の掛け合わせだ。

「共生」の発想で新たな価値を届けるビューティーカンパニー

価値創造力の起点となるR&Dは、1916年に研究体制の礎を確立して以来、独自の視点を磨いてきた。人を一生という時間軸でとらえ、肌だけでなく体と心のつながりまでを研究対象とし、肌の内側の状態や将来の変化など本来見えないものまでを可視化する。

また、良いものは取り入れ悪いものは排除するという「共生」志向の東洋的なアプローチをとるのも特徴だ。

その一例が、2021年に発表した、紫外線を「肌に良い作用をもたらす可視光(美肌光)」に変換する技術だ。光合成に着想を得た同技術は、肌に有害な紫外線を有益なものに変えるという逆転の発想で、太陽のめぐみを活かして、環境と共生することを目指して開発されたという。

その研究開発力は、国際化粧品技術者会連盟(IFSCC)の大会で、1976年から2025年までに重ねた33回という最多の受賞数 ※ にも表れている。そして、その価値を伝えるクリエイティブや、おもてなしの心の掛け合わせを競争力の中心に据える。

「受賞はうれしいことですが、大事なのは、生み出した技術の本質的な価値をお客さまに届けきること。だからこそ、伝える力も同時に磨かなければなりません。日本の美意識に通じるおもてなしの体験、心を動かすクリエイティブ、香りや感触といった五感に訴えるものづくり。『良いものには多面性がある』との考えのもと、異なるものの融合を追求するアート&サイエンスは創業以来受け継いできた資生堂らしさであり、その独自性はグローバルにおける競争力にもつながると考えています」

そして、2030年に向けた成長の中核に据えた戦略が、「技術力を活かしたイノベーションの最大化」である。

「①ブランドコア」、「②コーポレート横断」そして「③新カテゴリー・新領域への拡張」の3つのアプローチで取り組み、①では、独自の技術をブランドのコアとして搭載し、ブランド価値を先鋭化させ、愛用者の獲得・育成を強化する。

②では、最新のサイエンスおよびテクノロジーをブランド横断で活用することで、カテゴリーの競争優位性を築くほか、市場創造と育成を図る。具体的には、しみやしわ、たるみといった肌悩みに応える技術の複数ブランドへの展開、スキンケア技術のメイクアップやフレグランスへの応用である。また28年までに10以上の最新技術をブランドに搭載し、間断なく発売することを計画しているという。

③の新カテゴリー・新領域への拡張において、ユニークなのは、技術活用の出口を必ずしも化粧品にしなくてもよいという発想だ。商品開発で使う技術や店頭での肌測定を通じた数百万の肌データから得られたさまざまな知見をパーソナライズソリューションとして生活者に直接提供する。すでに、研究拠点の資生堂グローバルイノベーションセンターでは、「美の検診」を実施しており、自分を深く知る体験型のサービスとして人気を得ている。

葛藤と選択を繰り返すなかで、真の強さと豊かさを問い直してきた資生堂。

最後に30年以降の“ありたい姿”を問うと、開口一番にこんな答えが返ってきた。

「美の力で人を幸せにするビューティーカンパニーをより進化させたいですね。当社には、レストランやギャラリーなど先人たちが『アート&サイエンス』を起点に築いた事業もあります。それらを美の可能性を広げる接点として活用しながら、化粧品をコア事業に据えて、より広いかたちで生活者に美を届けたい。日本のみならず、世界中の人々に『資生堂があって良かった』と思っていただける会社でありたいです」

その決意は、150年を超えて受け継がれる美への探究心とともに世界の一人ひとりに向かう。「一瞬も 一生も 美しく」。資生堂はその実現へ歩みを進めていくだろう。

※最優秀賞および優秀賞の合計回数


資生堂

promoted by 資生堂 / text by Sei Igarashi / photographs by Shuji Goto / edited by Akio Takashiro