つながりの時代は、世界を以前よりもはるかに狭くした。文化交流が容易になったことで、人類に共通する人間性への意識が育まれた一方で、他文化の地雷を誤って踏んでしまうことも容易になった。マーケターにとって、その結果は単なるマナー違反にとどまらない。ブランドのイメージを失墜させ、オーディエンス拡大の試みを、逆風(バックラッシュ)による撤退へと追い込んでしまう可能性すらある。
自らの「盲点」に対して盲目であってはならない
すべてのマーケティングチームには盲点がある。つまり、文化的な配慮への無知やステレオタイプへの依存によって、人々の感情を害するキャンペーンを作成してしまうリスクが、どのチームにもあるということだ。マーケティングチームの同質性が高いほど、そのリスクは大きくなる。特に、長期間一緒に仕事をしており、慣例的な仕事の進め方が定着しているチームでは、外部の視点から自らのキャンペーンを客観的に捉えることが難しくなる。
こうした盲点は、自分たちとは異なる文化に向けてマーケティングを行う瞬間に負債となる。グローバル貿易の障壁が低くなり、国境を越えて販売・マーケティングされる製品やサービスが増えるなか、マーケターが意図せず不快感を与える可能性は高まる一方である。ブランドがグローバル化するなら、グローバルな視点を持てるようになる必要がある。
グローバルな人の移動は、国内におけるオーディエンスの多様化も意味している。ここでの危険は、マーケティングチームが想定していなかったグループの感情を害することだけにとどまらない。そのグループが、母国の友人や親戚にその不快感を共有することだ。たった1つの家族向けWhatsAppグループが、そもそもキャンペーンのターゲットにすらなっていなかった国で消費者からの激しい反発を引き起こすきっかけになり得るのだ。
文化的な不快感に「コンプライアンス」は通用しない
コンテンツモデレーションや法的コンプライアンスは、マーケターに誤った安心感を与えることがある。こうした枠組みは、広告が現地の規制を遵守していることを保証するために存在するが、法務チームがキャンペーンを承認したからといって、それが人々に不快感を与えるのを防げるわけではない。ある文化の歴史や神聖なシンボル、集団的トラウマをすべてカバーできるような規定のルールは存在しないのだ。これを把握するには、ターゲットとなるオーディエンスだけでなく、彼らを取り巻くより広い文化的背景を熟知している人々の視点や意見を取り入れるしかない。
たとえば、ウクライナ人であれば、花束の宅配会社に対し、喪を連想させる偶数の花を使ったアレンジメントを掲載しないよう助言できる。タイでフットクリームの広告を展開する場合は、モデルの足の裏を見せないように注意する必要がある。現地では重大なマナー違反となるからだ。
上記の例のいずれも、悪意がなくても誤ってキャンペーンに入り込んでしまう可能性があることは容易に想像がつくだろう。こうした失策の機会はAIによる生成プロセスで倍増している。人間による監視がさらに不十分になるため、不適切なイメージがキャンペーンに入り込む可能性が高まり、消費者はそれが機械の仕業であるかどうかなど気にしないからだ。
意図がどうであれ、こうした仮想のマーケターは、よくてもクリエイティブを取り下げて再計画を迫られ、悪ければ消費者からの反発に直面することになる。
すべての反発が裏目に出るわけではない
反発の深刻さは、引き起こされた不快感の度合いだけでなく、それが生じた社会構造にも左右される。個人主義的で世俗的な国々であれば、企業は消費者向けのPR活動を展開し、規制当局から課された罰則を受け入れることで、信頼を回復できるかもしれない。しかし、集団主義的な傾向が強く、特に強大な宗教権力が存在する国々では、権力者側もその反発の動きに同調せざるを得なくなり、ブランド側には修復の手立てが一切残されないこともある。
文化的な配慮を欠くことの危険性は、単に反発を招くことだけでなく、それが予期せぬタイミングで襲ってくることだ。ブランドは突然、守勢に立たされ、事前の徹底的な調査(デューデリジェンス)を行っていれば防げたはずの事態の収拾に追われることになる。それも、事態に気づけた場合の話だ。SNSで炎上が起きていることにマーケターが気づくまでに数日かかることもあり、現代社会においては、わずか数日でブランドの評判に致命的なダメージが及びかねない。
文化的な認識を備えていれば、潜在的な反発を予測し、それがターゲット層以外からのものであるために無視するという判断を事前に下すことも、あるいはその反発をキャンペーンへのさらなる注目を集めるための手段に変えることも可能になる。
たとえば、男性や少年に有害な男らしさへ異を唱えるよう促した、ジレット(Gillette)の「The Best a Man Can Be」キャンペーンを見てみよう。このキャンペーンは保守派の間で激しい反発を呼び、プロクター・アンド・ギャンブルへの不買運動の呼びかけにまで発展した。しかし、反発した人々は声が大きいだけの少数派であることが判明した。彼らはメディアを巻き込んで騒ぎ立てたものの、最終的にこのキャンペーンは広く受け入れられ、一般消費者の間でのブランドイメージや購入意向を高めることに成功した。
文化的感受性を確認する簡潔なチェックリスト
法務やコンプライアンスの枠組みだけでは、マーケターが文化的な不快感を与えるのを防ぐことはできない。そのため、リスクを軽減するには意識の持ち方が重要になる。マーケターに人類学者並みの知識は求められないが、多世代、多民族、多文化、そして地政学的に不安定な現代世界において、外部の視点を取り入れる責任はある。それでもトラブルに巻き込まれることはあるかもしれないが、少なくとも相応の備えはできるはずだ。
MGIDでは、グローバルキャンペーンを展開する前に、以下の6つの質問を自問することを推奨している。
1. 現地のオーディエンスは、これを私たちとは異なる形で解釈する可能性があるか。
2. このクリエイティブはステレオタイプに依存していないか。
3. 意味を理解しないまま、象徴や参照を使っていないか。
4. このメッセージは政治的または社会的に解釈される可能性があるか。
5. キャンペーンは現地文化の視点からレビューされているか。
6. 経済的観点から見て、気にかける価値があるか。
文化的な配慮について、専門家のアドバイスを求めることも有益だ。結局のところ、マーケティングの成功は常に「共感」にかかっている。見込み客の視点に身を置き、彼らの願望や恐れ、欲求やニーズに響くキャンペーンを構築することだ。もし、その視点が自分とはかけ離れていて寄り添うことが難しいと感じるならば、それができる専門家の意見を仰ぐべきである。



