メキシコは米国の旅行者にとってなじみ深い目的地である。だが、混雑するリゾート地の外に目を向けると、観光にまったく異なるアプローチを取る7つの地域がある。土地を守り、そこに暮らす人々に利益をもたらすことを観光モデルそのものに組み込むと、何が可能になるのかを示している。
バハ・カリフォルニア半島
ロレトやコルテス海周辺では、海洋野生動物が観光を牽引しており、これがクジラやイルカ、アシカなどの生物種を保護する強い動機となっている。
メキシコのバハ半島は、旅行者を引きつけるものを守ろうとしている。ロレトでは、その決意がすでに試されている。
2026年、住民、漁業者、観光事業者、自然保護団体は、ロレト湾を国際クルーズ船に開放する可能性があった連邦政府の決定に反対した。彼らの反発は功を奏し、政府は決定を撤回し、2030年までクルーズ船の寄港申請を認めない方針を示した。
「環境保護を最も強く訴える人々が、観光に直接生計を依存している当事者である場合、その目的地が正しい方向に進んでいるサインであることが多い」と、責任ある旅行を手がけるElevate Destinations創業者のドミニク・カリマノプロスは語る。
オアハカ州シエラ・ノルテ山地
オアハカの奥深くにあるシエラ・ノルテは、メキシコにおけるコミュニティ所有型観光の好例である。
「複数のサポテカ族のコミュニティが共同で保護林を管理し、エコツーリズムのロッジ、ハイキングコース、マウンテンバイクのルートを運営している。観光収入は森林保護と地域住民の生計を直接支えている」と、Untamed Travellingの創業者兼ディレクター、ヨゼフ・フェルブルッヘンはメール取材で述べた。
「この地域全体で、旅行者はコミュニティ運営の協同組合を目にすることになる。そこでは、本格的な料理教室、織物ワークショップ、メスカルの試飲、伝統工芸品の製作などが提供されており、その収入は村のなかに留まる」とフェルブルッヘンは付け加える。
「ここでの観光は多くの場合、小規模で地域所有型だ。訪問者は演出されたショーではなく、今も息づく伝統に触れることができる」と同氏は指摘する。
FreeTourの旅行専門家アレクサンドラ・ドゥバコワも、観光収入が地域に再投資されている点を強調する。
「収入が国際的な大企業に流出することはない。観光で得られた利益は、地元の病院や学校などの建設資金に充てられている」と同氏はメール取材で述べた。
キンタナ・ロー州マヤ・カアン
キンタナ・ロー州のフェリペ・カリジョ・プエルトを中心とするマヤ・カアンでは、大規模開発が進んだリビエラ・マヤ沿岸とはまったく異なる体験ができる。
「マヤ・カアンを独自の存在にしているのは、訪問者の体験を形づくり、提供するうえで、地元のマヤ・コミュニティが積極的な役割を果たしている点だ」と、メキシコ・カリブ観光局CEOのアンドレス・マルティネス・レイノソはメール取材で語った。
「伝統料理、職人のワークショップ、自然を基盤としたアクティビティ、ガイド付きの文化体験などは住民が主導しており、訪問者と訪問先のコミュニティの間に本物のつながりを生み出している」とレイノソは続ける。
目的は、訪問者を地域の伝統に触れさせることだけではない。その伝統を守るコミュニティを、観光収入が支えるようにすることでもある。
この地域は、ユネスコ世界遺産であるシアン・カアン生物圏保護区ともつながっている。同保護区は、ジャガー、マナティー、数百種の鳥類を含む並外れて多様な野生生物を守っている。
前出のUntamed Travellingのフェルブルッヘンは、「私自身、現地の保全プロジェクトに参加したことがあり、保護区がどれほど慎重に管理されているかを身をもって見てきた」と語る。
「訪問者数は厳しく管理されており、多くのツアーは地元のマヤ・コミュニティが運営している。そのため観光は、自然保護と持続可能な生計に直接貢献している」と同氏は付け加える。
オアハカ州ウアトゥルコからラグナス・デ・チャカワまで
ウアトゥルコからラグナス・デ・チャカワ方面へと延びるオアハカ州太平洋岸の約110マイルの区間は、地域コミュニティがその結果に利害を持つことを理解したとき、観光が環境保護をどのように支え得るかを示している。
「以前、漁業者や農家は、乱獲、ウミガメの卵の違法採取、マングローブの伐採が、将来の確実な破滅を意味すると理解した。その結果、地元の家族たちは協同組合を設立し、環境を守るために低密度型観光を推進し始めた」と、FreeTourのアレクサンドラ・ドゥバコワは語る。
現在この地域では、重要なマングローブ生態系を含む1万9000ヘクタールの沿岸回廊で保全活動が進められている。
「地元ガイドは、地域の汚染拡大を防ぐために船の往来に制限を設け、化学成分を含む日焼け止めの使用を禁じている。こうした方法で取り組む利点は明らかだ。訪問者が支払う料金が、野生生物保全管理ユニット(UMA)への貢献になる」と同氏は付け加える。
Visiting Wrld共同創業者のジョー・ガファリも、メキシコで責任ある旅行を適切に実践している地域を問われ、ウアトゥルコを挙げた。
「オアハカ州ウアトゥルコは、旅における健康的でバランスの取れた食事のような存在だ。持続可能な観光に焦点を当て、適切なインフラが整備されている場所は、新鮮な空気のように感じられ、地域の生態系が健やかに育つことができる」とガファリはメール取材で述べた。
「ウアトゥルコは、この考えを念頭に置いて設計された、環境と調和する避難所のような場所だ。9つの美しい湾と36の見事なビーチがあり、そのすべてが保護された国立公園に囲まれている。まさに宝石のような場所である」と同氏は付け加える。
ハリスコ州コスタレグレ
コスタレグレは、ハリスコ州太平洋岸の比較的知られていないエリアで、カボ・コリエンテス、トマトラン、ラ・ウエルタ、シワトランの各自治体を含む。大規模で画一的なリゾートに主として頼るのではなく、低密度型の観光成長を重視している。
「この地域にはブティックホテルや独立系の宿泊施設が集まっており、その多くは建築的に個性があり、周囲の環境に深く溶け込んでいる」と、ハリスコ州観光局長官のミシェル・フリードマン・ヒルシュはメール取材で述べた。
ヒルシュはまた、いくつかの施設が地元所有で、何世代にもわたって同じ家族のもとに受け継がれてきたため、その土地ならではの個性と歴史の継続性を保つ助けになっていると強調する。
「このアプローチにより、コスタレグレはアイデンティティを失うことなく発展してきた。ブティックホテルや独立系施設の存在は、よりバランスの取れた観光エコシステムを支えている。地域の長期的な個性に成長を合わせながら、マスツーリズムに伴いがちな圧力を避けている」とヒルシュは語る。
ユカタン半島内陸部
リビエラ・マヤから離れたユカタン半島の内陸部でも、マヤの文化と伝統を体験できる、地域に根ざした方法が用意されている。
「伝統的なマヤの村々では、独自の言語や習慣、そして輪作によって生物多様性を促進する古代の伝統的農法『ミルパ(milpa)』を含む農業のやり方が今も守られている」と、Untamed Travellingのフェルブルッヘンは語る。
旅行者は、コミュニティが管理するセノーテを訪れたり、在来のハリナシバチを使った伝統的な養蜂について学んだり、ユカタンの郷土料理を味わったり、地元住民が所有するゲストハウスに滞在したりすることができる。
Visiting Wrldのジョー・ガファリは、ユカタン州のメリダについて、安全で温かい環境を育みながら、マヤとスペインの遺産を本物の形で融合させている場所として挙げている。
メキシコシティ、ソチミルコ
このリストにある目的地の中で、ソチミルコはメキシコシティに最も近い。実際には首都の一部であり、南部に位置している。
「ソチミルコは色鮮やかなパーティーボートを連想されることが多いが、その真の重要性は、卓越した農業遺産にある」とフェルブルッヘンは語る。
「この地域で有名な『チナンパ』は、700年以上前にアステカ人が開発した浮き畑(水上農園)であり、現在でも地元の農民によって耕作されている」と同氏は付け加える。
現在、複数の社会的企業が、訪問者に運河を巡りながら持続可能な農業、湿地再生、生物多様性保全について学ぶ機会を提供している。こうした取り組みを支援することで、旅行者は米州で最も古くから継続的に耕作されてきた景観の一つを守ることに貢献している。



