AIを使って企業を分析する投資家に、経営者は何を伝えるべきか。ブランズウィック・グループ(以下、ブランズウィック)の「2026年米国投資家調査」は、情報の読み方の変化とともに、競争優位の説明や経営陣への信頼の重要性を示した。資産運用立国などに向けて金融庁が推進する日本の金融・資本市場の魅力を発信し、国内外の投資家との対話を深める「Japan Weeks 2026」のコアウィーク10月26〜30日の前に、日本市場への関心を個社への理解につなぐにはなにが必要か、調査結果から、日本企業のIRが見直すべき点を考える。
次の投資家面談では、相手の質問の一部をAIが準備しているかもしれない。
米国投資家調査:競争優位の説明と直接対話の重要性
ブランズウィックは米国で2025年11月20日〜12月4日に投資家の意識や行動について理解を深めるための調査を実施し、2026年版として公表した。対象は米国で株式のアクティブ運用に携わるアナリスト・ポートフォリオマネジャー100人で、ロングオンリーの資産運用会社とロング・ショートのヘッジファンドが各半数を占める。
調査結果によると、34%の投資家が経営陣との面談に向けた質問の作成にAIを利用していることがわかった。同時に、投資リサーチの情報源として経営陣との面談を重要と答えた回答は77%に上った。AIの活用と、経営者との対話を重視する姿勢は、同時に存在している。投資における情報源として、AIと人とは二者択一ではない。投資家が公開情報からどのように企業を評価し、経営陣との対話で何を確かめ、資本を託す判断に至るのかという一連の過程で各々の役割を果たしている。本稿では、調査からAI活用、投資ストーリー、経営陣への信頼に関する結果を中心に、投資家とのコミュニケーションへの示唆を考える。
投資判断:AIか人か
調査において、投資リサーチを行う際に生成AIは重要*とした回答は54%で、68%がAIによって決算説明会への向き合い方が変わったと答えた。(*「重要」に加え、「ある程度重要」を含む)
AI活用の用途を見ると、その役割はニュースや開示資料の要約にとどまらない。49%が企業間の財務実績の比較に、42%が新規投資先の詳細なリサーチに利用していた。さらに、経営陣のトーンやセンチメントの変化の分析に用いる回答も26%あった。決算コール、ポッドキャスト、メディア出演には、声のトーン、回答の歯切れ、言いよどみ、強調した言葉、過去の発言との変化など、従来は投資家が定性的に受け止めてきたシグナルが含まれる。AIは、これらを継続的に記録し、時系列や競合との比較の中で数値化できる。経営陣のトーンが、業績やバリュエーションと並ぶ一つの分析指標として一般化するまで、それほど長い時間はかからないだろう。
Q1: 投資リサーチにおいて、AIツールをどのような用途で利用していますか。該当するものをすべて選んでください。
Q2: 以下の用途のうち、AIを利用することに最も懸念を感じる、または最も懐疑的に捉えているものはどれですか。該当するものをすべて選んでください。
既に62%の回答者は、企業の発信に含まれる注意すべき兆候や矛盾を見つけるのにAIが役立ったと回答した。今後、AIの活用範囲は、情報の収集・要約から、投資判断に用いる指標の生成や候補企業の評価へと、さらに広がっていくだろう。財務モデルやシナリオを通じて情報を投資判断指標へ落とし込み、複数企業を同じ前提で評価し、候補の優先順位を示すところまで含まれる。調査時点ではモデルや予測の更新にAIを使う投資家は23%だったが、これは現在の普及段階を示す数字であって、技術的な最終境界を示すものではない。企業が外部に出した情報は、数値、文章、音声、動画を問わず、AIが処理できる変数になる。これまで投資家やアナリストの経験に依存していた定性的な読みの一部も、比較可能な指標に変換される。公開情報から合理的に導ける分析は、情報収集から投資判断指標への変換まで、次第にAIの得意領域になると考えるべきである。この変化の意味は、IR業務が単に効率化されることではない。企業が外部に発信したもののほぼすべてが、投資家のAI分析に取り込まれ、企業評価を構成するデータになるということである。IR資料だけを整えればよい時代ではなく、企業の外部発信全体が分析対象になる。
ただし、AIが投資家の原資料を読む行為を置き換えた、と結論づけることはできない。投資家の75%がAIの結果を介するより企業の原情報に直接当たることを好むと回答している。企業が提供する一次情報が重要でなくなったということではない。先述の通り、投資家が最も重要と考える調査リサーチのインプットは引き続き経営陣との面談である。多くの投資家はデータのみではなく、経営陣との対話を通じて、自らの仮説や判断の前提を確認し、疑問を解き、理解や確信を深めるのである。



