米ニュースサイトのアクシオスは9月28日、ドナルド・トランプ米大統領がイラン核問題の進展と引き換えに対イラン制裁の緩和に前向きだと報じた。他のメディアも、匿名の米当局筋を情報源として同様の報道を行った。その夜、トランプはトゥルース・ソーシャルで一連の報道内容をすべて否定し、「事実無根だ。私は“何も”提案していない」と主張した。イラン政府は態度を明確にしなかったが、イラン国営メディアは国連総会の期間中にイラン代表団と米国との協議は予定されていなかったと報じた。一方、トランプは仲介国を通じて米イラン両国間でメッセージのやり取りがあったことは認めた。
意図的な偽情報は市場を動かす。最新ニュースの取り扱いに関して、アナリストや企業経営陣はどれだけ慎重を期してもやりすぎるということはない。他社に先駆けることを追い求める姿勢は、強力な罠となる。北海ブレント原油価格を1バレル=100ドル以上に押し上げた紛争が始まって7カ月目に突入したが、米国とイランが互いに何を提案したのかといった基本的な疑問点に対する答えは、どの情報源を信じるかによって変わってしまう。匿名の当局者にしろ、国営通信社にしろ、あるいは大統領の投稿にしろ、あらゆる情報源の1つひとつに利害関係があり、答えの着地点はそれに左右されるのだ。
大手メディアが報じれば、真偽不明の主張も検証済みの事実に見えてしまう
国や政府という存在は、常に世論を誘導しようと試みるものだ。1983年7月、旧ソビエト連邦の資金提供を受けていたインドの新聞に、米国防総省が後天性免疫不全症候群(AIDS/エイズ)をつくり出したと主張する匿名の書簡が掲載された。この記事はその後2年以上経ってから再びソ連の報道機関に取り上げられ、世界中に広まった。当時と現在で異なるのは、情報が世界を駆け巡るスピードと、情報戦を仕掛ける者たちが報道機関の信頼性を悪用している点だ。
プロパガンダと事実を区別する際に西側の人々が頼りにしてきた既存の主要メディアが、情報戦に利用される事例はますます増えている。信頼性の高い報道機関が報じれば、議論の余地のある主張ですら、あたかも検証済みの事実であるかのように見せかけられる。
軍事作戦の証拠をめったに見られない政策決定者と市民、頼りは記者や専門家
これがなぜ問題になるかといえば、外交政策の決定は不確実性の下で行われるからだ。政策立案者や一般市民が、軍事作戦や情報機関の主張を裏付ける証拠を目にする機会はめったにない。情報を事実とみなすにあたっては、ジャーナリストや専門家、当局者らを拠りどころにするほかないのである。こうした情報の媒介者が検証済みの事実と利害関係の絡んだ主張を区別できなくなると、政府や一般市民が重大な局面を理解するにあたっての前提が揺るがされてしまいかねない。



