子育てや人材育成の現場で、「参加賞のトロフィー(参加しただけで全員がもらえる賞)」という話を聞いたことがあるかもしれない。これは、子どもを過剰に褒めそやすことで、単に参加しただけで評価されるのを当然と思うようになるのではないかという懸念だ。スタンフォード大学の心理学部教授であるキャロル・ドゥエック(Carol Dweck)の研究では、能力(知性)を褒められた子どもは、努力を褒められた子どもに比べて失敗した後の粘り強さが劣ることが示されている。
それから数十年が経ち、この研究は、人間とAIとの関わり方において現代的な変化を迎えている。一部のAIシステムは、ユーザーの推論が筋道通っていることや、その行動が正当であったこと、さらには議論においてユーザーが正しかったことなどを伝えるのが非常に得意だ。これはまさに、「参加賞のトロフィー」をめぐる議論のバーチャル版のように思える。
最近の研究によると、このように常に同意され続けることは、人々が対立をどう捉え、それを解決しようとする姿勢に変化をもたらす可能性があるという。自分の見解を客観的に問い直す主体的姿勢は、感情的知性(EQ)に直結している。EQとは、自分自身の感情を理解してコントロールすると同時に、他者の感情を認識し、それに対応することである。この絶え間ない過剰な同意や追従は、一つの疑問を投げかける。AIが常にあなたに同意するとき、自分自身を疑う力はどうなってしまうのだろうか。
EQには「自分を疑う力」が必要である
筆者が博士論文でEQについて研究した際、最も興味深く感じたのは、その定義が複数存在することだった。筆者が教える多くのビジネス講座では、ダニエル・ゴールマン(Daniel Goleman)のアプローチに似た定義を採用している。それには自己認識、自己管理、社会的認識、人間関係の管理が含まれる。これらの領域は、他者の思考や感情を考慮しながら、自分自身の反応を見つめ直す能力にかかっている。もし、あらゆるフィードバックが「あなたの解釈は正しい」と肯定するものであるなら、EQを実践することは難しくなる。
だからこそ、AIの過剰な同調(迎合)に注目する必要があるのだ。迎合とは、AIシステムが過度に同意し、ユーザーの立場を肯定し、あるいは問題提起をするのではなくユーザーを喜ばせるためにデザインされた回答を提供することを指す。



