テクノロジーはほぼすべてのビジネスを変化させている。AIやアプリ、自動化などのイノベーションは、企業に業務の迅速化、コスト削減、そしてより優れた顧客体験を創出する機会をもたらしている。
しかし、企業がテクノロジーに魅了されるあまり、何のためにそれを使っているのかを忘れてしまうという、潜在的な問題が発生することがある。目的は優れたテクノロジーを導入することではない。より良い顧客体験を創出することなのだ。
筆者は先日、ポッドキャスト番組「Amazing Business Radio」で、ソニック・ドライブインの元CEOで、共著書に『Bricks and Clicks』があるクリフォード・ハドソン氏にインタビューする機会を得た。ハドソン氏はソニックで35年間を過ごした。彼はバーガーを調理したり、車まで料理を運んだりすることからキャリアを始めたわけではない。29歳のときに法務顧問としてソニックに入社し、最終的にCEOを23年間務めた。彼のリーダーシップの下、ソニックは店舗数を約900店舗から3600店舗に拡大させ、売上高は3億ドル(約474億円)から45億ドル(約7110億円)に増加した。
インタビューの中でハドソン氏は、顧客を見失うことなく、きわめて伝統的なビジネスを近代化したソニックの教訓をいくつか共有してくれた。結局のところ、顧客がいなければ、世界中のあらゆるテクノロジーも無価値だからだ。
ゴールを念頭に置いて始める
一部の企業が犯す最大の過ちの一つは、テクノロジーに惑わされ、顧客がそれをどのように使うかを理解する前に購入してしまうことだ。その逆を行くべきである。
顧客にどのような体験をしてもらいたいかから始め、そこから逆算するのだ。顧客に何を体験してもらいたいのか。さらに重要なのは、顧客に自社について何と言ってもらいたいのか。その答えが出て初めて、それを達成するためにどのようなプロセス、人材、そしてテクノロジーが必要かを決定すべきである。
テクノロジーをどう捉えているか尋ねられた際、彼は「テクノロジーについて考えてはならない。顧客について考えるのだ」と語った。会社が何か新しいことを検討するたびに、彼はそれがどのように顧客体験を向上させるかを問いかけた。彼の言いたいのは、テクノロジーは顧客体験を主導するのではなく、支えるものであるべきだということだ。
成功は危険をはらむ
物事が順調に進んでいるときは、現状に甘んじてしまいがちだ。売上は好調、顧客は満足し、ビジネスは成長している。なぜ何かを変える必要があるのか、と。
ハドソン氏が言葉通りにそう言ったわけではないが、彼はマーシャル・ゴールドスミスがベストセラー著書『コーチングの神様が教える「できる人」の法則(原題:What Got You Here Won't Get You There)』で極めて雄弁に説明したポイントを指摘していた。この本はリーダーシップの機会に焦点を当てているが、その主張は企業の成長を妨げる要因にも当てはまる。つまり、現在の成功がしばしば、さらなる成功の妨げになるということだ。
競合他社が常に自社から顧客を奪おうとしていることをハドソン氏は知っていたため、過去最高の業績を上げた年であっても、「次は何か」と問いかけ続けた。
テクノロジーを活用して「利便性」を生み出す
ハドソン氏は、ソニックがクレジットカード決済を導入した経緯についてのエピソードを語ってくれた。約25年前、ソニックはVisa(ビザ)から、クレジットカードを利用する消費者が増えていることを知らされた。当時、クレジットカードによる決済は、ソニックの売上高のわずか5%を占めるにすぎなかった。
95%の顧客が現金で支払っていたにもかかわらず、ソニックはすべてのドライブアップスペースに設置するクレジットカードリーダーに投資した。(ここで留意すべきは、ソニックは「ドライブスルー」型のレストランではないということだ。同社は「ドライブアップ」型のレストランである。顧客はメニューボードのある駐車スペースに車を止め、スピーカー越しに注文する。その後、スタッフが料理を運び、従来はそこで代金を受け取っていたのだ)
その成果は絶大だった。クレジットカードの売上比率は5%から55%へと急増した。15年間でソニックの売上高は約20億ドル(約3160億円)から45億ドル(約7110億円)に成長した。ハドソン氏は、この増加分のすべてがクレジットカード決済の導入によってもたらされたと述べている。
ハドソン氏のアドバイスは、「このテクノロジーで何ができるか」と問いかけるのをやめ、代わりに「このテクノロジーは顧客に何をもたらすことができるか」と問いかけることだ。
成長の理由はテクノロジーそのものではなかった。テクノロジーが生み出したもの、すなわち一言で言えば「利便性」が理由だったのだ。
リーダーがすべてのアイデアを出す必要はない
インタビューの終盤、筆者はハドソン氏に、彼の著書『Bricks and Clicks』の中からお気に入りのアイデアを共有してほしいと頼んだ。彼の答えは、ソニックのことというよりも、重要なリーダーシップの教訓に関するものだった。
自分がリーダーだからといって、優れたアイデアをすべて出さなければならないと思い込んではいけない。ハドソン氏は「新しいアイデアは自分の周囲に溢れている。視野を広く持ち、目を凝らして、納得のいくタイミングでそれを取り入れることだ」と語った。
クレジットカード導入のアイデアは、ソニックから生まれたものではなかった。ハドソン氏と彼のチームは、他の業界で起きていることに着目したのだ。他社がイノベーションのインスピレーションを与えてくれた。そして、自社の他のチームメンバーも同様のインスピレーションをもたらすことができる。彼の言いたいのは、特に自社業界の外で他社が何を行っているかを見聞きすることだ。これこそが、顧客重視のイノベーションの姿である。
最後に
テクノロジーは変化し続ける。常に新しいアプリやシステム、そして今やビジネスの変革を約束するAIソリューションが登場している。その一部は実際に変革をもたらすだろうが、テクノロジーが決して戦略になってはならない。戦略になるべきなのは顧客なのだ。
顧客に提供したい体験から始め、それを実現するために何が必要かを決定する。「次は何か」に対して常に好奇心を持ち続けること。他社や他業界が何をしているかに注目すること。そして、テクノロジーが顧客体験をより容易に、より便利に、あるいは単により優れたものにできるとき、それこそがテクノロジーを正しい理由で使用している瞬間なのだ。



