企業はエンタープライズソフトウェアに料金を支払い、そのうえ多くの場合、すでにライセンスを取得しているアプリケーションを従業員が使いこなせるよう、外部プロバイダーにも料金を支払っている。日常的なITリクエストでさえ、アウトソーシングされたサービスデスクへの連絡が必要になることがある。そこでは担当者が会社のガイドラインに従って問題を解決し、チケットをクローズするため、さらに費用が発生する。
ヘルスケア・製薬大手のサノフィでは、こうした反復的なコストが、同社が社内開発したエージェント型AIアシスタント「Concierge」の構想を広げる一因となった。Conciergeは当初、従業員からの会社に関する質問に答えることから始まったが、サノフィの最高デジタル責任者(CDO)であるエマニュエル・フレネハードは、同社が外部プロバイダーに委託していた業務をConciergeに実行させる機会を見いだした。
フレネハードは筆者の独占インタビューで、次のように語った。「私たちは1つのシステムから別のシステムへと飛び移っていました。各システムがプロセスの一部しか管理していなかったからです。そこで私は、もしそれらすべてのデータを1つのインターフェースに集約し、システム間の壁に制約されない新しいプロセスを作れたらどうなるだろう、と考え始めました。エージェント型AIは非常に強力ですが、同時にコストもかかります。小さな自動化ではなく、リターンの大きい領域で使うべきです」
マッキンゼーのTechnology Trends Outlook 2026によると、組織の89%がAIを定期的に利用している一方で、AIプログラムが利払い・税引き前利益にプラスの影響を与えたとする組織は37%にとどまる。同リポートは、最大の効果は従業員とAIエージェントが協働することを前提にワークフローを再設計することから生まれると論じている。サノフィはConciergeのサポート機能と購買機能を通じて、このアプローチを進めている。
同社によると、Conciergeの週間ユーザー数は6万5000人、会話数は2400万件に上る。従業員は購買申請の提出に利用し、営業担当者は顧客対応の準備に特化版を使っている。さらに、エージェント呼び出しは120万回、好意的なフィードバックは90%に達したとしている。ただし、Conciergeはサノフィにとって初のAI導入ではない。同社は2023年、Aily Labsとともに分析コンパニオン「plai」を立ち上げ、現在は2万人の従業員が毎日、社内データの分析に利用している。また、臨床試験の被験者募集を支援するため、OpenAI(オープンAI)およびFormation Bioとともに「Muse」も開発した。
エージェント型AIの能力が高まり、広く利用可能になるにつれ、企業は基盤となるソフトウェアへの支払いを実際にどこまで止められるのだろうか。AIアシスタントは従業員の依頼を処理できるが、既存のアプリケーションがなお実作業を実行するのであれば、企業は新たなAIプラットフォームに資金を投じながら、同じソフトウェア契約を更新し続けることになる。
フレネハードによると、同社の文書がわかりにくかったため、従業員は福利厚生や職場ルールについて明確な答えを見つけるのに苦労することが多かった。より良い代替策を構築することは、モデルを選ぶよりも難しいことが判明した。社名を明かしていないシアトルのテクノロジー企業が初期版でサノフィと協力したが、そのシステムは同時におよそ10件の会話が発生したところで破綻した。そのため同社は、AWSのサービスとClaude(クロード)モデルを軸に再構築し、自社の取り組みは従業員体験に集中させた。
その体験は、組織上の文脈を得るためのWorkday、サポート情報のためのSnowflakeやServiceNowといったシステムにConciergeを接続することにも依存していた。サノフィはAIを使い、ナレッジ記事をモデルが解釈できる形式へ書き換えた。このプロセスは、社内ポリシーに存在する曖昧さを人の手で解消することを強いるものだった。
フレネハードは言う。「当社は法務チームと協力し、社内のすべての手順とポリシーを整理して、単一の信頼できる情報源を作りました」。サノフィの経験は、より高速なAIサービスが、解釈に使うモデルと同じくらい、企業自身の情報の中に埋もれた複雑さを解消することに依存していることを示している。
AIをエンタープライズソフトウェアのインターフェースの先へ進める
ConciergeはAmazon Bedrock上で稼働している。これによりサノフィは単一のプロバイダーに固定されることなく、基盤モデルを切り替えられる。一方、データはSnowflake上に置かれている。Elementum AIは、まずソフトウェアライセンス管理からワークフローの実行を支援している。
Elementum AIの創業者兼CEOであるネイダー・ミハイルは言う。「サノフィは、レガシーソフトウェアの上にAIエージェントを載せても、根本的には何も変わらないことにかなり早く気づきました。データとビジネスロジックは依然としてそれらのシステムの中にあり、従業員もなおそれらに依存しています。Conciergeでは、まずソフトウェアライセンス管理から始め、そこから拡張しながら、体験の下にあるデータとワークフローを自社で掌握する方向へ進むことが目標でした」
フレネハードは、克服したい断片化の例として従業員のオンボーディングを挙げた。アプリケーションごとに業務が細分化されているため、マネジャーはサービスリクエストと人事記録の間を行き来しなければならないという。
サノフィによると、Conciergeの購買ワークフローは、申請の準備と提出に必要な時間を、従来の3日から5分未満に短縮する。従業員は見積書をアップロードし、通常の言葉で質問に答える。この5分という数字は申請提出にかかる時間を指しており、その後の購買プロセスに要する時間は含まれていない。
ミハイルは言う。「AIが1つのステップを自動化しても、その周辺で人間が同じ手作業を続けるのであれば、削減効果は消えてしまいます。サノフィの目標は、個々のタスクを速くすることではありませんでした。データ、ビジネスルール、承認、その背後にある例外対応を含め、ワークフローを最初から最後まで再設計することでした。そうして初めて、優れたデモから、本番環境で実際に持続する削減効果へと移行できるのです」
同社はまた、サポート解決の80%が人手を介さずに行われ、2025年にはサポート待ち時間に換算して2万年以上を取り戻したと報告している。顧客対応チームについては、これまでバックオフィス業務に費やしていた時間が40%削減されたとしている。フレネハードによると、現在400人の営業担当者がConcierge for Fieldを毎日利用している。同氏の事業計画では、取り戻した時間による売上増が見込まれているが、その収益増を示す証拠は提示していない。
同氏はまた、節約されたすべての時間を金額に換算することには抵抗を示す。「生産性をドル指標として定量化することはしません。定量化できるとは思わないからです」と同氏は言う。「エージェントを使ってインテークフォームを構築することは、コストをかければ可能です。もちろん、コストは常に発生します。しかし、それを監視し、試験運用すると、サードパーティーサービスのコストより低くなります。彼らにはマークアップも必要だからです。そして、サプライヤーとの体験をはるかに良いものにする形で実行できます」
フレネハードが最高財務責任者(CFO)と共同議長を務めるサノフィのAI委員会は、およそ6週間ごとに会合を開いている。同氏によると、同社は個別の活動をコストと照らし合わせて評価している。ただし同社は、Conciergeの総開発費や運用費を明らかにしていない。
サノフィがエージェント型AIに引く一線
フレネハードは、エージェント型AIには別の隠れたコストもあると見ている。単純なルールでより安く処理できる場合、企業はすべての判断についてモデルに推論させる必要はない。米国の従業員がフランスでのみ利用可能なアプリケーションをリクエストした場合、サノフィはAIモデルに同じ答えを出させるために料金を払うのではなく、そのルールを直接確認できる。
同氏は言う。「エージェントはその『ノー』を、理由を説明する上品な『ノー』に包み込みます。最終的に私たちが行うことの大部分は決定論的だと思います。エージェント型ではありません。しかし、接着剤の役割、体験レイヤーは、エージェントそのものとして始まるのです」
この区別は、エージェントが開示すべきではない情報に遭遇した場合にも重要になる。ミハイルは、初期のサポートエージェント試験で、アクセス権のない人物にシステムが非公開情報を明かしてしまった事例を説明している。ただし、関与した組織名は明らかにしていない。
同氏は言う。「それ以降、私たちはユーザー権限を自動的に継承するよう、決定論的プラットフォームを強化しました。エージェントが、あなたにその情報が必要だと判断してアクセス可否を決めることはありません。ここが、AIをめぐる議論で私たちが間違えている部分だと思います。恐れるべき問いは、モデルがタスクを完了できるかどうかではありません。モデルが何に触れることを許されているのか、そしてそれが間違ったときに何が起こるのかです」
サノフィでは、従業員の役割によって、およそ40のエージェントのうちどれにアクセスできるかが決まるとフレネハードは言う。Elementumのミハイルは、他社は1つのワークフローから始められるとしつつ、より重要なのは、そのワークフローがどう機能すべきかを誰が定義するのかだと主張する。「業界が軽視しているのは、AIは実行を自動化できる一方で、良い実行とは何かを定義するのは依然として人間でなければならないという点です」
サノフィの経験は、AIが企業とソフトウェアの関係をどのように変え得るかについて、他の企業に実例を示している。しかし、そこに到達するには、自社のルールを明確にし、改善したいワークフローを中心に外部技術を組み合わせる必要があった。エージェント型AIのより大きな可能性は、企業が自らの業務の進め方をより強く制御できるようになり、ソフトウェアが業務プロセスを自らに合わせさせるのではなく、そのプロセスに適応するようになることにある。



