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2026.10.12 17:15

新渡戸稲造『武士道』が西洋人に響いた理由 名大がAIで解明

北海道大学の新渡戸稲造像(stock.adobe.com)

北海道大学の新渡戸稲造像(stock.adobe.com)

新渡戸稲造の『Bushido: The Soul of Japan』(武士道)に著された道徳観を、心理学とAI言語モデルを使って解析するという研究が名古屋大学で行われた。新渡戸稲造の解釈による日本人的な道徳観の構造を探ると、日本特有の特殊な価値観だと思える武士道も、キリスト教文化に共通する価値観が多く含まれていることがわかり、この本が西洋で受容された理由が定量的に示された。

1899年(明治32年)に新渡戸稲造が日本古来の道徳観を世界に紹介しようと、英語で執筆しアメリカで出版したのが『武士道』だ。今では数多くの日本語訳書が出版されている。名古屋大学は、そこに書かれた道徳的特徴を道徳心理学と自然言語処理手法で分析し、キリスト教関連文献や日本文化関連文献などとの比較を行った。

7つの徳目と6つの道徳的特徴

『武士道』には、武士の道徳的価値観の構成要素として、「義」、「勇」、「仁」、「礼」、「誠」、「名誉」、「忠義」の7つの徳目が示されているが、分析により、「権威と階層への敬意」、「他者の擁護」、「平等の遵守」、「内集団への忠誠」、「応分の衡平」、「純潔・神聖」という道徳的特徴が多面的に現れ、個別の徳目だけですべてが語られているわけではないことがわかった。また、7つの徳目のなかの「名誉」が中心的な位置を占め、『武士道』の道徳的構造を全体的に特徴付ける重要な概念であることが示された。

『武士道』(オレンジの丸)とその他の書籍の文脈から読み取られる各道徳的特徴との総合的な類似性。横軸は右にいくほど類似性が高くなる。小さな点は書籍ごとの類似性。
『武士道』(オレンジの丸)とその他の書籍の文脈から読み取られる各道徳的特徴との総合的な類似性。横軸は右にいくほど類似性が高くなる。小さな点は書籍ごとの類似性。

さらにこれらの道徳的特徴が、『武士道』、キリスト教関連書籍、聖書関連書籍、日本文化関連書籍において、意味的な類似度がどれほど高いか、つまりどれだけ似たようなことを言っているかを、「文脈化構成概念表現」(CCR)という心理学研究で用いられる最新のテキスト分析手法で調査した。『武士道』でもっともスコアが高いのは当然だが、その他の文献でも、ほぼ類似した結果が示された。つまり、『武士道』で示された日本人(武士)の道徳的特徴は、キリスト教文化圏の人たちのものと、それほどかけ離れていないことがわかったのだ。

目的はあくまで道徳構造の分析と受容度の測定

この研究成果は、心理学とAIによる自然言語処理の力で道徳的観念を論ずる文章を解析し、比較できる方法が1つ確立された点にある。それを用いて、新渡戸稲造の著書『武士道』に示された「武士」の道徳観がいかにして西洋の人たちに受容されたかを調査するのが目的だ。武士道という観念にはいまだに定まった解釈がなく、分析結果をもって、これが武士道だと断言するものではなく、いい悪いを議論するものでもない。

だが文化圏は違っても、同じ人間の根底にある道徳観や価値観にはけっこう通じるものがあることを、この研究が数値的に示してくれたのは面白い。この研究がさらに進み、今度は微妙な違いが炙り出せるようになれば、異文化圏の人たちと、もっと深くわかり合えるようになれそうだ。

出典:名古屋大学 心理学とAI言語モデルで『武士道』を読み解く ~なぜ日本の名著は西洋人の心をつかんだのか?~

文 = 金井哲夫

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