リーダーシップを定義づける特徴の一つは、組織のために成果を出し続けなければならないという、絶え間ないプレッシャーだ。さらに、この期待と、それに伴うリスクの管理とのバランスを取ることも求められる。ビジネスを守りながら、好ましい結果をもたらすための適切な一連のアクションを決定することは、科学であり技術(アート)でもある。
新興技術の価値を活用することは、この課題の一例だ。こうしたソリューションは往々にして、極めて魅力的な可能性を秘めて登場するが、同時に大きな不確実性も伴う。多くの企業にとって、テクノロジーを迅速に導入して先行者利益を得たいという欲求は、多大な不確実性とリスクを受け入れることを意味する。
新興技術としての生成AIは、この点において特異であることが証明されている。すでに多くの業務分野でその価値が迅速に実証されている一方で、そのポテンシャルを最大限に活用し、新たな収益創出方法を見つけ出すよう求めるプレッシャーは、経営陣(C-suite)に強い不安を抱かせている。
AIをめぐるスピード、不確実性、期待は、従来の対処法やチェンジマネジメント(変革管理)の手法では対応しきれない可能性のある、新たな形のリーダーシップへのプレッシャーを生み出している。
高まるAIの投資対効果へのプレッシャー
マリー=エレーヌ・ペルティエ博士は、カナダのバンクーバーを拠点に活動するリーダーシップ心理学者であり、エグゼクティブコーチだ。企業でのキャリアで成功を収めた後、自身の事務所を開設。10年以上にわたり、持続的なプレッシャーの下にあるシニアリーダーたちの意思決定力、レジリエンス(精神回復力)、そして有効性を高める支援を行ってきた。
職場の人間関係の不和や、チームやプロジェクトの管理に伴う複雑さなど、従来の職場での問題についてリーダーたちと1対1で長年取り組んできた彼女は、クライアントとのセッションの中に新しいトレンドが現れ始めていることに気づいた。
ペルティエは現在、浮き彫りになっている課題の約3分の2が人工知能(AI)ビジネスに関連していると見積もっている。これは付随的な副次的要因ではない。一見すると、一般的な燃え尽き症候群(バーンアウト)のように見えるかもしれないが、問題を深く掘り下げるにつれ、AIにまつわる何らかの側面が彼らの不安の主な要因として浮かび上がっていることが明白になった。
リーダーは常に変化やプレッシャーに対処しているが、企業へのAI導入によって課される期待には、これまでとは明らかに異なる点があるとペルティエは指摘する。
AIがこれまでのテクノロジーの変遷と異なる理由
過去数十年の間に登場した数多くの破壊的技術の中でも、生成AIは別格だ。消費者もビジネスユーザーも、それができることの大きさと、それによって従来のやり方がどのように変わり得るかを実感している。その規模と世界的な普及率は目を見張るものがある。マイクロソフトによると、生成AIは現在、世界中の生産年齢人口の約5分の1に利用されている。
企業にとって、業務効率化や収益獲得の機会を促す触媒としてのAIの強力な魅力は、ビジネスリーダーたちに異例の水準の期待を引き起こしている。
経営陣やその他の管理職層は、市場、取締役会、競合他社、そして同業者から、AIを斬新な方法でどう活用するかを決定するだけでなく、それをいかに迅速に実装するかというプレッシャーにさらされている。
組織変更を管理する上での、より予測可能なアプローチに慣れていたリーダーたちは、突然、未知の領域に身を置くことになる。導入スピードに対する期待、テクノロジーの複雑さ、そして革新的なAIソリューションが実際に機能するのか、あるいは顧客がそれを本当に利用してくれるのかという不確実性によって、新たな力学が生み出されている。
ペルティエは、その結果を一種の慢性的認知過負荷と表現する。これに対処せずに放置すれば、リーダーのパフォーマンスを低下させ、身体的および心理的な悪影響を及ぼす可能性があるという。
AI時代に向けたレジリエンスの構築
AIが企業に与える影響の継続的かつ予測不可能な性質に終わりの兆しが見えないなか、リーダーは自らがコントロールできることに目を向けなければならない。
ペルティエによると、この不安を管理し軽減し始めるには、強固なレジリエンススキルを身につける必要があるという。これは、彼女が著書『The Resilience Plan』で深く掘り下げているテーマだ。ペルティエの言葉を借りれば、端的に言ってレジリエンスとは、人がどれほどのプレッシャーに耐えられるかということではなく、自らの幸福(ウェルビーイング)を犠牲にすることなく、高いパフォーマンスを発揮し続けるために、いかに要求とリソースを管理できるかということだ。
現在起きているのは、リーダーたちが過去と同じ方法で現在の要求に対処できると考えていることだとペルティエは言う。現実にはゴールポストが完全に動いてしまっているにもかかわらず、古い方法が通用すると信じ込んでいるため、燃え尽き症候群などの問題に陥りやすくなっているのだ。
ペルティエの論旨は、この新しい組織環境において、リーダーのレジリエンス能力は発達し、進化しなければならないということだ。
同時に、リーダーは誰もが懸念を提起し、前提に疑問を投げかけ、不確実性を認め合える、心理的に安全な環境を育む必要がある。
すべてのリーダーにとって最初のステップとなるのは、AIがすでに存在し、主要なディスラプター(破壊的要因)であり、プレッシャーや期待は現実のものであり今後も続くという事実を認識することだ。これが、近い将来における新たな常識(ニューノーマル)となる。
ペルティエはいくつかの無料のワークシートを提供するとともに、自身の戦略構築をすぐに始めたいリーダーへのアドバイスも送っている。彼女はこのアプローチを「60秒レジリエンス習慣」と呼んでいる。これは、朝の意図設定と1日の終わりの振り返りを中心とした、毎日の短い実践だ。
毎朝、リーダーはこれからの1日を考える時間を少し取るべきだ。そして、自分自身や緊密に連携して働く人々のレジリエンスを構築するために何をするかを決定する。たとえば、他の全員が賛成している会議の席で、ノーと言う覚悟があるかどうか、などだ。そして1日の終わりには、再び時間を取り、自分がやると言ったことを実行できたか、できなかったのであればその理由は何かを自問する。
わずか数年前には、生成AIの劇的な登場を予想できた人はほとんどいなかった。しかし、それは現実にここにあり、リーダーは驚異的なスピードでその機会と不確実性を舵取りすることを求められている。成功に必要なのは、AI戦略だけではない。この変革期を乗り切るために、リーダー自身のパーソナルなレジリエンスも求められているのだ。



