ボスを倒す。音楽が盛り上がる。画面がフリーズし、30秒のCMが流れ始める。
この場面は、マイクロソフトが今月公開した特許出願書類に描かれているものだ。この出願はRespawn Firstが最初に発見し、先日Polygonが報じた。
その数日後、マイクロソフトによる2つ目の出願についてCNETが報じた。そこには、生成AIを用いてプレイヤーごとにゲーム内容を書き換え、さらにはプレイヤーの表情まで読み取るゲームの仕組みが記述されていた。
それぞれのニュースは個別に報じられたが、これらは合わせて読むべきものだ。
筆者は25年以上にわたり、デジタル広告やアドテクノロジー(広告技術)のシステム構築に携わってきた。これら2つの文書を並べてみると、アドテクの設計者なら誰もがピンとくる仕組みが描かれている。それは、あなたが誰であるか、何を感じているか、そしていつ視線をそらす準備ができているかを正確に把握するクローズドループ(閉じたループ)だ。
出願1:プレイヤーを見つめ返すゲーム
ナラティブ(物語)に関する特許の名称は「Generative Narrative Game Experience With Player Feedback(プレイヤーのフィードバックを伴う生成型ナラティブゲーム体験)」だ。プレイヤーがゲームの世界をどのように探索し、何と相互作用し、どのキャラクターのもとに繰り返し戻ってくるかを追跡するシステムが記載されている。そして、生成AIを用いてそのプレイヤーが好む要素をさらに提供する。
プレイヤーがある地域に長くとどまると、ゲームはその場所に新しいクエストや伝承、モンスター、キャラクターを生成する。プレイヤーの関心を引けなかったコンテンツは削除されることもある。マイクロソフトの出願書類には、プレイヤーの表情や反応を測定してゲーム体験を微調整することも記載されている。
「プレイヤーはゲームの共同クリエイターになる可能性を秘めている」と出願書類には記されている。
CNETによると、この申請は6月に行われ、現在は審査中だという。しかし、Windows Forumによると、同名の米国特許「US12589308B2」が2026年3月31日に取得されており、これにはプレイヤーの許可を得た上でのカメラやマイクの信号の利用が含まれている。マイクロソフトはCNETに対し、開発中のXboxタイトルにこの技術が使用されているかどうかについての回答を避けた。
コンテンツを間引くという詳細に注目してほしい。エンゲージメント(関与度)の高いものを追加し、そうでないものを削減するシステムは、ランキングアルゴリズムそのものだ。エンゲージメント順にランク付けされたフィードが人々の注意にどのような影響を与えるか、私たちはこの10年間で身をもって学んできた。この出願は、それとまったく同じ論理を、プレイヤーが身を置くゲームの世界に適用することを説明している。
出願2:「一時停止」が広告枠になる
2つ目の出願は「Contextually Aware Management of Interactive Software Application Access(インタラクティブ・ソフトウェア・アプリケーションへのアクセスの文脈対応型管理)」と題されている。これは、Polygonが「アドクレジット(広告クレジット)」システムと呼ぶ仕組みを構築するものだ。
ゲーム開始時、プレイヤーには一定の「広告なしのプレイ時間」が与えられる。そのクレジットが切れると、ゲームはロード画面、一時停止、カットシーンの終了といった「プロモーショナルコンテンツ(宣伝コンテンツ)のトリガーイベント」を待つ。そして、プレイヤーの操作を一時的に無効にして広告を再生する。広告が終了すると操作が可能になり、クレジットがリセットされる。
Dexertoによると、このシステムはインストール型とストリーミング型の両方のゲームを対象に設計されており、PC、ゲームコンソール、スマートフォン、スマートTV、ヘッドセットなどで動作する可能性があるという。
無料のモバイルゲームをプレイしたことがある人なら、このパターンには馴染みがあるだろう。新しいのはそのタイミングだ。広告は、時間経過ではなく、ゲームエンジンからのシグナルに基づいて配信される。
筆者のキャリアにおいて、広告における最大の難題は、クリエイティブやオーディエンスではなかった。それは「瞬間」だった。筆者が構築してきたすべてのシステムは、「この人物はいつ広告を受け入れる状態にあるか」という1つの問いに答えようとしていた。この出願は、ゲーム内の状況データを用いてその問いに答えている。
誰も描かなかったループ
2つの出願書類は互いに言及していない。マイクロソフトは、これらを組み合わせる計画も、どちらか一方を実用化する計画も発表していない。
しかし、その設計を見てほしい。一方のシステムはエンゲージメントや感情をリアルタイムで測定し、それに応じてコンテンツの形を変える。もう一方は、プレイヤーのゲーム内での状況に基づいて、自然な一時停止を広告枠へと変換する。
広告業界の言葉で言えば、これは「オーディエンスデータ」「文脈データ」「配置タイミング」であり、それらすべてが外部から購入されるのではなく、製品の内部で生成されている。従来のテレビ放送にはこのようなものは決して存在しなかった。ソーシャルメディアプラットフォームは、これに類する仕組みを構築するために何年も費やし、巨額の資金を投じてきたのだ。
通貨としてのプレイ時間
このクレジットの仕組み自体、注目に値する。プレイ時間(分単位)を、プレイヤーが獲得し、消費するものとして扱っているからだ。
この構造はさまざまなプラン(ティア)に対応できる。定価を支払って邪魔されずにプレイする、低価格で支払って広告を見る、あるいは無料でプレイしてより多くの広告を見る、といった選択肢だ。動画ストリーミングサービスはすでにこの仕組みで運営されており、Xboxもそれに近いモデルをテストしている。Pure Xboxによると、現在、「Xbox Cloud Gaming」は「Game Pass Ultimate」のプレイヤーに対して月15時間の制限を設けており、広告付きプランではGame Passに加入していないプレイヤーも無料でクラウドゲームを利用できるようになっているという。
ただし、中断に関する同社の公式見解は明確だ。マイクロソフトは、現在のクラウドテストにおける広告はセッション開始前に再生され、ゲームプレイを妨げることはないと述べている。また、Xboxのチーフ・ストラテジー・オフィサーであるマシュー・ボールは、プレイを中断することは個人的に「良くないこと」だと考えていると発言したと、TechPowerUpは指摘している。
業界の過去の事例も、否定的な結果を示している。エレクトロニック・アーツ(EA)は2020年、ゲーム『UFC 4』のリプレイ場面に広告を導入したが、プレイヤーからの猛烈な反発を受けて削除した。
背景にあるもの
これらの出願は、Xboxにとって困難な時期に行われた。Polygonが指摘するように、マイクロソフトは激しい反発を受け、『アウター・ワールド2(The Outer Worlds 2)』の80ドル(約1万円)という価格設定を撤回した。また同社は7月に、1600人の人員削減を発表し、次の会計年度にかけてさらに1600人の削減を計画している。さらに、「Double Fine」「Ninja Theory」「Undead Labs」「Compulsion Games」といったスタジオとの提携も解消した。
Xboxの責任者であるアシャ・シャルマによる書簡「Next 100 Days: Xbox Reset(次の100日:Xboxのリセット)」では、年間収益の減少と進行中のハードウェア部品不足の危機が指摘されていた。
特許の出願はコストが低く、企業は防衛目的で日常的に出願を行っている。この背景があるからといって、実用化の計画が証明されるわけではない。しかし、なぜ人々がこれらの出願書類を注視しているのか、その理由は説明がつく。
マーケターが注目すべきポイント
もしこれらの仕組みが何らかの形でプレイヤーに届けられることになれば、ブランドの責任者たちは、特許には書かれていない課題に直面することになる。
同意(Consent):表情データは生体情報の領域だ。筆者がキャリアをスタートさせた欧州では、一般データ保護規則(GDPR)が生体データを「特別なカテゴリ」として扱っており、EUのAI法(EU AI Act)は感情認識技術に対して透明性の確保を義務付けている。コンテンツを形作るためにプレイヤーの表情を読み取るシステムが、広告配信システムと隣り合わせで存在するとなれば、欧州で真っ先に厳しい監視の目にさらされることになるだろう。
ブランドセーフティ(Brand safety):従来の広告配置では、広告が表示される隣のコンテンツを事前に審査することができた。しかし、生成コンテンツはプレイヤーごとにリアルタイムで作成される。わずか5秒前には存在しなかったシーンの隣で、ブランドの適合性をどのように保証するのか、その方法はまだ誰も示せていない。
センチメント(Sentiment):ボスを倒したばかりのプレイヤーは高揚しているが、10回目に死んだばかりのプレイヤーは激怒している。同じトリガーイベントであっても、そこに込められる感情は正反対であり、その矛先は広告を出しているブランドに向かうことになる。
効果測定(Measurement):アドクレジットは、異例の取引を生み出す。視聴者は、すでに料金を支払ったもの、あるいは無料で欲しかったものへのアクセスを回復するために、あなたの広告を視聴するのだ。これが能動的な関心とみなされるのか、それとも単なる「通行料」とみなされるのかは、広告主がその価値をどのように評価するかに大きく影響する。
設計図は公開された
多くの特許が実用化されることなく終わるように、これら2つの技術も日の目を見ないかもしれない。
しかし、設計図はすでに公開されている。あなたの心を動かすものを学習するゲームと、あなたが動きを止めた瞬間を検知するシステムだ。プレイヤーにとっての問いは、「そのゲームは誰のために最適化されているのか」ということだ。そしてブランドにとっての問いは、その答えが明らかになったとき、画面に表示されているのが自社の広告であってほしいかどうか、ということだ。



