現在、欧州の5カ国で「羊痘および山羊痘」が流行している。これは、人間の天然痘に似た、羊や山羊がかかる病気だ(SGPV:Sheep Pox and Goat Pox Virus:羊のみ、山羊のみ、両方に感染する株があるため総称される)。
2025年7月から2026年2月にかけて、合計1759件の感染が報告された。その内訳は、ギリシャが1549件、ブルガリアが183件、ルーマニアが21件、北マケドニアおよびセルビアが各3件だ(ギリシャは、以前の感染のピークでは、年間77件にとどまっていた)。
ギリシャでは2025年12月までに、のべ41万7000頭以上の羊および山羊が殺処分されたが、その数はその後も拡大している(家畜を処分した農家には、1頭あたり132~220ユーロが支給されている)。畜産農家は、立ち入りや移動の制限も実施している。
今回の感染の波は、トルコ国境を越えて西に進んだものだ。この伝染病が風土病として定着しているトルコは、これまでもたびたび感染の起点となってきたが、今回も同じパターンを踏襲しているようだ。
欧州食品安全機関(EFSA)が2026年2月に発表した論文によると、弱毒化した羊痘ウイルスを用いた生ワクチンを接種させれば、80~100%の確率で羊を感染から守ることができるという。例えばブルガリアのケースでシミュレーションすると、仮に殺処分に加えてワクチン接種も実施する場合は、接種を行なわない場合に比べて1年早く、羊痘を駆逐できるという。
実際には、欧州連合(EU)加盟国ではここ30年以上、羊痘ワクチンが使用された例はない。ギリシャのキリアコス・ミツォタキス首相は2026年1月、集団ワクチン接種を実施する案を退けた。その理由としては、実地での生物防護(バイオセキュリティー)が徹底していないため、ワクチンが効力を発揮する状況にない点が挙げられている(なお、ギリシャにとって、羊や山羊のミルクから作られるフェタチーズは一大輸出産業だが、ワクチン接種を行うと「清浄国」の資格を失い、乳製品などの輸出にも厳しい制限が課される恐れがあることを懸念しているとも指摘されている)。
2025年10月には、ギリシャとトルコの国境地帯で、無許可のトルコ製ワクチンをギリシャに大量に運び込もうとしたとして2人が逮捕された。こうした無許可ワクチンについては、ギリシャの獣医当局が、安全性に問題があるとして警告している。その効能は限定的な上に、ワクチン接種済みの個体と、すでに感染した個体の区別をつけることができなくなってしまうという問題もある(症状が出ないままウイルスを周囲にまき散らす状態になり、どこで流行しているか把握できなくなるリスクがあると指摘されている)。
歴史を振り返っても、家畜感染症の感染拡大を食い止めようとする人々の試みには、さまざまな障壁があった。



