家畜伝染病の対策徹底は難しい:フランスの例
パリ北部のルーヴルにあったある農園では、1658年から1888年までの約230年間にわたって、死んだ羊たちを、農園の地所内に掘った穴に埋めていた。
1801年には、パリ市警察から命令が発せられ、動物の死骸は死んだ当日に、皮や羊毛がついたままの状態で埋めるよう義務付けられた。この際、埋める穴は深さ1.34mが必要で、市の境界の外に埋めなければならない、という決まりがあった。しかし、この農園に掘られた穴の深さは60~80cmで、埋めた場所も、自宅の玄関のドアから60mも離れていなかった。埋められていた羊の歯に残されていたDNAの分析から、これらの羊の死因が羊痘であることが確かめられた。
加えて、骨の分析から、さらに衝撃的な事実が判明した。ある個体では、皮を剥いだ時に脚の骨につく傷が、通常ではありえないほど高い位置に刻まれていた。この位置で皮を切り落とすことで、羊の毛が生えている部分をまとめて剥ぎ取ることができる。そうやって剥ぎ取られた羊の皮は、一見、病気に感染していないように見える。「感染によって毛が薄くなり、あばたが目立つ脚の下の部分」を、剥いだ皮革に加えないで済むからだ。
当時から、感染した羊の皮は、羊痘の感染経路として知られていた。警察の命令で、埋めるべきものの範囲に皮や羊毛が含まれていたのもそれが理由だった。
天然痘ワクチン(牛痘接種)が人に初めて使われたのは、1796年のことだ。その後フランスの獣医は、天然痘のモデルに従って、羊痘への防御策として、羊へのワクチン接種を試みた。この実験では、大半は効果があるとの結果が出たが、これが科学界の外にまで普及することはなかった。
その後、本格的な羊用のワクチンが登場し、強制的な感染予防措置とも相まって、フランスでは、20世紀初頭に羊痘は撲滅された。つまり、厳格な移動制限とワクチン接種を組み合わせることで、自国の領土から羊痘を一掃したのだ。


