変化の激しい現代の職場において、アップスキリング(スキルの向上)とリスキリング(スキルの再獲得)は不可欠であり、筆者自身も長年にわたり新しい学習の機会を模索してきた。常に最新の知識を身につけておくことは重要だが、受講するコースや取得する資格、学位が自身のキャリアアップに役立つかどうかを従業員が推測しなければならないような状況は避けるべきだ。人材教育プログラムを検討している従業員には、明確さと方向性が必要とされている。
「学び」と「キャリアアップ」の間の乖離
筆者の会社が発表したばかりの、エドアシスト・バイ・ブライト・ホライズンズ(EdAssist by Bright Horizons)の委託によりハリス・ポール(The Harris Poll)が実施した調査研究「Education Index(教育指数)」のデータは、この課題を浮き彫りにするものだ。同調査によると、明確な社内でのキャリアアップの機会があれば、従業員の77%が現在の雇用主のもとにとどまることを希望しているという。
また、同データからは、多くの従業員がそうした機会を見いだせていないことも明らかになった。筆者の経験上、これは多くの組織が見落としている乖離である。つまり、単に学習の機会を活用するだけでは、自動的にキャリアの成長につながるわけではないということだ。従業員が行き詰まりを感じると、やがてエンゲージメント、生産性、定着率が損なわれる。
HR専門メディア「HR Dive」の最近の記事も、筆者の会社の調査結果と一致している。そこでは、従業員の59%が現在の雇用主のもとで「明確で長期的な今後の道筋」が見えていないと回答した。この記事では、雇用主と従業員の関係を、曖昧な関係を意味する「シチュエーションシップ」になぞらえている。つまり、雇用は継続しているものの、将来の見通しに確信が持てない状態だ。また、同レポートによると、従業員の32%が、不満の主な原因として成長機会の限定を挙げている。
組織が慢性的なスキルギャップと経済的な先行き不透明感に直面する労働市場において、社内流動性の重要性はますます高まっている。雇用主は、変化する人材ニーズに対応するために、もはや外部からの採用だけに頼ることはできない。社内での人材育成は、多くの場合、より迅速で、コストが抑えられ、かつ効果的である。外部からの採用は、既存の従業員よりも採用、研修、オンボーディングのコストが高くなる。一方で、社内での登用であれば、組織に関する知識や人間関係がすでに構築されているため、新しい役割に迅速に移行することができる。
従業員に必要なのは「ロードマップ」
従業員が求めているのは、単に多くの学習機会ではない。彼らが求めているのはロードマップである。重要な役割の人材不足を解消しようとしている企業において、人材教育プログラムが学びをキャリアアップの機会に直接結びつけている場合、成功につながりやすいことがわかっている。例えば、CVSは先日、薬剤師不足という社会的な課題に対応するための「プレ・ファーマシー(薬学進学課程)」のオンライン学位プログラムを発表した。プレスリリースの中で、CVSの最高薬事責任者(CPO)であるルシール・アチェッタ氏は次のように述べている。「金銭的な障壁を取り除き、薬学のキャリアへの明確な道筋を作ることで、同僚たちのプロフェッショナルとしての成長を支援すると同時に、この職種が抱える長期的なニーズを支えていく」
管理職が果たす重要な役割
もう一つの、見落とされがちな重要なパズルのピースが「管理職によるサポート」である。筆者の会社の調査データによると、従業員の83%がキャリア向上のために新しいスキルを学ぶ意欲があると回答している一方で、47%が「何から始めればよいかわからない」と認めている。
どれほど充実した学習プログラムであっても、管理職が従業員の育成に関する対話に積極的に関与していなければ、十分な効果は期待できない。従業員は、キャリア計画やスキル開発、キャリアアップの機会に関するアドバイスを、自身の直属の上司に求めることが多い。学びが管理職によるコーチングによって強化され、キャリアの道筋と一致しているとき、従業員は学習の取り組みから具体的な成果を得られたと実感する可能性が大幅に高まる。
定着を「成長」に変える方法
現在の労働環境は、雇用主にとってまたとない機会をもたらしている。従業員は「会社にとどまりたい」という強い意思を示している。前述の「HR Dive」の記事も、将来への懸念がありながらも、会社を辞めることへのリスクを感じて組織にとどまり続けている従業員が多いことを示す調査を引用している。従業員の60%は経済的な理由から、47%は慣れ親しんでいるという理由から残留している。これは一時的には定着を支えるかもしれないが、持続可能なエンゲージメント戦略とは言えない。
このギャップをうまく埋めることができれば、組織は人材教育を、単なる「福利厚生の一部」から「戦略的な人材面の強み」へと変革させることができる。何から始めればよいのか、どのスキルが重要なのか、そして学びが将来の機会にどのようにつながるのかを従業員が理解できるよう支援することで、雇用主は定着率を強化し、社内流動性を活性化させ、求められる「未来への備えができた組織」を構築することができるのだ。



