経済政策の重要な局面で、米国のドナルド・トランプ政権は市場に積極的に介入する方向へとかじを切っているように見受けられる。しかもその都度、トランプ大統領が掲げた目標と実際に取る政策との間の乖離(かいり)は広がっているようだ。同大統領の行動の多くは、達成したいと公言している目標とは矛盾しているのだ。
○ 物価を下げたいと望みながら、実際には物価を押し上げている。
○ 金利を引き下げたいと望みながら、金利を上昇させている。
○ 製造業の雇用を拡大したいと望みながら、雇用を縮小させている。
○ 世界一の経済大国である米国の地位を維持したいと望みながら、貿易相手国を他の市場に追いやっている。
○ 機会あるごとに社会主義を非難しながら、政府による米企業への出資を求めている。
○ 家計への政府支援を「雇用を奪う福祉」だと激しく非難しながら、定期的に新たな給付を約束している。共和党が議会で過半数を維持すれば、米国の成人全員に一律5000ドル(約79万円)の小切手を送ると公約した「ばらまき政策」は、その最たる例だ。
こうした失策とその結果について、いくつか掘り下げて見ていこう。
物価
トランプ大統領の政策は、企業が支出する費用と消費者が支払う価格の双方を直接的に押し上げてきた。同大統領が気まぐれに導入と撤回を繰り返す輸入関税の負担は、海外から商品を仕入れる米企業にのしかかる。その関税の一部は価格転嫁という形で消費者が負担し、残りは利益減少という形で企業側が吸収している。
米連邦最高裁判所が同大統領の当初の関税措置を無効と判断したことを受け、トランプ政権は関税を支払った企業に対する返還を進めている。だが、米シンクタンク税政策センター(TPC)によると、年間平均900ドル(約14万円)の追加費用を支払っている世帯に対し、不法に徴収された税金を払い戻す仕組みは存在しない。
イランとの紛争も物価上昇圧力に拍車をかけている。紛争開始以降、ガソリン価格は30%上昇し、ディーゼル燃料(軽油)の価格も1ガロン(約4リットル)当たり2ドル値上がりした。こうした費用は多くの場合、値上げという形で消費者に転嫁される。
金利
トランプ大統領はたびたび金利の引き下げを要求してきたが、自ら選択した政策の多くは結果的に金利を押し上げる要因となってきた。本稿執筆時点で、指標となる10年物米国債の利回りは5%近くに達しており、トランプ大統領が就任した2025年当時の約4.5%から上昇している。
その原因は、関税に伴うインフレや戦争によるエネルギー価格の高騰などが挙げられるが、現政権が自ら招いた失策のせいでもある。その1つが、連邦予算の赤字と債務の拡大であり、公的債務は現在32兆ドル(約5060兆円)に達している。うち約4兆ドル(約632兆円)は、トランプ大統領が議会で強行した2025年の減税措置によるものだ。



