スチュアート・ブランドが1994年に『How Buildings Learn: What Happens After They’re Built(建物はどう学習するか:建てられた後に何が起こるか)』を出版した際、彼は建築における基礎的な概念を普及させるのに貢献した。それは、建物はそれぞれ異なる速度で進化し、老朽化する個別の「レイヤー(層)」から構成されているというものだ。今日、企業が世界最大規模のAI施設に向けて物理的インフラを構築するなか、ブランドのこの洞察はデータセンターにも当てはまると私は考えている。
AIインフラは、過去のどのテクノロジーサイクルよりも速く進化している。コンピュートアーキテクチャが急速な進歩を続ける一方で、それを支える物理的基盤は数十年にわたって稼働しなければならない。データセンターのリーダーにとっての課題は、現在のワークロードに対応することだけではなく、AIシステムの進化に合わせて適応できるインフラを構築することにある。
現代のデータセンターにおけるレイヤー
著書の中でブランドは、建物とは異なる時間軸で機能するさまざまなレイヤーから構成される動的なシステムであるとし、「剪断レイヤー(shearing layers)」の概念について論じた。これらのレイヤーが密接に結合しすぎていると、変化の速い要素がいずれ、変化の遅い土台部分と衝突することになる。
この枠組みをデータセンターに適用すると、テクノロジーリーダーにとって重要な視点が得られる。AI施設は複数の物理的・デジタル的な層で構成され、それぞれに固有の更新サイクルがある。
1. 土木・構造・環境基盤(20年以上):これには、土地、建物の外殻、機械設備、冷却インフラ、発電・配電が含まれる。最も変化の遅い層であり、構造上の変更を最小限に抑えながら数十年の運用を支えるよう設計される。
2. パッシブ物理インフラ(10〜15年):これには、構造化ケーブル、光ファイバー経路、高密度パッチングシステム、ラック収容構造が含まれる。アクティブ機器より安定している一方で、複数世代のテクノロジーを支える必要がある。
3. アクティブなコンピュートおよびネットワークエンジン(2〜3年):これには、高性能アクセラレーター、液冷サーバー、高速スイッチングシステムが含まれる。この層は、AIワークロードの進化に伴って急速に変化する。
今日のAIデータセンターにとって重要な課題は、急速に変化するアクティブシステムと、より長いライフサイクルを持つパッシブインフラとのギャップを管理することである。
生じうる歪み
AI開発のペースは、アクティブハードウェアの更新サイクルを大きく加速させている。大規模なAI学習と分散推論ワークロードに牽引され、コンピュートアーキテクチャは24〜36カ月ごとに変わり得る。
しかし、物理インフラを同じペースで入れ替えることは、経済的に現実的でも、運用上実行可能でもない。光ファイバー経路、ケーブル、接続システムの変更は、運用を妨げ、多額の投資を必要とする可能性がある。
ここに潜在的な断層線が生まれる。パッシブインフラの設計が不十分だったり、特定世代のAIハードウェアを前提に構築されていたりすると、それが制約になり得る。数十億ドル規模のAIクラスターであっても、光ファイバー容量、接続密度、ネットワーク性能が不十分であれば、能力が制限される可能性がある。
AIワークロードがますます分散化するなかで、データセンターには、繰り返し再設計することなく将来世代のコンピュートを支えられるインフラが必要である。
学習する物理レイヤーを構築する
この課題に対応するため、データセンターは「学習する建物」として設計できる。つまり、テクノロジーの変化に合わせて物理レイヤーが適応できる施設である。
パッシブインフラ層は、複数世代のアクティブ機器を支えられるよう、当初から設計されるべきである。これは私の会社が専門とする分野であり、私はそこに3つの原則が必要だと考えている。
1. スケーラビリティ
パッシブインフラは、現在の要件のみに基づいて設計されるべきではない。高密度の光インフラや拡張可能な経路を確保することで、帯域幅、ファイバー数、接続要件の増加に伴う柔軟性を提供できる。
2. プロビジョニング
AIデータセンターの議論では電力容量が中心になりがちだが、物理的な経路容量も同じように重要である。コンピュートラックが約40キロワット(kW)からラックあたり150kW以上へと拡大するにつれ、光ファイバー密度とケーブル量は大幅に増加する。
したがって、ケーブルトレイ、経路、ダクトには、将来の拡張に十分な容量を含めるべきである。この要件を過小評価すると、後になって解消が難しく、費用のかかる制約を生み出す可能性がある。
3. モジュール化
ケーブル、光配線盤、パッチパネルにモジュール型のアプローチを取ることで、恒久的な光ファイバーインフラと、頻繁に発生するラックレベルの変更を切り分けられる。これにより、エンジニアリングチームは基盤となる光ファイバーバックボーンに手を加えることなくアクティブ機器をアップグレードでき、柔軟性が高まり、ダウンタイムを減らせる。
投資と将来の不確実性のバランス
インフラを将来に備えるには、慎重な判断と検討が必要である。初日からより高い光ファイバー容量と追加の経路を構築するには、より大きな初期投資が伴う。リーダーは、将来の要件に備えることと、すぐには利用されない可能性のあるインフラを過剰に確保するリスクとのバランスを取らなければならない。
課題は、将来のAIアーキテクチャが進化し続けることにある。光インターコネクト技術、熱管理、冷却システムをめぐる意思決定は、将来の接続要件に影響を与え得る。例えば、プラガブルトランシーバーから、コパッケージドオプティクスのような新興技術へ移行することで、コネクター規格やラック設計に影響が及ぶ可能性がある。
目的は、あらゆる場所でインフラを最大化することではなく、将来の変化が最も起こりやすい場所に柔軟性を組み込むことである。
既存のデータセンター運営事業者にとって優先すべきは、現在のパッシブインフラが将来の需要を支えられるかどうかを評価することである。実践的な第一歩は、光ファイバー容量、コネクター密度、経路の利用状況、パネル、ケーブルトレイ、収容システム内の利用可能スペースを対象とするインフラ監査を実施することだ。
リーダーはまた、ラック密度と帯域幅要件の増加見込みを評価し、次のハードウェア更新サイクルの前に潜在的なボトルネックを特定すべきである。早期に可視化できれば、組織は高額な改修で後追い対応するのではなく、制約に先手を打って対処できる。
まとめ
スチュアート・ブランドの建築に関する洞察をAIデータセンターに適用すると、パッシブインフラは日常的な調達判断から、戦略的な事業上の検討事項へと変わる。
私の経験では、パッシブインフラは歴史的に、従来型データセンターの建設予算の約3〜6%を占めていた。そのため、多くの組織はこれをコモディティ部品として扱ってきた。AI時代において、この考え方は長期的な課題を生み出し得る。初期インフラコストをわずかに節約することが、将来の技術移行時に高額なアップグレード、導入期間の長期化、運用の混乱につながる可能性がある。
スケーラブルなインフラへの投資は、新たなAIアーキテクチャをより迅速に採用するために必要な物理的柔軟性を提供する助けとなる。それにより、組織は施設の長期的価値を守りながら、将来世代のコンピュートを導入できる。
ブランドが有名な言葉で指摘したように、「速いものは学び、遅いものは記憶する」。AIコンピュートの急速な進化は、今後も性能の限界を押し広げ続けるだろう。しかし、組織がどれだけ効果的に適応し、拡張し、AIの未来を築けるかを決めるのは、よりゆっくりと変化する物理インフラの層なのである。



