経営者にとって最大の意思決定のひとつは、後継者を決めることでしょう。では、後継者は「選ぶ」ものなのか「育てる」ものなのか――。私はある大手IT企業の社長に、コーチングセッションで問いかけました。2年前、50代後半で社長に就任された方です。
実はこの問いへの答えには、多くの経営者が無自覚にとっている姿勢が透けて見えます。今回はそのセッションを振り返りながら、後継者育成について考えていきたいと思います。
公平な選考に潜む「罠」
鈴木:3年後の社長交代に向けて、この2年で「誰に経営を託すか」を決めたい、ということでしたね。2年は短いと感じますか。それとも十分でしょうか。
クライアント:とても短いですね。これまでも誰がふさわしいか、候補者のイメージは常に頭のどこかにありましたが、ここからの2年でより具体的に考えなければと思います。
鈴木:後継者は、候補のなかから「選ぼう」としているのか、それとも自らの手で「育てよう」としているのか。今はどちらに近いでしょうか。
クライアント:そう聞かれて初めて気づきましたが……「選ぼう」としていますね。候補は、私とともに歩んできたCXOクラスではなく、その次の本部長・執行役員クラスの人材です。事業、技術開発、コーポレートと、それぞれに責任を負ってもらい、そこでどれだけの成果を残せるか。短期的な実績だけでなく、中長期を見据えた布石を打てるか。ある意味、競わせているわけです。
そこで結果を出した者を選ぶことが、本人や周囲、会社にとって最もフェアで納得のいく道だと考えていました。
鈴木:つまり、社長の出番は特にない、ということでしょうか。誰が抜きん出るか、見届けるだけでいいように見えます。
クライアント:もちろん、候補者とは1on1ミーティングを行っていますし、そこで刺激も与えています。放任しているわけではありません。
鈴木:その1on1は、どの程度の頻度で行っていますか。
クライアント:月に1度か2カ月に1度の候補者が中心ですが、四半期に1度の者もいれば……正直まったく行えていない者もいます。
鈴木:候補者によって、頻度にかなりの差があるのですね。では育成というより、結果が出るのを待ち、候補者のなかから後継者を選び取るというスタンスに近いのではないでしょうか。
それ自体が良くないというわけではありません。ただ、念のため確認させてください。実績と周囲の評判を見極め、頭ひとつ抜けた者を選べばよく、後継者を育てるプロセスに社長が深く関わる必要は特にない。それで間違いはありませんか。
クライアント:そう言われると……私は後継者を「選ぶ」ことばかり考えていて、自分が「育てる」側に立つという視点をもっていなかったのかもしれません。
実績を見て後継者を決める。一見、それが当たり前で、最も公平な方法に思えます。しかし、結果が出るのを待つだけのスタンスでは、経営者が「自分にしか渡せないもの」を直接引き継ぐ機会を、自ら手放してしまうことにもなりかねないのです。



