米スポーツ用品大手ナイキの株価はピーク時から80%以上下落している。12年ぶりの安値付近にあり、配当利回りは4%を超え、世界で最も認知度の高いブランドの1つを擁している。このようなシナリオは通常、バリュー投資家がポートフォリオに空きを作り始めるタイミングだ。
筆者自身、30年以上にわたりこの投資手法を実践してきたため、その一連の流れは熟知している。優良企業が一時的に深刻な不調に陥る。市場は辛抱強さを失う。投資家は状況が落ち着いた後の利益を算出し、妥当なマルチプル(株価倍率)を適用して、十分な上昇余地を見出す。このアプローチは十分な頻度で成果を上げるため、筆者は今でも続けている。しかし同時に、悲惨な投資結果をもたらすこともある。
ここで筆者がナイキ株に対して疑問を抱く理由がある。株価収益率(PER)が低下したからといって、シューズを買う人は誰もいない。顧客は、かつて株価が170ドルを超えていたことや、最近インサイダー(内部関係者)が買い増ししたことなど気にしていない。彼らが気にするのは、目の前にある製品と、代わりに購入できる他のすべての選択肢だ。
ナイキ株は割安かもしれない。しかし率直に言って、株価の下落が何かを証明しているとは思えないのだ。
ナイキ株がバーゲンに見える理由
バリュー投資家は、価格と価値は異なるものであると学ぶ。ベンジャミン・グレアムは「安全域(マージン・オブ・セーフティ)」の必要性を説いた。ウォーレン・バフェットはその考えを取り入れ、単に最も割安に見えるものを買う手法から、より優れた企業を長期にわたって保有する手法へと徐々に移行していった。
ナイキはまさにこのアプローチに合致しているように見える。400億ドル(約6兆3200億円)を超える年間売上高、世界的な流通網、強力な知的財産、そして数十年にわたり築き上げられたブランド力。これらすべてを再現するには、そもそも再現可能であると仮定しても、莫大な費用がかかるだろう。
そして株価だ。ナイキはピーク時からその価値の5分の4以上を失った。これほど下落した今でも、同社はシューズを販売し、利益を上げ、配当を支払っている。この組み合わせを見て、市場は売られすぎだと考えるのは容易だ。おそらくその通りかもしれないが、資産の内容もまた変化している。もちろん、物理的な変化ではない。ナイキは依然として「スウッシュ(ブランドロゴ)」、その契約関係、および流通ネットワークを所有している。変化したのは、それらの資産がいくら稼げるかという点だ。
直近の四半期決算は、取り繕うのが困難な内容だった。筆者が『ナイキ株、25億ドルのコスト削減は復活ではなく「ブランド崩壊」の代償か』で書いたように、売上高は4%減の112億ドル(約1兆7700億円)となった。「Nike Direct(直接販売部門)」は為替変動の影響を除いたベースで9%減少した。デジタル部門は13%減、コンバースは28%減、中華圏(グレーターチャイナ)は26%減だった。経営陣は現在、2027年度の売上高が1桁後半のマイナス成長になると予想している。ウォール街の事前予測は約2%の減少だった。調整後の1株当たり利益(EPS)は1.15ドルから1.35ドルになる見込みで、発表前の予測である約1.67ドルを下回っている。



