ナイキの対抗策は、2031年度までに累計25億ドル(約3940億円)のコスト削減を目指す事業再構築プラン「Pace」だ。その実行には、主に人件費関連の費用として約10億ドル(約1580億円)がかかり、削減効果の多くは2029年度や2030年度まで現れない。これはいわば「死に金(デッドマネー)」のように思える。
決算発表前、筆者は『ナイキ決算、ブランド再建にかかるコストが浮き彫りになる可能性』において、ナイキの決算はブランド再生にかかるコストを浮き彫りにする可能性があると書いた。粗利益率の悪化、マーケティング支出の増加、小売業者への条件改善を予想していた。そして今、ナイキが顧客を呼び戻せていることを証明する前に、人員削減と事業構造の縮小に直面している。
この削減は遅すぎたのかもしれない。大企業は時間の経過とともにコストと官僚主義を蓄積するものであり、ナイキがその最初の例というわけではない。筆者の懸念は、投資家が経費削減を「ターンアラウンド(経営再建)」と呼び始めることだ。コスト削減は有用だ。しかし、それがオン、ホカ、アディダス、あるいはニューバランスよりもナイキのシューズを好む人が増えるかどうかを教えてくれるわけではない。
ナイキ株を評価する際に見る2つの要素
投資を検討するとき、筆者は常に2つの要素を切り離して考えるようにしている。それは「分析面での強み(アナリティカル・エッジ)」と「行動面での強み(ビヘイビアル・エッジ)」だ。
分析作業とは、大半の投資家が期待するものである。売上高、マージン、キャッシュフロー、在庫、負債、市場シェア、そしてそれらに対して経営陣がどのような計画を立てているか、といったことだ。投資家は前提条件を設定し、企業がどれだけの利益を上げられるかを判断する。ナイキの場合、この部分からは今でも魅力的な評価額を導き出すことができる。中国市場の下落が止まり、デジタル部門が改善し、新製品がヒットし、営業利益率が回復すると仮定する。そうすれば、上昇余地はすぐに現れる。
一方で、行動の側面はより耳の痛い問いを投げかける。自分はそれらの前提条件を、証拠に裏付けられているから採用しているのか、それともかつてのナイキの姿を覚えているから採用しているのか、という問いだ。
行動面での強みとは、他の誰もがやっていることを見抜くことでもある。そして、より困難なのは、自分自身も同じことをやってしまっている瞬間に気づくことだ。
ナイキというブランドには、あまりにも多くの思い入れが付きまとう。ほとんどの投資家はその製品を知っている。広告や起用されたアスリートたちの姿を覚えている。その多くは、子どもの頃から同社のシューズを愛用してきた。親しみやすさがあるからこそ、その企業が安全に感じられるのだ。しかし、それは株価の価値とは一切関係がない。
かつての高値もまた別の問題を引き起こす。株価が170ドル以上から30ドル台前半まで下落すると、リスクの大部分が去ったように感じられる。しかし、実際に去ったのは、かつての期待に対して付与されていたバリュエーションである。


