ラテンアメリカ最大手の金融機関の1つであるブラデスコ(Bradesco)は、長年にわたりAIのパイオニアであり続けてきた。同行はわずか8週間で、人間の介入なしに顧客からのリクエストの90%を解決する生成AI搭載の顧客向けチャットボットを構築した。そのため、ブラデスコが初のエージェント型決済体験を何の問題もなく立ち上げる準備が十分に整っているように見えたのは、当然のことであった。
しかし、従業員によるベータテストは、そうではないことを証明した。システムは遅く、コストが高く、安全にスケールすることができなかった。経営陣は、脆弱なソリューションを本番環境に強制的に導入して当初のスケジュールを守るか、それともアーキテクチャを再設計するかという、厳しい選択を迫られた。
彼らは現実を直視し、正直だった。リセットしたのである。それには5カ月を要したが、その決断がその後のすべての基盤を築いた。ブラデスコは現在、2200万人規模の顧客を対象に、複数の中核的な銀行体験において顧客向けAIを運用している。
このような指摘は、どのようなリーダーも耳にしたくないものだが、エージェント型AIに挑戦する企業のほとんどは、最初の導入事例を破棄することを覚悟すべきである。ブラデスコの事例が示すように、第1波は経験曲線を築き、長期的な勝利に不可欠な組織力と信頼を培うものなのだ。
このことを理解しているCEOは、そうでないCEOとは根本的に異なるAIプログラムを運営している。私の経験上、彼らは常に3つのこと、すなわち「戦略的コミットメント」「資金調達モデル」「認識論的謙虚さ(epistemic humility)」を正しく実践している。
戦略的コミットメント
多くのリーダーは、活動とコミットメントを混同している。進行中のパイロットの数、任命されたAI推進役、発行されたライセンス、SaaSツールで有効化された機能を示す。だが、これらは単なる表明にすぎない。いずれも真の戦略姿勢を構成するものではない。
本物のコミットメントとは、取締役会レベルの戦略的な賭けである。リーダーは、AIが事業の経済性と競争優位をどこで変えるのかについて明確な選択を行う。そのうえで、その選択に合わせて組織構造と人材戦略を再調整する。表明とコミットメントの違いは、プログラムの資金調達方法において特に顕著に表れる。
資金調達モデル
プロジェクトレベルで単年度のROI(投資対効果)の正当化を求めるAIプログラムは、水面下でプログラム全体を損なうことになる。チームは、競争優位性を築くための困難なユースケースを避け、正当化しやすい容易なユースケースを選ぶようになる。問題は取り繕われるか、修復コストが高くなるまで隠蔽される。組織は、財務的な仮説を検証することよりも、それを擁護することに汲々とするようになる。
先進企業は、ポートフォリオレベルでの説明責任を課している。投資は事前に一括して確約されるのではなく、テストによって経済的メリットが実証されるにつれて、重要な意思決定ポイントごとに段階的に行われる。また、リーダーは、エージェントによって解放された労働力と資金の再配分を積極的に管理し、それらを次世代の機能へと再投資する。そして最終的には、自社のAIプログラムを動的なポートフォリオとして扱い、得られた教訓に基づいて積極的にリバランスを行う。
この資金調達モデルこそが、誠実なテストと方向転換(ピボット)を可能にする。ブラデスコのような企業が、エージェントをスケールアップする前にアーキテクチャをリセットできたのはこのためだ。しかし、このようなリセットは、CEOが真実を受け入れる意志を持って初めて可能になる。これが、3つ目の要素へとつながる。
認識論的謙虚さ
バークシャー・ハサウェイの故副会長チャーリー・マンガーは、ジェイソン・ツヴァイクが言うところの「認識論的謙虚さ、すなわち、人間がいかに多くを知り得ないか、そして心を開いて考えを変えることがいかに重要であるかに対する深い自覚」を持っていた。マンガーは自身の前提や結論を疑うことで、自らの優れたアイデアを定期的に精査し、容赦なく切り捨てていた。
「自分が何を知らないかを知ることは、優秀であることよりも役に立つ」とマンガーは述べていた。
強い認識論的謙虚さと内発的動機づけを持つ経営幹部は、デジタル分野への洞察力も高いことに私は気づいた。彼らは純粋な好奇心を持ってAIについて学ぼうとする。そして、組織全体のトーンを決定づけ、人々が早い段階で失敗を報告し、迅速に方向転換できる環境を整える。
私とアンドリュー・ン(Andrew Ng)がポッドキャスト番組「Winning with AI」でIBMのCEOアービンド・クリシュナと対談した際、彼は同社の初期のAIジャーニーにおける2つの失敗例を率直に明かしてくれた。彼は、人々が信頼や専門知識を構築するのを支援する部分的なコンポーネントではなく、モノリシック(一体型)な垂直統合型アプリケーションを構築してしまった決定や、IBMが顧客関係や規制に関する知識、臨床の専門知識を欠いていたヘルスケア業界において、そのモノリシックなアプローチを適用してしまった決定について語った。これらのエピソードを共有することで、クリシュナはAI変革を率いるCEOにとって謙虚さが必要不可欠であることを身をもって示し、語ったのだ。
「3年間続けて凡庸な結果に終わるよりも、6カ月の時点で間違いを認める方がはるかに良いと思う」とクリシュナは語った。
エージェント導入の第1波は、おそらく失敗に終わるだろう。しかし、リセットの必要性は失敗ではない。リセットすることを拒むことこそが失敗なのだ。第2波で勝利を収めるリーダーとは、最初の取り組みが常にそのための準備段階にすぎなかったことを、最初から理解している人たちである。



