しかし、プライス投手は少なくともサイ・ヤング賞に選ばれた実績を持つ選手だ。昨シーズン、アメリカンリーグの投手の中でも一番多くの出塁を許してしまったジェフ・サマージャは来年に向けて、全米プロバスケットボール協会(NBA)のステフィン・カリーやケビン・デュラント、NFLのエイドリアン・ピーターソンよりも高い9,000万ドル(約108億4,300万円)5年間の契約を勝ち取った。
これは一体どういうことなのか?
ここ数年、球界における年俸の高額化をいっそう激化させる出来事が連続してきている。MLBは全国的な支配権を失っているかもしれないが、ここまで経営が好調だったことはない。
飛躍的な収益の伸び
2015年のMLBの収益は15年連続で拡大した。当SportsMoney欄で Maury Brownが先に報じた通り、MLBは2014年より5億ドル上回る約95億ドル(約1兆1,450億円)の収益を記録した。MLBの各フランチャイズの価値は平均で現在12億ドル(約1,450億円)をつけている。
この巨額資金流入の最大の理由は、様々なメディアに対する放映権料だ。FOXとTBSとの124億ドル(約1兆4,900億円)のテレビ放映権契約に加え、近年多くのチームが独自で10数億ドル(1200億円程度)のテレビ契約を取り付けている。
この一連の動きの中でも最も注目されるのが、ケーブルテレビ大手タイム・ ワーナー・ケーブルと、地域向けスポーツ専門局「SportsNet LA」を共同設立するために、ロサンゼルス・ドジャース が期間25年、総額83億5,000万ドル(約1兆60億円)で2013年に交わした契約だ。このテレビ局は、タイム・ ワーナーと他のケーブルテレビ局の契約が成立していないことからロサンゼルス地区の7割の世帯で視聴出来ない状態だが、契約金は滞りなく入って来る。昨シーズン、ドジャースの年俸総額が3億ドル(約361億円)を超えた。
ドジャースは、MLBの中でも最高の32億ドル(3,855億ドル)の資産価値を持つニューヨーク・ヤンキースよりも多く、選手に報酬を支払っている数少ない球団だ。ヤンキースのテレビ放映権は全体で77億ドル(約9,277億円)だ。
しかしこれは、現在のマスコミ業界の状況を巧みに利用している市場規模の大きい球団に限った話ではない。テレビが提供するコンテンツにおいて、ほぼ間違いなく、一番価値が高い存在としてプロスポーツが挙げられるようになった。12月4日に、アリゾナ・ダイアモンドバックスと、6年で総額2億600万ドル(約248億円)の契約を交わしたザック・グレインキー投手は、今年初めテレビ局と15億ドル(約1807億円)の契約を結んでいる。セントルイス・カーディナルス、フィラデルフィア・フィリーズ、テキサス・レンジャーズ、ヒューストン・アストロズ、サンディエゴ・パドレスの以上5球団は、この5年間で数十件の放映権を勝ち取っている。
テレビの放映権の他に、MLBの収入源として、オンラインビジネスの安定した存在感を挙げることが出来る。無名の大手ウェブサイト運営会社「MLB Advanced Media」は、合計90億ドル(1,084億円)に達した2014年におけるMLB全体の収益において、その9%以上を稼いでいる。
収益分配制度
前MLBコミッショナーのバド・セリグが、2002年にMLBの収益分配制度を変更した時、収益の少ない球団が、大きな市場を持つ他の球団に負けないための後押しをすることが、その目標だった。この制度改革は、10年余りで実に大きな効果をもたらした。
MLBに加盟する全球団から、それぞれの純収入のうち31%を集め、全30球団の間で均等に分配する。それに加え、MLB機構が持つ基金を、各球団の収入を基に計算された一定の割合で割り付けするという方法もとられている。
この制度により、シーズン開始時に、収益の少ない球団が入場券を1枚も売っていないのに、また営業権契約を1件も取れていないのに、黒字発進出来るという現象が起きている。例えば、ダイアモンドバックスはこの3年間で、収益分配制度により約800億ドル(9兆6,385億円)受け取っている。グレインキー投手獲得にこの分配金の一部が使われたことは間違いないだろう。
年俸の暴騰に歯止めをかける「サラリーキャップ制度」がないMLB
構造的に見て、MLB選手の報酬が上がり続ける最大の理由は、おそらく「サラリーキャップ制度」が導入されていないことだ。規定された金額を超える給料を払っている球団は贅沢税を支払わねばならないが、選手が喜ぶ金額をそのまま出していいことになっている。
NFLやNBA、北米プロアイスホッケーリーグ(NHL)では、サラリーキャップ制度がこれを防いでいる。NBAでは現在、選手との契約額が2290万ドル(約27億6,000万円)を超えてはならないとしている。ちなみに今年この額を上回る契約をした野球選手は14人いた。
今後フリーエージェント制が導入されることを考えれば、契約額はどんどん高くなっていくだろう。