OpenAIは2026年2月、ChatGPTの週間利用者は9億人を超え、そのうちの900万人超が有料の法人向けプランの利用者だと明らかにした。これだけの規模になれば、モデルが個々の会社ではなく、平均的な利用者を満足させるように調整されているのは、ほぼ間違いない。ChatGPTの助言が、特定の誰かに向けたものではなく、どこからか借りてきたように感じられるのは、まさにこの規模のためなのだ。
創業者がChatGPTから一般論ばかり返されるのは、モデルに個別の事業について考える力がないからではない。人間の評価をもとにAIの回答を調整する「人間のフィードバックによる強化学習」(RLHF)によって、何百万もの会話を通じて、平均的な評価者に好まれる回答を出すよう訓練されているからだ。解決策は、「カスタム指示」とChatGPTの「プロジェクト」、そしてモデルに推測させるのではなく、事業の実情をそのまま渡すプロンプトにある(ただし、自社外に出しても構わない情報かどうか、よく確認・検討すること)。
幅広い評価者好みの無難な答え・一般論を学習したChatGPT
回答が一般論になるのは、不具合ではない。どこの誰ともわからない相手に向けて振る舞うよう、OpenAIがモデルを作った、その狙いどおりの結果だ。
訓練の過程では、人間の評価者がChatGPTの複数の回答を比べて順位をつけ、その結果から「報酬モデル」が、人がどの回答を好みやすいかを予測できるよう学習する。この報酬モデルについては、OpenAIがInstructGPTについて発表した研究論文(2022年。ChatGPTにも使われた訓練手法をまとめたもの)に詳しい。報酬モデルは、特定の読み手の事情ではなく、幅広い評価者の集団を満足させる回答を目指すように作られている。
新しいチャットで「スタートアップを成長させるにはどうすればいいか」と尋ねても、モデルには、質問者が3人でSaaS企業を営んでいるのか、1人でコンサルティング業を営んでいるのかがわからない。そのため、誰の気にも障らず、おおむね正しいといえる答えに落ち着く。具体的な事業の相談にChatGPTが一般論で答えるのは、このためだ。似た質問をしてきたすべての創業者を相手に、最も外れにくい答えを選んでいるのである。
コンテキストウィンドウ(AIが1度に読み込んで参照できる情報の範囲)の仕組みも、この問題に拍車をかける。その会話の中で自分が何者かを伝えない限り、ChatGPTは毎回ゼロから始める。モデルが読める場所にはっきり保存しておかない限り、事業がどの段階にあるのか、トラクション(顧客や売り上げが実際に伸びていることを示す実績)はどうか、どんな制約を抱えているのかを、会話をまたいで把握していることはない。
一般論の裏にある「統計的な平均化」
大規模言語モデルは、それまでに読み込んだ内容をすべて踏まえて、次に来る確率が最も高いトークン(AIが文章を扱うときの単位で、単語や単語の一部にあたる)を予測する。事業についての何百万もの質問を積み重ねると、統計的に最も無難な答えは、あらゆる答えを混ぜ合わせたものになる。「顧客をよく知れ」「もっと価値のあるコンテンツを発信せよ」といった助言がやたらと出てくるのは、そのためだ。これが確率的な平均化の実際の姿であり、具体的な事業の情報を何も読み込ませていないシステムプロンプト(AIの振る舞いを決めるために、会話の前に与えておく指示)から、そのまま出てくる結果である。
AIに段階を追って考えさせる「思考の連鎖(chain-of-thought)プロンプティング」が、多くの人が思う以上に創業者にとって重要なのも、同じ理由からだ。漠然とした自由回答型の質問をする代わりに、顧客維持率、バーンレート(毎月どれだけ資金が出ていっているか)、今の顧客層といった実際の数字を示し、それを1歩ずつ順を追って検討するようChatGPTに求めるとする。そうすれば、回答を統計的な真ん中から引き離し、本物の分析に近いものへと向かわせることができる。AIに特定の役割を与えて答えさせる「ロールプロンプティング」(role prompting)も、同じように働く。「私の指標を確認する、シード期(創業初期)のBtoB向けSaaS企業の顧問として」答えるようモデルに伝えると、ただ質問するよりも、次に選ばれるトークンの範囲が、学習データのなかでもずっと狭く、関係の深い部分へと絞り込まれる。
だからといって、モデルが知性を装っているわけではない。初期状態のモデルは特定の誰かに向けて作られてはおらず、具体的な情報を持ち込む役目は、入力する人の側にあるということだ。



