これまでのところ、目立った混乱もなくこの壁は乗り越えられており、投資適格債のスプレッドは20年ぶりの低水準付近で推移し、保険会社、年金基金、海外の買い手からの安定した需要が過去最高の発行額を吸収している。しかし、その平穏には代償が伴う。新たな借入の多くは、AIデータセンターの構築に資金を投じるひと握りのハイパースケーラー(大規模クラウド事業者)によって牽引されており、ロールオーバー(借り換え)リスクが市場の狭い一角に集中している。この領域がストレス下でどのようなパフォーマンスを示すかについての前例はほとんどない。JPモルガン・チェースのジェイミー・ダイモンCEOは今年初め、この不安を捉え、「何らかの債券危機が起こるだろう」と警告した。
IIFの報告書は、財政赤字への懸念から、投資家の行動やアセットアロケーション(資産配分)が米国債から欧州や日本の国債へとシフトしていることを指摘している。主要経済国における財政赤字は高水準にとどまっており、日本、米国、ドイツ、中国で2026年に開始される予定の大規模な財政刺激策は、今後さらに政府の借入と利払い費が重くなることを示唆している。
国際緊急経済権限法(IEEPA)に基づいて課された関税に関する米国最高裁判所の判決が控えていることも、さらなる不確実性をもたらしている。仮に最高裁がその権限を否定した場合、政権が関税の代替となる法的根拠を見出さない限り、米国の財政圧力は著しく悪化する可能性があり、通商政策や発行体心理にも連鎖的な影響を与えることになる。新興国市場にとって、借り換えの負担はハードカレンシー(国際決済通貨・主要先進国通貨)資金への継続的な依存によってさらに増大している。9兆ドル(約1420兆円)の償還負担により、借り手は通貨下落や、現時点では供給の吸収を支えているキャリートレードの巻き戻しリスクにさらされている。
資本市場と金融の安定
大量の発行が行われているにもかかわらず、緩和的な金融環境とハイイールド債やシンジケートローンにわたる強いリスクアペタイト(投資意欲)が、システム的なストレスを一時的に抑え込んでいる。しかし、長期的な金融の安定は、世界的な経済成長が増加する借入コストと歩調を合わせられるか、また短期的なリスク管理において金利スワップへ過度に依存している状況に対応できるかどうかにかかっている。
その平穏は、銀行と、プライベートクレジットファンド、プライベートエクイティ、生命保険会社、ヘッジファンドなどのノンバンク金融機関(NBFI)とのつながりの深化によって、部分的に支えられている。米国の銀行によるNBFIへの融資は、現在、銀行の融資ポートフォリオの約15%を占めており、2021年の11%から上昇している。このつながりは、過去のサイクルよりも、規制下にある銀行システムと不透明なシャドーバンキング(影の銀行)部門との間で、ストレスをより直接的に伝播させる。
投資適格債のスプレッドは78ベーシスポイント付近と、過去20年間で最も縮小した水準にあり、市場はトラブルの可能性をほとんど織り込んでいないことを示唆している。しかし、これ自体がリスクである。このように圧縮されたバリュエーション(価格評価)では、経済成長が期待外れに終わったり、インフレが粘り強く推移したり、あるいは地政学的ショックによって信用が突然再評価されたりした場合、クッションがほとんど残らない。デュレーションや資金調達のミスマッチを管理するための金利スワップの普及は、さらなる相互連関の層を加えている。金利が急激に変動した場合、同様のヘッジに依存している機関の間で担保請求(コール)が一斉に引き起こされる可能性があるためだ。
結論
世界の債務が世界GDPの305%を超えている現在、IIFが本質的に伝えているメッセージは、今日の安定は「条件付き」であるということだ。それは、経済成長が維持されること、中央銀行がインフレを再燃させることなく緩和を実施すること、および投資家が過去最高規模の供給を懸念せずに受け入れ続けることに依存しており、そのどれか一つでも最初に崩れかねない。総合すると、借り換えの壁とそれを吸収するために市場が良好な環境に依存していることは、システムのどこか一角で生じたショックが、銀行、NBFI、借り手全体へ急速に伝播する可能性があることを意味する。そうしたショックの例としては、米国債の無秩序な売り浴びせ、AI関連の借り手のつまずき、あるいはソブリンリスクの突然の再評価などが考えられる。これほど莫大な債務を抱えた状態でのそうした事態は、前例のない規模で金融システムを試すことになるだろう。


