AIのチェンジマネジメント戦略では、従業員が抵抗することを前提としがちである。そのため、トレーニングやコミュニケーション計画、導入ダッシュボードなどを用いて、従業員を巻き込むことが実際の業務となる。しかし、その前提は本末転倒である。
職場のAIに関するマッキンゼーの調査では、「拡大への最大の障壁は従業員(彼らは準備ができている)ではなく、舵取りのスピードが遅すぎるリーダーである」ことが明らかになった。従業員の47%が1年以内に日常業務の3分の1以上でAIを使用するようになると考えているのに対し、そう考えるリーダーはわずか20%にとどまった。ボストン コンサルティング グループ(BCG)の調査も同様の傾向を示している。AIの取り組みを頓挫させる要因の約70%は、テクノロジーではなく、人とプロセスである。
その頓挫を引き起こしているのは、現場の従業員ではなく、会議室で意思決定を行っている当事者であることが多い。
私はフォーチュン500企業を含む組織の上級指導部内で25年間を過ごし、なぜこうしたことが起きるのかを見てきた。これは、腕を組み、顎を強張らせ、目に見えて身構えるといった、私たちが通常イメージするような「抵抗」ではない。もっと静かで、見抜きにくい。なぜなら、それはまったく抵抗には見えないからだ。むしろ自信に見える。
具体的な実態
ある案件が、この状況を具体的に示している。組織名は伏せるが、数字は事実である。そのビジネスケースでは、既存の予算に埋もれさせるのではなく、取締役会に対して主張した200万ドル(約3億1600万円)の個別投資項目に裏付けられ、10%から12%の効率向上が予測されていた。その額の承認を得ること自体がリスクであったが、組織はそのリスクを取った。
パイロットは実際に成果を上げた。ただし、ビジネスケースが約束していたもののごく一部にすぎなかった。その差こそが、プログラムが停滞した地点であり、停滞には明確な理由があった。この施策を推進してきた人々は、その成功に深く関与しすぎていたため、不足分を表に出す当事者にはなれなかった。それをすれば、自分たちが取締役会に対して行った説明を自ら弱めることになるからだ。ギャップが見えていた他の人々にも、会議の場がすでに信じると決めた前提に異議を唱える勇気はなかった。
その組織は、実証されていないアイデアに200万ドル(約3億1600万円)を投じるリスクを取った。しかし、そのアイデアが機能していないと言うために、自分自身の立場を危険にさらそうとする人はいなかった。誰も妨害しなかった。誰もノーとは言わなかった。2階層下の全員には、なぜ停滞しているのかがはっきり見えていた。残念ながら、その投資を承認した人々には見えていなかった。そして、その認識がなければ、ギャップを埋めることも、別のアプローチを試すこともできない。投資は帳簿上に残り、形式的には動いていたが、実際には何も前進していなかった。
誰も名指ししない盲点
組織の地位が高くなればなるほど、他者から判断を疑問視されることは少なくなり、自分自身でそれを疑うことも少なくなる。何十年にもわたり正しかったという経験が、自分の直感が依然として健在であることの証明になってしまう。そこにAIが登場し、人間の判断が生み出すものと、モデルが90秒で提供するものとの間のギャップを縮め始める。
多くのリーダーは、これを単なるテクノロジーの移行とは捉えない。むしろ、自らのアイデンティティに対する脅威として経験する。そうなると、自己概念は検証されるのではなく、防衛されるようになる。その結果、経営陣が自らの判断がかつてのような差別化要因であり続けているかをオープンに検証する代わりに、組織では意思決定の遅れ、決してスケールしないパイロット、そして取締役会で承認されながらも2階層下で頓挫する展開といった、暗黙の停滞が生じることになる。問題は、従業員がツールを避けていることではない。リーダーたちが、それらのツールが自分たちの存在意義にどう影響するのかを理解していないことだ。
これは戦略の問題ではなく、リーダーシップの慣性である。鏡の問題であり、多くのシニアリーダーは立ち止まって鏡を見ようとしない。
その代償は測定可能である。マッキンゼーによる最近のグローバルAI調査によると、AIが何らかのEBIT(利払い前・税引き前利益)への影響をもたらしているとする組織はわずか37%であり、EBITの5%以上をAIのおかげだとする組織はわずか6%であった。インフラやユースケースの不透明さがそのギャップの一部を説明している。しかし残りの原因は、リーダーが自ら進んで好奇心を持ち、公の場で間違いを認めようとしないにもかかわらず、チームに対してはそれらを要求していることにあると私は考えている。
経営幹部が取るべき対策
AIの取り組みをパイロット段階から先へと進められるリーダーと、そうでないリーダーを分ける3つの行動があることが分かった。
1. まず1つの実際の意思決定をモデルに通す。今四半期に判断を要する既存プロジェクトを1つ選ぶ。モデルの答えと自分の答えがどこで分かれるかを確認し、そのうえで同僚、取締役、または外部アドバイザーと面談し、なぜAIの推奨を覆すのかを話し合う。
2. 誰がすでにギャップに気づいているかを尋ねる。組織のどこかには、そのツールがあなたの仕事の一部をあなたよりうまくこなしていることを、すでに知っている人がいる。あなたの自信は、その事実にまだ追いついていない可能性が高い。率直にこう尋ねるべきだ。「私はどこでツールより遅れているのか。そして、誰がそれに気づいているのか」
3. 求める行動を自ら手本として示す。導入の規模が拡大するのは、チームが、資金を提供して立ち去るリーダーの姿ではなく、自らの誤りを認めて軌道修正する姿を見たときである。
これらを実行するリーダーは、AIの取り組みをパイロット段階から進展させることができる。そうでないリーダーは、自身の2階層下で取り組みが頓挫する「静かな要因」となることが多く、その状況は会議室にいる全員に見えているにもかかわらず、最も見るべき本人だけが見えていない。
AIの導入が停滞するのは、カルチャーのせいではない。リーダーが自分以外の全員に変化を求め、自分自身の変化を拒むからである。



