急速に変化する世界では、物事が速く進むほど、失敗の可能性も高まる。その結果、新任リーダーは一歩踏み出すことをためらうかもしれない。変化に対応するだけでなく、自ら変化を生み出すことに伴うリスクを引き受けるのが難しいと感じるためだ。マッキンゼーが指摘したように、「人間の本性を考えれば、失敗しても安全だと本当に信じられない限り、リスク回避(さらには恐怖)が人々の行動を支配する」のである。
実験とイノベーションから生じる失敗は、恐れるべきものではない。むしろリーダーは、成長マインドセットを促し、慢心や、変化の触媒となることへのためらいを防ぐ環境を整えなければならない。
この考え方は組織だけでなく、私たち自身のキャリアにも当てはまる。ごく最近、私のMBAの学生の1人が、自社内で部門を異動することに同意したと話してくれた。しかし、その任務を引き受けた後になって迷いが生じ、新しい役割で成功できるかどうか不安を口にした。「今一緒に働いている人たちは、私よりはるかに多くの知識を持っています」と彼は私に言った。「自分はこの仕事で失敗するかもしれない、という気がするのです」
私の助言は、自分を信じることだった。彼がこの新しい役割に選ばれたのには理由があり、彼が新たな任務にもたらすリーダーシップスキルは、その部門の運営に関する細かな知識よりも重要である。彼はより大きな視点を見失うべきではなかった。私は彼にこう説明した。「あなたには素晴らしいキャリアがある。起こり得る最悪の事態は何だろうか。もしこの新しい役割が自分に合わなければ、いつでも戻って以前の仕事をすればよい」
新しいことやこれまでと異なることに挑むとき、リーダーは自分自身とチームにこのような許可を与える必要がある。重要なのはバランスである。失敗の影響を最小限に抑えながら、そこから得られる学びを最大化することだ。
失敗から学ぶ
今日のリーダーにとって、より大きなイノベーションを促す健全な環境を育むことは不可欠である。それがグローバルサプライチェーンの転換であれ、人間にとって意味のあるAI戦略の導入であれ、同じことだ。
役立つ4つの視点を紹介する。
1. 挫折を想定する
もちろん、製品展開、事業拡大、買収に臨む際に、誰も失敗を前提にするべきではない。しかし、一定の挫折、遅延、障害は想定しておくべきである。若いリーダーだった頃、私はこの教訓をウィリアム・グラハムから学んだ。彼はバクスター・インターナショナルの長年のCEOであり、私は同社で20年以上のキャリアを積み、最終的に会長兼CEOを務めた。グラハム氏は、失敗は成長の一部だと認めたうえで、2つの重要な点を強調していた。「第一に、失敗したときは、その失敗を繰り返さないよう多くを学ぶこと。第二に、失敗するときは、できるだけ早く失敗することだ」
2. 意味のある目標を設定する
失敗からできるだけ早く学ぶというグラハム氏の助言を実践する方法は数多くある。その一例が、達成すべき具体的な目標を盛り込んだ月次計画を立てることだ。新たな取り組みに月1000万ドル(約15億8000万円)、年間で合計1億2000万ドル(約190億円)の投資が必要だとしよう。計画を実行に移すと、最初の1000万ドル(約15億8000万円)と最初の1カ月はあっという間に過ぎるが、成果は何も出ない。さらに2カ月が経過し、追加で2000万ドル(約31億6000万円)を投じても、遅れが増すだけである。プロジェクトが目標を下回るなか、経営陣には2つの選択肢がある。1つは、毎月1000万ドル(約15億8000万円)を使い続けながら、好転を期待し続けることだ。しかし、損失が大きくなり、進捗の遅れが長引くほど、状況を立て直すことは難しくなる。
2つ目の、より能動的なシナリオでは、毎月何を達成すべきかについての基準をあらかじめ設定する。月ごとに、遅延の理由を特定し、理解する。3カ月が経過し、3000万ドル(約47億4000万円)を投じた時点で判断を下す。ここまでの結果に基づき、その取り組みを終了し、残りの9000万ドル(約142億円)を別の用途に振り向けるかもしれない。一方で、初期の失敗から非常に多くのことを学んだ結果、プロジェクトが成功するという確信が以前より高まっている可能性もある。その場合、投資ペースを倍増させ、プロジェクトを加速し、年末ではなく9月までに立ち上げるという判断を下すこともできる。
3. 個人としてのレジリエンスを築く
失敗に直面することは、自信を揺るがす謙虚な経験になり得る。だからこそ、私が提唱する価値観に基づくリーダーシップの原則の1つである真の自信が、レジリエンスを強めるうえで重要になる。真の自信とは、自分自身をありのままに見つめ、受け入れることを可能にする内面的な資質であり、自分ならではの強みと欠点の両方を認識することを意味する。時間をかけて培われる真の自信は、避けられない挫折に直面しても、将来を損なうことなく粘り強く進む助けとなる。
真の自信は、リーダーとしてのあなたも助ける。自分の強みを認識すると同時に、自分には知識がない領域で専門性を持つ他者の価値も理解できるようになるからだ。何年も前、私がバクスターの社長だった頃、最も優秀な財務マネジャーの1人が、部門長にならないかと打診されたと相談してきた。彼は自分の経験が財務に限られていることを懸念し、私の助言を求めていた。どうすれば部門を率いることができるのか、と。「ゼネラルマネジャーとして生まれてくる人はいない」と私は彼に説明した。「誰もが何らかの職能から出発する」。彼は自らの財務の専門性に真の自信を持つことで、部門にもたらす自分の専門知識を認識しつつ、具体的な問題や課題に対処するために、他者とその知見に頼ることができた。
4. 非難ではなく内省する
私たちは皆、何らかの挫折に直面する。望んでいた昇進が実現しないこともあれば、自分が最もふさわしい候補者だと思っていたにもかかわらず、別の人がその職を得ることもある。レイオフされることも、解雇されることすらある。こうした不本意な出来事が起きたとき、最善の行動は、その経験に含まれる教訓を見極めることだ。残念ながら、多くの人はその逆をする。すぐに自己憐憫に陥り、誰かを責め始めるのである。そして自分自身に、あるいは耳を傾けてくれる誰かに、「一生懸命働いたのだから昇進すべきだった」とか、「解雇されるのは私であるべきではなかった」と言い聞かせる。
ここで大いに役立つのが、私の価値観に基づくリーダーシップの基礎原則である内省だ。自分に問いかけてみるとよい。自分は正しいことをしようとしていたか。与えられた時間の中で最善を尽くしていたか。何を違った形でできただろうか。こうした気づきがあれば、解雇されたり昇進を逃したりした結果は、失望を伴うものであっても、前に進む力に悪影響を及ぼすことはない。実際、内省があれば、勇気、尊厳、誠実さ、楽観をもって向き合えないものは何もない。
一部の取り組み、プロジェクト、実験は障害に直面し、一部は開始早々に失敗するだろう。重要なのは、その次に何をするかである。試み、失敗し、調整し、前に進む。このプロセスを通じて、新任リーダーにとって失敗は学びとなり、その学びが改善につながるのである。



