リーダーという存在が生まれて以来、彼らは常にあるジレンマに悩まされてきた。それは、「同時に複数のことはできない」ということだ。現代のビジネスは複数の州や国にまたがって展開していることが多く、社内のあらゆる役職の従業員が指導を求めており、その一方で、多種多様な重要業務を滞りなく進める必要がある。一人のCEOがそのすべてに自身のカラーを反映させるのは困難だ。
しかし、AIを活用すれば、一人のCEOとしての限界を超えて影響力を拡大できる。ビジネスリーダーたちは、報告書、電子メールやメモ、調査資料、プレゼンテーション、SNSの投稿、ポッドキャストや動画、執筆した成果物といった自身の記録を取り込み、独自のLLM(大規模言語モデル)を構築することで、自身のデジタルツインを作成している。デジタルツインがあれば、世界中のどこにいる従業員でも、厄介なメールの最適な文面についてCEOのアドバイスを仰いだり、企業文化の指針に沿った取り組みを考案したり、請負業者と交渉する前に今年の最優先ビジネス目標5項目を再確認したりできる。
13の州に事務所を構える人身傷害法律事務所マクレディ・ロー(McCready Law)のオーナー兼マネージングパートナーであるマイケル・マクレディは、事務所全体に自身のリーダーシップを行き渡らせるためにデジタルツインを作成した。筆者はその仕組みについて彼に話を聞いた。インタビューの抜粋は本ニュースレターの後半に掲載している。
それでは、また次回。
経済指標
市場を注視していた人々にとっては驚くべきことではない決定だが、米連邦準備制度理事会(FRB)の連邦公開市場委員会(FOMC)は先週、0.25ポイントの利上げを全会一致で決定し、政策金利の誘導目標を3.75〜4%に引き上げた。FRBによる利上げは2023年以来初であり、トランプ大統領が指名したケビン・ウォーシュFRB議長にとっては就任後初の利上げとなる。米労働統計局によると、8月のインフレ率は7月と同じ3.4%にとどまり、FRBが目標とする2%を大きく上回っていることから、多くの有力アナリストは今回の利上げを既定路線とみていた。会合後の記者会見で、ウォーシュは今回の措置が「物価の安定」をもたらすと述べた。
予想通り、利下げのペースが遅いとしてFRBを一貫して非難してきたトランプは、今回の決定に不満を募らせた。SNSのトゥルース・ソーシャル(Truth Social)の投稿で、トランプは「米国は世界で断トツに最高の信用力を有しているため」、米国の金利は1%以下であるべきだと主張した。さらに、米国は「新規投資で活況を呈している」と付け加えた。しかし、フォーブスのシニアコントリビューターであるビル・コナーリーは、トランプの望みが近いうちに叶う可能性は低いと書いている。インフレ率は高止まりしており、主にAIのインフラ開発資金を調達するために世界的な借り入れが増加しているからだ。コナーリーは、2028年までに合計1ポイントの利上げが行われると予測している。
先週のFRBによる0.25ポイントの利上げは、消費者を引き続き圧迫する可能性が高い。フォーブスのエディトリアル・フェローであるフィオナ・ライリーは、これによりクレジットカードの借り入れコストが上昇し、自動車ローンや住宅ローンの金利低下が阻まれる可能性が高いと書いている。ムーディーズのチーフエコノミストであるマーク・ザンディはCNBCで、クレジットカード金利が過去最高水準に達する可能性があると予測した。
高金利はインフレの抑制に寄与するかもしれないが、ディーゼル燃料価格の高騰がインフレをあおり続けることになる、とフォーブスのシニアコントリビューターであるマイク・パットンは書いている。長距離トラックや鉄道で使用される燃料の平均価格は1週間以上にわたって1ガロンあたり6ドル(約1万未満円)を超えており、連日最高値を更新し続けている。これは、食料品価格が今後も上昇し続ける可能性が高いことを意味する。
人工知能
ここ数週間、AIをめぐる新たな争いが持ち上がっている。それは、この技術を制御するためにより多くの対策を講じる必要があるかどうかだ。AIの安全専門家たちがAIの潜在的な悲惨な結末についてSNSに投稿したことで、AI開発の現段階においてどのような手を打つべきかについて、熱い議論が巻き起こっている。
アンソロピック(Anthropic)のダリオ・アモデイCEOは、フロンティアモデルの開発企業に対し、AI開発のペースを落とすよう最初に呼びかけ、抑制のない成長によって、自律型AIスウォーム(群れ)が来年にも世界のインターネットインフラを乗っ取ることが可能になりかねないと警告した。これには、OpenAIのサム・アルトマンCEOやxAIのイーロン・マスクCEOも同調した。これに対する反対陣営として、これ以上の規制は不要だと主張しているのが、エヌビディア(Nvidia)のジェンスン・フアンCEOとメタ(Meta)のマーク・ザッカーバーグCEOだ。
米国が中国に対して技術的な優位性を維持するためにAIの自由な開発を認めたいと繰り返し語り、最近のAI安全性への懸念を「デマ」と呼んでいるドナルド・トランプ大統領は、週末にSNS上で、AIの監視機関のような新たな組織を立ち上げると発表した。トランプは「AIフォース(AI Force)」を創設し、業界内の悪質なアクターを監視する「AI担当責任者(AI Czar)」を任命したいと述べた。詳細はほとんど明らかになっておらず、ホワイトハウスはこれが政府の独立した部門なのか、省庁間のタスクフォースなのか、あるいは諮問委員会なのかをまだ明らかにしていない。
一方、複数のテック企業は、監視強化に対して透明性を高めることで応えている。Googleは週末、同社のフロンティアモデル「Gemini(ジェミニ)」が5月のテスト中に3企業にハッキングを仕掛けたことを公表した、とフォーブスのシニアコントリビューターであるジム・オスマンは書いている。また、OpenAIは、同社のAIモデルが人間の指示なしに自らの過ちを隠蔽したり、データを捏造したりしたといった、懸念される事案をさらに6件公表した。
フォーブスのシニアコントリビューターであるピーター・コーハンは、これらのヘッドラインは近年のウォール街の最大の成長原動力の一つであるテック業界のトラブルを伝えているものの、株式市場に長期的な悪影響を与える可能性は低いと書いている。彼はAI業界を震撼させた他の10の「破滅的」な発表を分析し、株価(特にエヌビディアの株価)は多くの場合、力強く回復していることを見出した。
今週のニュースから
「オマハの賢人」が退任する。バークシャー・ハサウェイ(Berkshire Hathaway)の伝説的な会長、ウォーレン・バフェットが先週、同社会長を正式に退任した。息子のハワードがバークシャー・ハサウェイの新たな会長に就任し、バフェットは同社の「名誉会長」に任命された。
現在96歳のバフェットは、今年初めにバークシャー・ハサウェイのCEOを退任し、グレッグ・アベルに会社の舵取りを譲っていた。1965年からバークシャー・ハサウェイを率いてきたバフェットは、株主への書簡の中で「今後の展開について、これほど気分が良いことはない」と述べている。しかし、彼はこうも綴っている。「『時の父』には誰も抗えない。だが、彼は私に対して寛大であった」
フォーブスのシニアコントリビューターであるジム・オスマンは、これによりバフェットのバークシャー・ハサウェイに対する権限が完全に終了したと書いている。同社はその成功だけでなく、バフェットの鋭くスマートな投資戦略でも広く知られていた。この最後の引き継ぎにおいて、バークシャーの資本と文化の双方を導いてきたバフェットは、会社の運営をアベルに、文化と価値観を息子のハワードに託すことになる。バフェットは確信を抱いているが、この新たな2人のリーダーが一致団結し、重大な決定を下す局面でバークシャーの成功を維持できるかどうかによって、この巨大複合企業にとってバフェットがどれほど価値ある存在であったかが真に証明されることになるだろう。
明日のトレンド
独自のデジタルツインを作成する方法
複数の州で法律事務所マクレディ・ローを展開するマネージングパートナーのマイケル・マクレディは、AIを活用すれば、事務所のメンバーが業務上のさまざまな問題について自身の見解をより簡単に得られるようになることに気づいた。彼は、自著のテキスト、過去に行ったプレゼンテーションやスピーチ、業務上の会話やスピーチの録音、その他いくつかの関連文書をLLMに読み込ませてデジタルツインを作成した。現在、このデジタルツインは同事務所の幹部たちに利用されている。これが彼の仕事をどのように変えたのかについて話を聞いた。なお、このインタビューは、長さ、わかりやすさ、継続性を考慮して編集されている。
――デジタルツインはどのように使われているのか?
マクレディ:利用は役員チームとチームリーダーに限定しており、事務所全体には公開していない。人によって使い方はさまざまだ。多くは、職場での状況にどう対処すべきかというものだ。例えば「パラリーガルが〇〇をしていて、それに不満がある」、あるいは「ある人の行動をどうしても変えたい」といったことだ。一般的なChatGPTにそれを入力することも、もちろん可能だ。しかし、私のデジタルツインを使えば、私のアプローチ方法というフィルターを通して回答が得られる。
所属弁護士の多くは、相手方の弁護士への対応方法についてこれを利用している。「被告側の弁護士からこのようなメールを受け取った。どう返信すべきか悩んでいる」といった場合だ。それをLLMに通せば、私ならどう返信するかが提示される。声が大きくて不愉快な弁護士に直面したとき、どう対応するか? マイケルならどう対応するか? なぜなら、弁護士である彼らはマクレディ・ローの「顔」だからだ。私は彼らに、私たちの法律事務所を代表するにふさわしい振る舞いをしてほしいと考えている。嫌な奴になってしまっては、私たちの本来の姿や信念を示すことはできない。
書きたい内容があるなら、まずは「マイケルならどう言うか」を基準に通してみる。折衷案を得た上で、それを自分の言葉に落とし込む。私の声(デジタルツイン)は、アイデアやアプローチ方法を提供するが、実際の具体的な文面は本人の言葉であるべきだ。
――これが日常業務において、限られた時間の中でできることをどのように変え、役立っているのか?
私がルーティン(定型的)と考えるような問い合わせ対応から、大幅に解放された。私は常に「オープン・ドア・ポリシー(誰でもいつでも相談に来てよいという方針)」を掲げてきたが、事務所が大きくなるにつれて、それが難しくなってきた。2年前、私はプエルトリコに移住し、そこから事務所を運営している。以前、本社オフィスにいたときは、通りがかった人が気軽に質問してくるため、ドアを閉めておかなければならないほどだった。
私が移住したことや、この新しいツールができたこともあって、問い合わせの数は減り、人々ははるかに高次の質問を持ってくる傾向がある。
――このツールによって、オフィスの人々や、彼らが話していること、やっていること、考えていることとの間に距離(断絶)を感じるようになったか?
それはない。もし私がそれほど積極的に関与していなければ、それは間違いなく懸念事項になっていただろう。このツールが私の事務所を運営できるとまでは言わないが、かなりの部分で私の代わりを果たすことはできる。
――これまでに間違いを起こしたことはあるか? また、それはどのような間違いだったのか?
誰からもそのような指摘は受けていないし、私自身も目にしていない。「私なら絶対にそんなことは言わない」というような回答を出したことは一度もない。
細かな違いはあるか? もちろんある。ニュアンスの違いはあるか? イエスだ。しかし、それこそがメリットでもある。私がそのシステムに入り、「私ならもう少し違うアプローチをした、あるいはこのように表現した」と指示することができる。すると新たな回答が出力され、私がそのフィードバックを与えたことでシステムが学習する。チャットの本質はそこにある。やり取りを重ねることで、使うほどに学習していくのだ。
――独自のデジタルツインを作成しようと考えている経営者に、どのようなアドバイスを送るか?
- 他の誰かにアクセス権を与える前に、徹底的にテストを行うこと。
- AIは、整理されていないビジネスを理解することはできない。AIに与えるデータは、真に構造化されている必要がある。パワーポイントの資料やポッドキャストはかなり構造化されたものだ。一方で、意識の流れをそのまま書き留めたような日記は、AIのトレーニングにおいて必ずしも効果的ではない。
- ガードレール(制限事項やガイドライン)を設定するにあたり、どれほど多くの判断が必要になるかを人々は理解していない。私の事務所の価値観を浸透させることが極めて重要だ。そうした点についてよく考えることだ。どのようなガードレールを設定したいか? それらは基本的に設計図や指示書としての役割を果たす。
- ガードレールを作成する際、AIの力を借りることもできる。「個人のLLMを作成している。ガードレールを設定するために、どのような点に留意すべきか? リストを提示し、それらの質問に私が答える形でガイドしてほしい」とAIに入力するのだ。回答の仕方は人それぞれ異なる。
事実+コメント
今年の「フォーブス400」(米国で最も裕福な400人の年次リスト)は、富裕層が真に富を増やしていることを示している。今年は、590人という過去最多の米国人ビリオネア(資産10億ドル(約1580億円)以上)がリストに入りきらなかった。
5300億ドル(約83兆7000億円):史上最も裕福な米国人であり、今年は9080億ドル(約143兆円)の資産を保有するイーロン・マスクと、2位のジェフ・ベゾスとの資産の差
34:今年のリストに初登場した人数
71%:資産を相続するのではなく、自ら築き上げたリストメンバーの割合
戦略+アドバイス
今日の社会において、リーダーは予期せず危機への対応を迫られ、それについて迅速に発言しなければならない状況に陥ることがある。すべての情報を把握していなくとも、単に「ノーコメント」と言う以上の対応が求められる。問題が発生する中で他のリーダーたちがどのようにコミュニケーションをとったか、その方法を紹介する。
企業はAIシステム導入への支出を増やしているが、マッキンゼー(McKinsey)の最近の調査によると、自社全体にAIを普及・拡大させている企業はわずか7%にすぎない。企業におけるAIの導入拡大に向けてリーダーが実行できる8つのステップを紹介する。
クイズ
かつて経営破綻したものの、復活を遂げてホリデーショッピングシーズンに向けて全米で120の新規店舗をオープンしようとしている小売業者はどこか?
A. ベッド・バス・アンド・ビヨンド(Bed Bath & Beyond)
B. Kマート(Kmart)
C. シアーズ(Sears)
D. トイザらス(Toys “R” Us)
正解はこちらで確認できる。



