チェスでは、先手を取ることには確かに価値がある。対局を記録した膨大なデータベースを分析すると、白は黒よりもわずかに勝率が高い。その理由は、相手の手に対応しなければならなくなる前に、自分から動けることに他ならない。先手を取ることの利点を表す用語がある。相手がどう対応しなければならないかを決める側は「主導権」を握っていると言われる。
多くの人は、1日の始まりをチェスの「受け手(後手)」の立場で迎えている。本当の最初の決断を下すのは自分ではなく、たいていはベッドから出る前に読んだメッセージを送ってきた誰かだ。
メッセージは短く、返信に1分もかからないため、それ自体は問題ないように思える。だが、それによってその後に続くすべての物事の順番が決まり、対応するという姿勢がその後何時間も続きやすくなる。朝は、1日の中で誰からも求められない唯一の時間帯だが、目覚めて数分もすれば、たいていその状況は失われる。
この状況を変える策は、チェスから名前を借りている。「最初の一手」とは、やることを具体的に1つ決め、他の人からの要求が影響を及ぼす前に、それを実行することを意味する。この2つの要素はどちらも重要で、どちらもそれほど長い時間はかからない。
パート1:朝の「最初の一手」を自分主導にするべき理由
モチベーションを研究する心理学者は、自律性、つまり誰かから押しつけられたのではなく、自分の意思で行動しているという感覚を、幸福感を得るための基本的な条件の1つと考えている。学術誌『Psychological Bulletin』に2022年に掲載されたメタレビューでは、自律性とウェルビーイング(満たされた状態)の関連性は、文化が著しく異なる場合でも一貫して認められた。
朝を他人の要求に応えることに費やすと、そのウェルビーイングがわずかながら損なわれる。そして、その1日の残りの時間の多くが、実際には自分のコントロールの及ばないものであることを考えれば、ウェルビーイングの感覚は1日を通じてさらに大きく低下する可能性が高い。
また、作業を切り替えること自体に代償が伴う。人がタスクを切り替えるとき、注意の一部がそれまで行っていた作業に残る。これは「注意残余」として知られている。学術誌『Organization Science』に2018年に掲載された研究では、緊急のタスクから引き離された場合、中断されたタスクのパフォーマンスが悪化することが明らかにされている。これは注意の一部が前の作業に残るからだ。



