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2015.12.18

コカ・コーラが肥満対策の研究組織を閉鎖

Monkey Business Images / shutterstock

コカ・コーラ社との癒着が発覚した肥満対策の研究組織『Global Energy Balance Network (GEBN)』が11月末日をもって解散した。GEBNのウェブサイトには次のように書かれている。

「予算不足により本日をもってGEBNは事業を停止します。創設以来、会員の皆様から賜ったエネルギーバランスに対するコミットメントに感謝いたします。会員の皆様には引き続き、「世界中の科学者や専門家が学際的に交わり、より健康な生活を獲得するための、エネルギーバランスの科学の応用と進歩に資する」というミッションを追求していただきますようお願いいたします」

しかし、コカ・コーラ社などの清涼飲料業界を気の毒に思う必要はない。活動を停止したGEBNは、清涼飲料業界が「エネルギーバランス」などという非科学的なメッセージを広めるために使っている無数のキャンペーンやプログラムや団体の一つに過ぎないからだ。清涼飲料業界は今や学校にまで進出していて、2歳児に至るまでの子供たちに「ソーダは減らさなくてもいいから、もっと運動しなさい」などと教えているのである。

公衆衛生の専門家は長きにわたって、清涼飲料業界によるこうしたエネルギーバランスの議論を、加糖飲料成分の身体への悪影響から注意を逸らすための戦術だとして批判している。

さまざまな研究が、加糖飲料と肥満や糖尿病との関係を明らかにしたことから、清涼飲料水の売上はこの10年で20%減少した。GEBNは、清涼飲料業界の他の取り組みと同様、エクササイズを増やすことでカロリー摂取量とのバランスを取ることを強調している。ティーンエイジャーが20オンス(約591ml)のソーダ(マクドナルドのMサイズにあたる)のカロリーを燃焼させるためには、50分間のランニング、もしくは5マイル(約8キロ)のウォーキングが必要になるというのにである。

それどころか、GEBNでは消費者にもっとカロリーを取るように勧めている。ニューヨーク・タイムスが、この異例なアドバイスを8月に報じている。

「このグループは、体重増加を防止する鍵は、多くの公衆衛生の専門家が薦めるように、食べる量を減らすことにあるのではなく、活動的なライフスタイルを維持し、カロリー摂取を増やすことにあるのだとする『強い証拠』が存在するとしている。この論点の裏付けとして、このグループでは2本の論文へのリンクを提供しているが、これらの論文の脚注には『この研究はコカ・コーラ社の支援を受けています』と書かれている」

実際のところ、清涼飲料業界が言う「もっと食べて、もっと運動する」というエネルギーバランス論は、これまでの学術研究の蓄積と相容れるものではない。2011年に行われたメタアナリシスによると、子供の身体活動のレベルと脂肪量との間に相関関係は見いだせず、身体活動は「子供の不健康な体重増加の決定要因」ではないと結論づけられている。

大人を対象にした研究でも、「身体活動が活発な人たちが、もっとも非活発な人たちよりも余分な体重が少ないとする証拠はほとんどない」とされている。さらに、2013年のレビュー論文、コメンタリー論文は、「肥満が多い社会と少ない社会での」身体活動レベルに差が無い証拠を示した上で、「エクササイズを増やすか増やさないかは関係がない。体重減少につながる要因は、カロリー摂取量を減らすことだけである」と結論づけている。

こうして証拠が積み上がっているにもかかわらず、清涼飲料業界はエネルギーバランスという非科学的なマントラを伝道することにますます予算を費やし、清涼飲料水のイメージと売上のアップを図ろうとしている。

コカ・コーラ社の『Beverage Institute for Health and Wellness(飲料品健康福祉研究所)』では、看護師や栄養士、医療教育者などの医療関係者向けに、「飲料水と水分補給、活動的で健康な暮らしのサイエンス」についての社会人教育を提供している。「エネルギーバランスこそが、体重維持の鍵となるのです」——この研究所のウェブサイトでは、このように身体活動の重要性を強く訴えている。しかし、コカ・コーラなど加糖飲料の摂取を減らすようなアドバイスは全く見られない。

コカ・コーラ、ペプシ、ドクター・ペッパーの各社と、米国清涼飲料協会は共同で、エネルギーバランスのメッセージ(メッセージの基本は、沢山のソーダを飲み、運動で排出しましょうというものだ)を届けるべく、ティーン向けのキャンペーン『My Mixfy』を展開している。オンラインで展開されている『My Mixfy』では、「あなたが食べたもの、飲んだものとあなたの活動をバランスさせるためのコツ」が提供されている。清涼飲料業界から「健康のためのコツ」を子供に教えて欲しいと考える親などいるわけもないはずだが、それでも『My Mixfy』は今年、全国ツアーを敢行し、全米11都市の子供たちに、虫のいいエネルギーバランスのメッセージを届けたのであった。

ペプシコは、食品・飲料品業界による『Healthy Weight Commitment Foundation(健康的な体重にコミットするための基金)』の主要スポンサーである。この基金の目的は、「カロリー摂取とカロリー消費のエネルギーバランスを図ることで、人々が健康的な体重を達成することを支援する方法を広める」ことである。

基金は、全国2,980万人の生徒が参加する『Together Counts(一緒にやれば変われる)』(TM)キャンペーンを通じて、「家族」と「学校」を2大重点に定めて活動している。基金ではさらに、エネルギーバランスのメッセージを、社会のもっとも若年層にまで吹き込んでいる。アメリカの半数の就学前教育(幼稚園、保育園)で活用されている『EnergyBalance PreK(就学前教育用エネルギーバランス)』カリキュラムと提携しているのだ。

英国コカ・コーラではオンラインの『Work It Out Calculator(カロリー計算機)』を作成、あなたの好みのコカ・コーラ製品に含まれるカロリーを燃やすために必要な運動や家事、そのほかの変わった活動を教えてくれる。このサイトによると、12オンス(354ml)のコーラのカロリーを消費するには、窓ふきを39分間、カヌー漕ぎを53分間、あるいはエアロビクスを22分間やればよいらしい。

ペプシの『Sweat It to Get It(汗をかいてペプシを飲もう)』キャンペーンではこの夏、NFLのイーライ・ペニング、ペイトン・ペニングと組んで、練習後に飲むゲータレード(もちろん、エネルギーバランスが肝心なのだから!)の広告を行った。

ニューヨーク・デイリーニュースによると、「ペニング兄弟はコーチ役に扮し、怪しむことを知らない学生に、ゲータレードを獲得するための練習を命じる」のだという。しかし専門家によれば、ゲータレードのような加糖のスポーツドリンクは、本来マラソンなどの耐久競技のために配合されており、普通のアスリートであれば水の方が適切なのだという。

コカ・コーラのGEBNは解散したが、清涼飲料業界のあまりにも虫の良い、非科学的な「エネルギーバランス」キャンペーンはまだまだ健在だ。清涼飲料業界では、加糖飲料売上の急降下を挽回すべく、医療関係者、生徒、ティーンエイジャー、幼児、週末アスリートたちが洗脳されてくれることを願っているのだ。


編集 = Forbes JAPAN 編集部

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