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2026.10.05 17:45

ズベレフの優勝スピーチを分析。話題の理由は「4つの質感」

9月の全米オープン男子シングルス決勝戦で優勝したアレクサンダー・ズベレフ(Photo by Matthew Stockman/Getty Images)

9月の全米オープン男子シングルス決勝戦で優勝したアレクサンダー・ズベレフ(Photo by Matthew Stockman/Getty Images)

9月13日(現地時間)にニューヨークで行われた全米オープン男子シングルス決勝。第1シードのAlexander Zverev(アレクサンダー・ズベレフ、ドイツ)が、第8シードのBen Shelton(ベン・シェルトン、アメリカ)を破って大会初優勝を果たした。

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6月の全仏オープンに続く、グランドスラム通算2度目のタイトル獲得となったZverevだが、表彰式でのスピーチが大きな話題になった。

前編:無条件に愛されるヒーローではない。ズベレフの「気づかなかった勝利」


このスピーチは一見、完全な即興に見える。

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だが実は、テニスの表彰式スピーチには、暗黙のうちに共有された「型」が存在する。対戦相手への敬意と称賛から始まり、相手陣営(家族・チーム)への労いへと続き、そこから自陣のチームや家族への感謝、大会関係者やボランティアへの感謝、そして最後に観客への感謝で締めくくる。この構成は、選手が変わってもほとんど揺らがない。

その証拠に、Zverevの前にスピーチをした準優勝のSheltonのスピーチも、まさにこの型を踏襲していた。

型があるから即興もできる

Zverevのスピーチも、この型に忠実だった。冒頭でSheltonを称え、Sheltonの家族やチームの一人ひとりに言及し、自身のチームと母への感謝に最も長い時間を割き、大会ディレクターやボールキッズ、裏方のスタッフにまで言葉を配り、最後に観客へ「ごめんなさい、でもありがとう」と語りかけて終える。この順序は、トップ選手たちがジュニア時代から数え切れないほどの表彰式・敗者会見・メディア対応を重ねる中で、いつの間にか体に染み込ませてきたものだ。

重要なのは、この「型」があるからこそ、原稿もプロンプターも必要としない、という逆説である。話すべき骨格がすでに体に入っているからこそ、Zverevは手元を見ることも、想定問答を思い出すこともなく、Sheltonや客席の家族の顔を直接見つめながら、その場に湧き上がる感情だけに集中できたのだ。

原稿がないだけではない。政治家の演説や式典で使われるプロンプターも、そこには存在しない。

プロンプターとは、いわば「用意された言葉」を「即興のように見せる」ための装置である。その装置自体がコート上に存在しないということは、詰まる瞬間も、言い淀む瞬間も、すべてがそのまま観客の前に晒されるということだ。

試合が終わった直後、まだ息も整わないうちに、これだけの言葉を、その場の感情のままに紡ぎ出す。幼い頃からこうした舞台で場数を踏んできたことの大きさは、もちろんある。スピーチの「型」、アスリート的に言えば「骨格」が体に入っているからこそ、自らの労力を骨格作りに使わずに済む。だが、しかも場数を踏んでいるという事実は、そこから発せられる言葉が本人自身の感情そのものであるという実感を、損うことはない。むしろ、鍛えられた型の上に、なお生の感情が乗っていると思えることこそが、素晴らしいのだ。

これは、多くの経営者や政治家がプロンプターや想定問答なしには語れない現実と、鋭い対比をなす。能力の差ではない。感謝すべき対象の順序も、伝えるべき骨格も、反復によって体に入るまで鍛えられていないだけだ。決算発表や株主総会は原稿がある前提で設計された場がほとんどで、感情を伴う言葉を即興で語る訓練を積む機会が、社会構造的に少ない。型を持たないまま人前に立てば、頼れるのは手元の原稿しかなくなるわけだ。

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文=日野江都子

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