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2026.10.29 11:00

「世界一の零細企業になる」――熱制御の技術でグローバルに挑む日進産業と〈みずほ〉

世界中を猛暑が襲い、「熱」をめぐる課題が深刻になっている昨今、東京・板橋から世界へ可能性を広げている小さなメーカーがある。断熱・遮熱塗料「GAINA(ガイナ)」を中核技術にもつ日進産業だ。

開発から長く売れない時代を経験しながらも技術を磨き、JAXAとの連携や規格化を経て社会からの信頼を獲得してきた同社は今、みずほ銀行のネットワークを生かしながら、その技術をさらに国内外へ広げようとしている。


 「工場が暑い」から始まった「熱をコントロールする」挑戦

東京・板橋に本社を構える日進産業。断熱・遮熱塗料「GAINA(ガイナ)」を展開する同社だが、創業当初から塗料メーカーだったわけではない。

代表取締役の石子達次郎は、1977年、大学在学中に起業した。鍵の交換業から始め、その後、棚の組み立て、物流設備、自動倉庫、コンベヤーへと業態を転換していった。新製品の試作があると聞けば、「お金はいりませんから、組み立てをやらせてください」とメーカーに飛び込み、改善策をレポートにまとめて提出する。その探究心は、後のGAINA開発にもつながっている。

転機は90年ごろ。取引先から「工場が暑いので断熱してほしい」と頼まれたことだった。計算すると必要な断熱材は約7cm。しかし、壁とコンベヤーの隙間はわずか5mmしかない。解決策を探しあぐねていたある日、机に置かれた新聞広告に日が当たり、黒い広告だけが熱く、白い広告は熱くないことに気づく。「断熱材で考えるから答えが出ない。建物そのものを白く塗ればいいのではないか」。実際に濃いグレーだった工場を白く塗ると、室温が約3度下がったという。

これを機に石子は、光を乱反射する塗料の研究に没頭する。地球上で最も白い雪が実は「透明な結晶体」であることにヒントを得て、透明な特殊セラミックを原料とする塗料を開発した。だが、完成した製品はまったく売れなかった。

「最初の11年間は1缶も売れませんでした。事業撤退を決めかけた矢先、知人の建築士からフランス発祥のブティックへの採用話が舞い込みました。日本の夏には不向きな天井なしの金属屋根にGAINAを塗ると、熱を遮断しただけでなく、雨音を20デシベルも下げ、懸念された冬場の結露も防いだのです。この成果が専門誌に寄稿されたことで注文が増えていきました」(石子)

さらなる転機となったのが、JAXAとの出会いだ。JAXAがロケット向けの断熱塗料技術を民間に公開して、民生転用できる企業を募っていることを知った石子は、すぐさま名乗りを上げる。JAXAの開発担当者と対話を重ねるなかで、複数素材をブレンドして性能を高めるという宇宙開発のノウハウと自社の技術とを融合。高性能でありながら、低コストでの量産化を実現し、現在のGAINAへと進化させた。

「それまで『板橋の小さな会社がつくった、これは何なの?』という反応が『JAXAですか!』に変わり、確実に需要が伸びました。信用という意味では本当に大きかったですね」と石子。この実績から、後にGAINAは宇宙技術の民間転用製品「JAXA COSMODE(現JAXA LABEL)」の第1号に選ばれている。

石子達次郎 日進産業 代表取締役
日進産業 代表取締役 石子達次郎 

日進産業の担当を引き継いで約1年となる、みずほ銀行板橋法人部の佐賀亮斗は、石子の姿勢に引きつけられていったという。

 「独自性の高い技術をもつだけでなく、さまざまな現場や用途に目を向け、より多くの人の快適性や安全性、働く環境の改善に役立てようと、常に研究と挑戦を続けている。その姿勢こそが日進産業様の魅力であり、本質的な強みだと感じています」(佐賀)

佐賀亮斗 みずほ銀行 板橋法人部 渉外1課
みずほ銀行 板橋法人部 佐賀亮斗 

結露防止や耐火まで広がるGAINAの可能性

従来の断熱材がウレタンフォームなどを壁の間に充填し、「厚み」で熱の移動を遅らせるのに対し、GAINAの厚さはわずか0.4mm。0.05mm以下の中空セラミックビーズの集合体が熱を遠赤外線に変えて放射し、熱の移動そのものをコントロールするという画期的なメカニズムをもつ。そのため、極めて薄い塗膜でも機能するのが特徴だ。

薄膜で熱の移動をコントロールするGAINA。200色以上の色合いに対応が可能だという。
薄膜で熱の移動をコントロールするGAINA。200色以上の色合いに対応が可能だという。

また、GAINAは断熱・遮熱だけでなく、防音、防臭、結露防止などの機能も併せもつ。2006年の勇気ある経営大賞「優秀賞」、18年の省エネ大賞「審査委員会特別賞」、24年の一般社団法人大阪府建築士事務所協会賞「優秀賞」など、その独自性はさまざまなかたちで評価されてきた。

一方で、従来の「厚み」を前提とした評価方法では、その実力を適切に示しにくいという課題があった。そこで進められたのが規格化だ。経済産業省から標準化を打診されたことも契機となり、日本規格協会(JSA)の制度を活用して「JSA規格化」にこぎつけ、2025年3月にJSA-S1023「高密度超微細セラミックス塗料―塗膜の断熱性能の求め方」が発行された。

「その意味は単なる『お墨付き』ではなく、従来とは異なる原理をもつ技術に第三者が共有できる『ものさし』ができたことにあります。評価する基準ができれば、公的な機関にも話を聞いていただきやすくなる。実際、避難所となる学校の断熱対策などでも、GAINAを候補に挙げていただけるようになっています」(石子)

用途の広がりにも目を見張るものがある。大分県の東九州自動車道では、防霧ネットにGAINAを塗布して霧の粒子を細かくし、ドライバーの視界を確保。

また、有名スポーツメーカーのサッカーシューズの中底にも採用され、人工芝から伝わる70度近い熱を60%以上遮断し、選手の足裏を守る。さらに、福島イノベーション・コースト構想に基づく共同開発では、熱を受けると水が発生する特殊塗料「GAINAミスト」を活用し、断熱セラミック塗料による木質耐火外壁(非耐力)として日本で初めて、1時間耐火の大臣認定試験に合格した。

技術の可能性が広がるほど、すべての市場に自力でたどり着くのは難しくなる。そこで〈みずほ〉との関係が深まっていった。

技術と市場をつなぐ〈みずほ〉の伴走力

日進産業とみずほ銀行との接点が増えたのは約3年前。スペインやインドなどで海外事業が本格化し、海外からの送金などメガバンクの機能が必要になったことがきっかけだった。

ただ、その関係は金融取引だけにはとどまらなかった。当時の担当者が日進産業の技術を理解し、暑熱対策や省エネなどの課題を抱える取引先へGAINAを紹介し始めたのだ。

佐賀が印象に残っているというのが、自身が所属する板橋法人部内の顧客とのマッチングだ。工場や倉庫の夏場の暑さに悩んでいた企業にGAINAを紹介し、日進産業との面談を実施。倉庫の天井や壁に施工すると温度上昇が抑えられ、従業員からも「快適に働けるようになった」という声が上がり、別の倉庫や工場にも施工が広がったという。

「お客さま同士をつなぎ、新たな価値を生み出せたことに、リレーションシップ・マネジャーとして大きなやりがいを感じました。銀行の仕事というと融資を思い浮かべるかもしれませんが、お客さまの成長を考えれば、資金をご提供するだけが支援ではありません。企業の強みを深く理解したうえで、その技術を必要としているお客さまの課題と結びつける。商談、導入、さらにその先の展開まで伴走して初めて、事業機会の創出になると考えています」(佐賀)

現在は板橋法人部内のみならず、社内のビジネスマッチング掲示板サイトや本部、〈みずほ〉の海外拠点・ネットワークとも連携し、国内外へ接点を拡大。海外市場の開拓においては、インド・チェンナイ郊外にみずほ銀行が開発した工業団地へ営業に赴き、日系企業でのGAINA採用へつなげた事例もある。

「銀行がお客さんをここまで連れてきてくれることは、なかなかないですよ。今後も、うちだけでは解決できないことを率直に相談できる相手であってほしいと思っています。知見や組織力は、我々だけではもてないですから」(石子)

かつてJAXAとの連携が技術への信用を補完したように、今、〈みずほ〉は市場との接点と信用を補う強い存在になりつつある。

あらゆる熱問題に挑む――板橋発の技術を世界に

日進産業が次に見据えるのは、さらなる海外展開だ。インドや中国での現地生産も視野に入れる。ただ海外では、気候や建築構造、法制度、商習慣、文化も国ごとに異なり、誰と組むかも重要になる。

みずほ銀行板橋法人部 部長の上木路子は、今後の支援方針をこう語る。

「海外では国によって市場の成熟度も制度も異なります。市場を調べ、現地の法制度を把握しながら、『どの地域で、どの業種に、どう展開するのが適切か』を一緒に考える必要があります。場合によっては政府や現地機関との接点も必要ですし、販売・施工、共同開発などのパートナー選びも重要です。〈みずほ〉の各国拠点やネットワークを生かし、日進産業様に合った進出のかたちをつくっていきたいと思っています」(上木)

運転資金や設備資金、外国送金、為替、貿易取引といった金融面に加え、必要に応じて、金融技術、データサイエンス分野などにおける研究、開発、コンサルティングを行うみずほ第一フィナンシャルテクノロジー(FT)などグループの専門機能とも連携していく考えだ。

上木は「GAINAは環境負荷低減や省エネルギー化に加え、人々のヘルスケアにも貢献できる可能性をもっています。成長のステージに応じて必要な機能やネットワークを組み合わせ、さまざまな可能性を世界中の課題解決へとつなげ、日進産業様を世界で認知される企業にしたい」と力を込める。

上木路子 みずほ銀行 板橋法人部 部長
みずほ銀行 板橋法人部 部長 上木路子 

一方、GAINAも進化の途上にある。AIの普及で機器の発熱と冷却負荷が課題となるなか、石子は今、データセンターの熱問題にも挑もうとしている。「電力だけに頼らず、物理的に熱をコントロールする方法を模索し、事業者への提案も始めている」という。

その石子がかなえたい夢とは何か。

 「私は昔から『世界一の零細企業になる』と言っているんです。技術を世界に広げたいが、大企業になる気はありません。営業は組織力や資金力のあるパートナーにお願いして、我々は開発と製造に集中する。それを、この小さな組織でやらせてもらえるのがいちばん面白いんです」(石子)

自社の強みに集中し、足りない機能は信頼できるパートナーとつながる。その結果として、会社の規模ではなく、技術が届く範囲を大きくしていく。それはまさにスモールジャイアンツという言葉を体現する発想だ。

「私たちが目指すのは、お客さまを深く理解し、その企業らしい成長に寄り添うことです。石子社長が掲げる経営哲学を尊重しながら、金融の枠を超えた強固なパートナーシップで、日進産業様の描く未来をともに具現化していきたいですね」(上木)

「GAINAがもつ無限の可能性を社会に届けるために、私たちができることはまだまだたくさんあります。日進産業様が次の挑戦を考えたとき、『まず〈みずほ〉に相談してみよう』と思っていただける存在であり続けること。その決意を胸に、技術と世界をつなぐ架け橋として、これからも最前線で伴走し続けます」(佐賀)

「世界一の零細企業」を目指す日進産業と、その技術を世界の課題解決へつなぐみずほ銀行。両者の共創が織りなすエコシステムは、今、新たなフェーズへ踏み出そうとしている。

みずほ銀行


石子達次郎(いしこ・たつじろう)◎日進産業 代表取締役。1954年生まれ。駒澤大学経営学部在学中の 1977年に日進産業を創業。89年から断熱塗料の開発に着手。2005年にJAXAと技術提携し、断熱・遮熱塗料「GAINA」の開発に成功。

上木路子(うえき・みちこ)◎みずほ銀行板橋法人部 部長。金融プロダクツ(不動産ファイナンス等)部署、東京・地方(四日市)拠点にて大企業・中堅中小企業の法人営業等に従事。2025年より現職。〈みずほ〉のパーパス「ともに挑む。ともに実る。」のもと、総合金融の幅広い知識を駆使し、お客さまの潜在的な課題やニーズを捉え、新たな価値を創造する法人営業を実践。

佐賀亮斗(さが・あきと)◎みずほ銀行板橋法人部 入行2年目。中堅・中小企業のお客さまを、幅広い業種で担当。誰よりもお客さまのことを考え、その挑戦を自分ごととして捉え、誠心誠意行動することをモットーとしている。課題の本質に向き合い、お客さまの挑戦と成長を全力で後押しする。

Promoted by みずほ銀行 / Text by Sei Igarashi / Photographs by Shuji Goto / Edited by Akio Takashiro