M&Aのアドバイザリーをしていると、同じような財務数字を持つ2つの会社が、まったく異なる価格で売れる場面に何度も立ち会います。一方は「EBITDA3億円、PER5倍、企業価値15億円」で、もう一方は「EBITDA3億円、PER15倍、企業価値45億円」で売れる。利益はまったく同じなのに、売却価格が3倍も違う。この差はどこから生まれるのでしょうか。
答えはPERの中に隠れています。PER(株価収益倍率)とは「市場がその会社の将来性をどう評価しているか」を示す倍率です。EBITDAが同じでも、PERが上がれば企業価値は跳ね上がる。そしてPERを大きく動かすのは、日々の努力の積み上げではありません。「αを持っているかどうか」です。
M&Aの計算式を改めて整理しましょう。企業価値=EBITDA×PER。EBITDAは事業の稼ぐ力です。毎日の業務を丁寧にこなし、コストを管理し、売り上げを積み上げることで育てていくもの。これは正直に、真剣に積み上げれば必ず数字が上がる、努力が報われる領域です。経営の基礎体力と言っていいでしょう。一方でEBITDAだけを伸ばしても、企業価値の伸びには構造的な限界があります。
しかしPERは違う性質を持っています。PERは市場が「この会社の未来は明るいか」「他の会社には代替できないポジションを持っているか」「成長余地はどれほどあるか」を判断した結果として決まります。業種別の平均的なPERがベース(β)となり、そこに「その会社固有の価値」が上乗せされます。その上乗せ分をαと呼びます。
αは、「この会社でなければならない」という唯一性から生まれます。最も重要なことは、αは努力では買えないということです。αはどの市場で勝負するか、どのポジションを取るかという意思決定によって生まれます。
この考えを人生に転用したとき、私の思考の構造は根本から変わりました。



