私が話をする福利厚生担当リーダーの半数は、大きな間違いを犯そうとしている。経営陣からコスト削減のプレッシャーが高まるなか、彼らが計画しているのは「ポイントソリューション(特定課題に特化したサービス)」支出の削減だ。これは理論的には筋が通っているように見えるが、ほぼ間違いなく誤った選択である。
人事チームがコスト削減を急ぐのには、もっともな理由がある。当社の調査によると、大企業の50%がこの種の削減を優先している。しかし、本当の削減機会は予防によるコスト回避にある。つまり、健康な従業員が将来の高額な医療請求につながる前に働きかけることだ。
私はかつて、業界全体が誤った直感に賭けるのを目の当たりにしたことがある。2000年代初頭に私がeBayにいた頃、大手小売企業のCEOたちと面会したが、彼らは「顧客がバーチャルな購買体験を受け入れることなど絶対にない」と自信に満ちて主張した。だが、私たちは直感ではなくデータに従い、わずか18カ月で10億ドル(約1570億円)規模のアパレルビジネスを構築した。
同じ本能が今度は、従業員向け医療福利厚生予算をめぐって再び表れている。
集約化が「規律ある行動」に見える理由(そしてなぜ的を外しているのか)
コストが完全に制御不能に感じられるとき、福利厚生を削減することは「行動を起こしている」ように感じられる。だがそれは、本当の支出である家賃が上がり続けているのに、Netflixの契約を解約して家計を立て直そうとするようなものだ。雇用主にとって、ポイントソリューションを削減したところで、高騰する医療保険プランのコストに届くことは決してない。
一般的な従業員数1万人規模の組織の場合、自家保険(セルフファンド)を導入している雇用主は、ヘルスケアに年間およそ1億8500万ドル(約290億円)を支出している。この事例は、米国労働省の「2026年議会への報告書:自家保険型グループ医療プラン年次報告書」に記載されているような大企業の一般的な配分パターンを反映したものだ。医療および処方薬の請求(クレーム)が予算の約82%を占め、ポイントソリューションはわずか4%(約750万ドル(約11億8000万円))にすぎない。なお、これらの数値は説明のためのものであり、厳密なものではない。
実際の配分は雇用主の規模、請求実績、プラン設計によって異なるが、最善の場合であっても、ポイントソリューションをすべて削減したところで、医療支出全体に大きな影響を与えるには程遠い。
「動かせる中間層」に目を向ける
その健康な従業員層こそが、投資対効果(ROI)を得るための最大のチャンスである。医療費総額1億8500万ドル(約290億円)の内訳を思い出してほしい。従業員の5%がその56%を占めており、1万人規模の組織であれば、500人が約1億400万ドル(約163億円)のコストを発生させている。そのほとんどは「動かせない」もので、最も重篤な疾病や、いかなる予防策をもってしても変えられない慢性疾患で構成されている。
残りの95%の従業員、つまり職場で最も健康な層が支出の44%を占めている。これは、予防や早期介入によって上昇を防ぐことができる8140万ドル(約128億円)に相当する。これがどのポイントソリューションの削減よりも重要である理由は、「雇用主のヘルスケアコストが2027年に9.5%増加すると予想されている」からだ。これにより、先ほどの1億8500万ドル(約290億円)は2億250万ドル(約318億円)へと跳ね上がり、わずか1年で1750万ドル(約27億5000万円)もの追加コストが発生することになる。
もし健康なセグメントの医療費の伸び率(トレンド)を2ポイント改善できれば、最初の1年だけで約160万ドル(約2億5100万円)のコスト増加を回避できる。2027年の予測ペースでコストが上昇し続けた場合、トレンドが2ポイント改善すれば、5年間で累積約3050万ドル(約47億9000万円)のコストを回避できる計算になる。一方、ポイントソリューションの半分を削減しても削減できるのは一度限りの375万ドル(約5億8900万円)であり、その予防効果は永久に失われてしまう。これを選択する理由がどこにあるだろうか。
ある大手保険会社のクライアントでも、同様のパターンが見られた。1四半期の間に予防コンテンツを利用した少数の従業員グループにより、生産性の向上、病気の予防、不要な受診の回避などで、推定6桁近くのコスト削減効果がもたらされた。これこそが「動かせる中間層」の価値であり、健康な従業員層をコスト削減のテコとして扱うべき理由である。
機会がどこにあるかを知っても、そこにどう到達するかまではわからない。効率化は優れた目標だが、集約化だけがその達成手段ではない。
あらゆるエコシステムに必要な3つの要素(大半は1つ欠けている)
何十年にもわたり、従業員が福利厚生を利用するのを支援するとうたう数々の入り口(ポータル)や、データを保持する大規模な企業用記録管理システムが目まぐるしく現れては消えていった。しかし、これまで欠けていたのは、それらの間で従業員がその瞬間に本当に必要としているものを届けるための、極めて重要な「結合組織」だ。これはAIが登場する前には、到底不可能なことだった。
福利厚生担当リーダーたちからよく聞くのは、従業員が福利厚生の全体像を把握するために複数のベンダー間で情報をかき集めるのに時間を浪費し、最終的には機能しない静的なリンクを通じて臨床医を紹介されるだけで、実際に役立つコンテンツは提供されないという不満だ。しかし現在では、AIがすべてのプラン、ポリシー、ポイントソリューションを単一のインターフェースに統合し、必要と感じた瞬間に従業員へパーソナライズされた回答やケアプランを提供できるようになった。私はこれを「失われたレイヤー(層)」と呼んでいる。
このレイヤーは、これまでにない2つの重要な役割を果たす。第1に、年に一度のオープン・エンロールメント(保険の選択期間)だけでなく、SlackやMicrosoft Teams、社内イントラネットを通じて従業員に日常的にアプローチし、医療費請求(クレーム)が発生する前に即座に対処すること。第2に、従業員の質問や行動をインサイトに変換し、雇用主がプラン設計や集団全体の健康状態を改善するために活用できるようにすることだ。
あるクライアントは妊産婦のヘルスケアプログラムを導入したが、当社のデータ分析によると、推奨された介入措置に対して従業員がとった行動の割合は極めて低かった。寄せられた質問を分析したところ、問題は明らかだった。従業員は多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)のサポートを求めていたが、そのプログラムはすでにそれをカバーしていたものの、Webサイトの奥深くに埋もれて見つからなかったのだ。これは視認性の問題であり、ベンダーと連携して解決することができた。
予算削減ではなく「ビジネスケース」を提示する
見えないものは解決できない。そして、ヘルスケアコスト削減の鍵を握る唯一の従業員層を相手に、推測を続ける余裕はない。これからの10年における福利厚生戦略は、ベンダーを増やすことでも削減することでもない。すでに導入しているサービスを、高額な医療費請求が発生する前に、それを必要とする人々につなげることだ。
だからこそ、CFOが予算削減を要求してきたときには、予防健康ソリューションを慌てて集約しようとする条件反射を抑えてほしい。企業の収益目標を達成するために、なぜ現在の予算を維持する必要があるのかを示すビジネスケース(論拠)を構築しよう。



