AMDは米国時間2026年9月30日、新しいAI支援ツール「AMD Ross」を発表した。Rossは、ハードウェア、ソフトウェア、システム設計を横断する「抽象化層」として機能する。複数の開発領域を共通のAI操作で扱えるようにし、組み込みシステムの設計、デバッグ、導入を効率化する。
Rossは単なる新製品にとどまらない可能性がある。AMDはRossを通じて、組み込み製品開発の工程とコスト構造を変え、アダプティブプラットフォームとx86プラットフォームの採用を加速しようとしている。AIを組み込んだ開発環境を通じて、顧客との結びつきを強める狙いもある。
Rossがハードウェア・ソフトウェア・AIをまたぐ開発工程をつなぐ
Rossは、AMDのフィールド・プログラマブル・ゲート・アレイ(FPGA)、アダプティブSoC、組み込みx86プロセッサー、エッジAIプラットフォームを使う設計技術者向けに開発されたAI支援ツールだ。FPGAは用途に応じて内部回路を書き換えられる半導体で、アダプティブSoCはこうしたプログラム可能な回路と各種処理機能を1つのチップに統合する。
エッジAIプラットフォームは、クラウドではなく機器側でAI処理を行うための基盤だ。Rossは汎用のAI支援ツールと異なり、Model Context Protocol(MCP)を介してAMDのツール群と連携する。MCPはAIエージェントと外部ツールを接続する標準規格で、Vivado、Vitis、ROCm、Ryzen AIソフトウェアなどをつなぐ。
(注)Vivado:AMDのFPGAやアダプティブSoC向け設計ソフトウェア。回路設計から論理合成、配置配線、検証・シミュレーションまでを扱う。
Vitis:AMDのFPGA、Armプロセッサー、AIエンジンを使ったシステムを開発するための統合ソフトウェア環境。C/C++からFPGA向け回路を生成するVitis HLSなどを含み、Vivadoと連携して動作する。
ROCm:AMDのGPUを使ったAIや高性能計算向けのソフトウェア基盤。GPUを利用するためのツール、コンパイラー、ライブラリーなどで構成される。
Ryzen AIソフトウェア:Ryzen AI搭載PCでAI推論を最適化・実行するためのツールとランタイムライブラリー。学習済みAIモデルを、PC内蔵のNPUや統合GPUで動かすために使われる。
Rossの機能はコード生成に限られない。コマンドの実行やレポートの分析に加え、複数のツールをまたぐ作業も調整する。設計分野が変わっても、それまでの作業内容や設計上の文脈を保持できる。
AMDはRossのエージェント型AIを使い、プリント基板設計、FPGAへの実装、アルゴリズム開発、組み込みソフトウェア、AI推論にまたがる開発工程をつなごうとしている。これらの分野では従来、深い専門知識に加え、工程間で多数の手作業による受け渡しが必要だった。RossはAMDの開発手法、技術文書、ベストプラクティスを開発工程へ直接組み込み、作業の効率化と統合を目指す。
ハードウェア設計は、ブール論理から回路図、レジスタ転送レベル(RTL)へと発展し、さらにC/C++などから回路を生成する高位合成(HLS)へ進んできた。RTLは回路の動作を記述する設計手法だ。ソフトウェアもアセンブリー言語からC/C++、開発フレームワークへと発展してきた。Rossはこの流れをさらに進める。技術者が設計意図を会話形式で示すと、AIが内容を解釈して作業手順を組み立て、複数のツールを使って実行する。



