2013年9月10日に発売されたiPhone 5sに搭載されていたのが、アップルの「A7」チップだ。このカスタムチップは、アップルのハードウェアおよびソフトウェアと密接に連携しており、主要なスマートフォンとしては初となる64ビットプロセッサでもあった。
本稿は、スマートフォンの時代を築いた瞬間を振り返る連載「iPhoneの30日(30 Days of iPhone)」の20日目の記事だ。
iPhoneの「A7」チップが競合を圧倒した
64ビットへの移行は、競合他社の不意を突くものだった。競合他社も64ビット化を意識してはいたものの、それは何年も先の話だと考えていた。当時の世代にとっては、必要不可欠なものというよりは、贅沢品に近い扱いだったのだ。少なくとも、iPhone 5sが登場するまでは。
公の場では、A7の64ビット機能はマーケティング上のメリットにすぎず、消費者にとっての恩恵はほとんどないという議論がなされていた。当時、コディ・リーが報じたところによると、クアルコムのシニアバイスプレジデント兼最高マーケティング責任者(CMO)だったアナンド・チャンドラセカールは次のように語っていた。「アップルがA7で(64ビットを)採用したことで騒がれているのは知っているが、彼らはマーケティング用のギミック(仕掛け)を行っているのだと思う。消費者が得られるメリットは皆無だ」
この主張は世間には受け入れられなかった。また、競合他社の本音を反映したものでもなかった。それまで慎重に描かれていたモバイルチップのロードマップは、即座に書き直される必要に迫られた。
クアルコムは即座に「Snapdragon 810」で対抗したものの、このチップセットには「820」が登場するまで解決されない問題がつきまとった。チップセットが異常に発熱し、高温による損傷を防ぐためにパフォーマンスがすぐに抑制(サーマルスロットリング)された。そのため、複数のメーカーがプロセッサの動作クロックを2.0GHzから1.2GHzに引き下げて(アンダークロックして)使用せざるを得なかったのだ。
iPhone、Mac、そしてその先への道を切り拓いたA7
A7はアップルにとって極めて重要な転換点となった。デスクトップクラスのARMv8アーキテクチャをいち早く採用したことで、iOSはAndroidに先駆けて、コンピューテーショナル・フォトグラフィー(計算写真技術)や高度なグラフィックス、そして64ビットのアプリエコシステムを提供することができた。これは、アップルが自社のOSに最適化した自社製チップへと移行し、クアルコムやインテルへの依存を脱却することになる「Appleシリコン」革命の第一歩でもあった。
本稿は「iPhoneの30日(30 Days of iPhone)」の20日目の記事だ。昨日は、Touch IDと生体認証セキュリティがもたらした影響について振り返った。



