近年、AIが人類に及ぼしうる影響への懸念が高まっている。2017年ノーベル平和賞受賞者の1人は、AIが人類を滅ぼすかもしれないとまで示唆した。それは単なる不安を煽る話ではない。9月16日には、自律性を高めるシステムへの懸念が改めて強まるなか、OpenAIが予期せぬ、あるいは許可されていないモデルの挙動を定期的に開示する方針をロイターが報じた。しかし、AIが我々の存続を脅かすかどうかという議論は、物理世界の理解と改善にすでに役立っている取り組みを覆い隠してしまうことがある。この分野を牽引している企業のひとつが、CoreWeaveによるMonolith AI買収から生まれた部門だ。同社に話を聞き、そのフィジカルAIがモビリティだけでなく多方面でどのように役立っているのかを取材した。
Monolith AIは、エンジニアが試験データから学ぶための支援を軸にビジネスを築いた。自動車分野が中心で、特に新しいバッテリー化学組成の評価プロセスの高度化に力を入れていた。CoreWeaveは2025年10月に同社を買収した。そのチームと手法は現在、9月10日に開始されたCoreWeaveの「Physical AI Field Engineering」サービスの基盤となっている。「Monolithは自動車と、ハードウェアとの交差領域で強みを持っていた」と、現在CoreWeaveのフィジカルAI担当シニアバイスプレジデントを務めるリチャード・アールフェルドは語る。「自動運転車のサプライヤーではなかったが、その領域にはいた」。このサービスは、専門家を顧客に配置し、顧客自身のエンジニアリングデータを用いてモデルを構築・検証する。CoreWeaveによれば、この手法はこれまで自動車、航空宇宙、ロボティクスの分野で100件以上のプロジェクトに適用されてきた。その野心は、より速いクルマを作ることをはるかに超えている。
バズワードを超えるCoreWeaveのフィジカルAI
フィジカルAIは非常に流行している呼称である。中国ではXPENGが主要な推進役の1社となり、AI定義型車両と、同社の優れたVLA 2.0自動運転車システムの背後にある考え方を、ロボットや空飛ぶモビリティへと広げている。アールフェルドは、一見異なるこれらの機械の間に本質的なつながりを見ている。「こうした企業はもはや自社を自動運転車企業とは考えていない。フィジカルAI企業だと考えている」と同氏は言う。「この1年、このテーマに取り組んできて、私も彼らに同意するようになった。ドローン、クルマ、ロボット、掘削機、ヒューマノイド、製造施設のいずれを訓練しているかにかかわらず、2025年から2026年にかけて変わったのは、LLM(大規模言語モデル)で起きたことを物理世界でも再現できると人々が気づいたことだ」。同氏の定義は明快である。「結局のところ、物理世界に触れるAIモデルであり、だからこそ『フィジカルAI』なのだ。広い分野ではあるが、身体性を伴う何か、つまり現実世界と関わることを想定した何らかのハードウェアが存在する」
CoreWeaveの自動車部門を率いるサム・エメニー=スミスは、実務的な条件を付け加える。「私なら現在のフィジカルAIを、モデルベースのアプローチが現実世界に因果的な影響を及ぼす領域と定義する」と同氏は言う。「多くの場合、それは依然としてプロセスの中で、しかも安全上重要な環境の中で作用することを意味する。そこでは、ある面で40年、50年と大きく変わってこなかった産業と交差する。フィジカルAIにとっての障壁の1つは、そうした産業に入り込み、暗黙的で内在的な知識を捉えることだ」。これには、機械内部の知能と、それを設計・運用する人々を支援するツールの双方が含まれる。CoreWeaveの役割には、この考えを実際に動くアプリケーションへと変えるために必要なコンピューティングインフラ、ソフトウェア、エンジニアリングの専門知識が含まれる。
ピットウォール上の人間を支援するCoreWeaveの手法
CoreWeaveは、モーターレースの世界で代表的な事例を開発した。アストンマーティンのF1チームは、常駐したCoreWeaveのエンジニアと協力し、手作業で注釈を付けた7時間分のレース音声を用いた文字起こしモデルを開発し、75回の反復を経て精度を高めた。このプラットフォームは現在、40の無線チャンネルを同時に処理し、30秒未満のピットウィンドウ内でタイヤ戦略に関する問いに即座に答えられるほどの速さを実現している。このアプリケーションは、プレッシャー下にある人間の判断を支援する。マシンの指揮を執るわけではない。
「『あなたが関心を持っているのはこれだと思う』と表示し、同時に質問もできるダッシュボードを想像してほしい」とアールフェルドは語る。「ChatGPTのインターフェースに少し似ているが、特定の事柄を聞き取るように特化して設計されたエージェントだ。問い合わせることもできるし、関連性が高く、迅速な判断を要する可能性があると認識したイベントについて警告を送ることもできる。『このチームはこれを実行した。確認すべきだと思う』という具合だ。本質的には、より高速なリアルタイムコミュニケーションツールである」
「過去数年分のレースから学ぶこともできる。『2年前にオースティンで雨が降ったとき、他チームはこう動いた』といった具合だ」とアールフェルドは付け加える。「レースの現場にいてミリ秒単位で反応が求められるなかで、人間がそれをすべて記憶しているなど不可能だろう。これは、多数の通信をカバーする極めて高速なリアルタイム処理が、人間のより迅速な意思決定をいかに支援できるかを示す、興味深い事例だ」
市販車のエンジニアリングには、より目立たない機会がある。CoreWeaveのサービスは、テストベンチ、シミュレーション出力、生産センサー、ライブテレメトリーを活用する。日産テクニカルセンター・ヨーロッパでは、AIがエンジニアリングデータや試験データからより多くの価値を引き出す一方で、車両の品質、安全性、信頼性を維持するのに役立っている。「現在は、意思決定の支援が大幅に増えている。物理試験の時間を短縮し、試験計画を削減し、従来のシステムでは見つけるのが非常に難しい異常を検出することだ」とエメニー=スミスは語る。「そこでヒューマン・イン・ザ・ループ(人間が判断に関与する仕組み)の要素が重要であり続ける」。故障をより早く発見したり、より多くの情報を得られる試験を選んだりすることで、顧客が運転する前にエンジニアが車両を改善できる。重要なのは、このサービスが、顧客が自らのデータとそこから生まれるシステムを管理しながら、自社のモデルを運用・再訓練できる状態にすることを意図している点である。
フィジカルAIの説明責任を維持するCoreWeave
物理世界は、大規模言語モデルが対応しきれないほど厳しい試練を課す。チャットボットの説得力ある回答は、車両が正しくブレーキをかける証拠にはならない。だからこそ、ロボティック・レーシングシリーズのA2RLは、そうした種類のAIを車両制御に使っていない。アールフェルドは、訓練素材を組み立てる複雑さを強調する。「フィジカルAIモデルの訓練は格段に難しい。単に膨大なテキストを吸収する基盤モデルではないからだ」と同氏は言う。「突然、多次元になる。動画、3D、テレメトリー、人間、センサー、シミュレーションデータ、現実世界のデータが関わる。そしてフィードバックループ全体があり、最新のモデル方策が実際にそれらすべてのデータを考慮しているかを検証する必要がある」
「誤った訓練データを使うとリスクが生じ得るため、ループ全体を通じて、これらすべてのソースからのデータが安全であり、狙っている種類の危険な状況において実際にクルマを改善していることを確保しなければならない」とアールフェルドは続ける。この要件は、エンジニアが顧客と並走することを重視する理由の説明にもなる。GPUへのアクセスだけでは、シミュレーションが危険な現実世界の状況を正確に表しているかどうかを判断できない。
「エンジニアリングの現場では、AIが人間の介入なしに行動することを許されるプロセスはほとんど見ない」とエメニー=スミスは言う。「AIが単独で製造施設全体をシャットダウンすることはない。適切な人に非常に迅速に警告するシステムがあり、そこからその人が施設をシャットダウンする。人間が依然としてループ内に存在するのだ」
アールフェルドは、車両や産業機械を取り巻く既存の安全文化にも言及する。「こうした技術を使って大きく前進することはできるが、それでも規制を順守しなければならない。工場内でも道路上でも、安全でなければならない」。これらは、フィジカルAIが無害であることを証明するものでも、将来の超知能をめぐる議論に決着をつけるものでもない。人間による監督は実際に機能しなければならず、まれな失敗もなお重要である。それでも、これらの応用は評価可能なものを提示している。定義されたタスク、測定可能な性能、そして導入に責任を持つ人々である。
CoreWeaveがもたらす化学プロセスの改善と新薬開発
同じ基盤的なコンピューティング能力は、輸送をはるかに超える恩恵を支えることができる。CoreWeaveのコンピュートを利用する別の企業であるXymeは、AIを酵素や触媒に適用し、燃料、医薬品、食品、材料を、より少ないエネルギーと廃棄物で生産するより良い方法を探っている。同社のアプローチは、既存の選択肢を単に順位付けするのではなく、物理と化学が何を許すのかを問う。潜在的な帰結には、よりクリーンな産業プロセスや、より手頃な価格の製品が含まれるが、そうした恩恵は最終的に大規模に実証されなければならない。
「酵素は、非常にエネルギー集約的なプロセスの必要エネルギーを大幅に減らすことができるが、適切な酵素を発見するのは難しい」とアールフェルドは言う。「酵素によってプロセスが可能になり、エネルギー要件が非常に低い再生可能ガソリンを作れるようになること、そしてAIを使ってその酵素を発見することを想像してほしい。それは世界経済にとってゲームチェンジャーになり得る」。これはまだ実用化された技術ではないが、科学的発見がAIの価値をめぐる議論に含まれるべき理由を示している。
「XymeはAIを使い、化学が何を可能にするのかを探っている。社会が依存する燃料、医薬品、食品、材料を、より少ないエネルギーと廃棄物で作るためのより良い方法を設計している」とXymeのCEO、アンドリュー・ホプキンスは語る。「AIの価値は、その強力さだけにあるのではなく、それを向ける現実世界の課題にある」
Isomorphic LabsもCoreWeaveのコンピュートを利用している一例であり、主要な疾患に対する新たな治療法を見出すことを目指して創薬にAIを適用している。研究が成功したとしても、それが安全で効果的であると証明された医薬品として結実しなければならない。しかし、有用な分子の探索を加速させることは、この技術の極めて魅力的な応用例だ。
「これまでに画期的な進歩をもたらすことができなかった分野で、AIがどのようにブレイクスルーを生み出せるかを見極めることに、もっと時間を割くべきだと思う」とアールフェルドは言う。「再生可能エネルギー、次世代バッテリー、医療、創薬、あるいはがん研究であろうと、世界で最も困難な課題に対してAIツールを利用できるようになれば、計り知れない有益な結果をもたらす可能性がある」
クルマにとどまらないCoreWeaveのモビリティ
道路に話を戻すと、WayveはCoreWeaveのコンピュートを利用して自動運転技術を開発しており、最近ロンドンで運行するライセンスを付与された。潜在的な恩恵は、ドライバーを通勤から解放することにとどまらない。より安全な自動化交通は、運転できない人々に自立した移動手段を広げる可能性がある。ただし、そうした成果は、より大きなモデルを訓練しただけで確立される恩恵ではなく、検証すべき目標にとどまる。
エメニー=スミスは重要な課題を指摘する。「推論分野における合成データ生成(実際のデータではなく、シミュレーションなどで人工的に作られたデータ)を巡る激しい競争も見られるようになるだろう。単に合成の走行距離を迅速かつ安価に生成するだけでなく、訓練プロセスにおいて実際に重要で有用な走行距離を生成することが求められる」。シミュレーションは、通常の走行データではほとんど捉えられない難しい状況に車両をさらすのに役立ち得る。ただし、CoreWeaveを、そのインフラが支えるあらゆるシステムの開発者と混同すべきではない。
「ここで重要なのは、CoreWeaveがクラウド企業だという点だ」とアールフェルドは言う。「私たちは他の人々が自らのAIユースケースに取り組めるようにしている。サムと私は事業のフィジカルAI部門で働いているが、これらのシステムを動かしているのは『私たちのAI』ではない」。モビリティそのものが広がりつつある。クルマに加え、電動垂直離着陸機(eVTOL)やヒューマノイドロボットは、人、モノ、道具を動かす異なる方法を提供する。それらは、知覚、シミュレーション、訓練、制御というフィジカルAIの基盤を共有し得る一方で、それぞれ異なるハードウェアと安全性検証を必要とする。道路走行モデルが、自動的に有能なパイロットになるわけではない。
「基盤モデルを訓練し、ファインチューニングして導入する。あるいは週に1回、大量のデータを集め、基盤モデルを再訓練し、ファインチューニングして再び導入するかもしれない」とアールフェルドは言う。「そのワークフローは、キッチンロボット、クルマ、ドローンのいずれを作っているかにかかわらず、ほぼすべてのフィジカルAIハードウェアの課題に非常によく似た形で適用できる」。フィジカルAIを楽観視する根拠は、有用な仕事から始まる。レースエンジニアの判断を助けること、車両開発者が不具合を見つけること、あるいはいずれ乗客が自立して移動できるようにすることだ。CoreWeaveが主要な旗振り役となるフィジカルAIは、機械が人間の能力を拡張する未来を想像する理由を与えてくれる。その目的地は、人生という旅をより良いものにすることかもしれない。



