次世代の工場インターフェースは「メガネ」になるかもしれない――私たちが賢く活用できれば
子どもの頃、我が家の書斎には不格好な家族用のコンピューターがあった。中学1年生のとき、私は音楽共有サイトから入ったウイルスでそれを動かなくしてしまった。何日も使えなくなり、私は1カ月間、そのコンピューターの使用を禁止された。
大学に入るころには、自分専用のノートパソコンを持っていた。アルバムをCDに書き込み、図書館に足を運ぶことなく調べものをし、どこにいてもプレゼンテーション資料を作成することができた。卒業して間もなく、初代iPhoneの登場によって、私のポケットにコンピューターが収まるようになった。
私は単にノスタルジーに浸っているわけではない。持ち運べるテクノロジーは、働き方を変える。2000年代初頭に営業職に就いていた人に聞いてみるといい。オフィスに戻ることなく、プレゼンテーションを行い、見積もりを更新し、在庫を確認し、注文を送信できることは、計り知れない強みだった。情報はついに、それを必要とする人と共に移動するようになったのだ。
製造業もいま、ウェアラブル技術によって同様の局面を迎えつつある。
工場での仕事は身体的なものだ。人々は機械の前に立ち、設備を修理し、部品を検査し、新しい作業員を訓練し、両手を塞がれながらトラブルシューティングを行う。スマートフォンやノートパソコンは便利だが、どちらも目の前の作業から人の意識を逸らせてしまう。これに対し、スマートグラスであれば、手と意識を作業に集中させ続けることができる。
スマートグラスが役立つ場面
1月、シーメンス(Siemens)は、産業用AIを「Meta Ray-Ban(メタ・レイバン)AIグラス」に導入する提携を発表した。これにより、現場の作業員にハンズフリーの音声ガイダンスや安全情報を提供することを目指す。その数カ月後、シーメンスの幹部は、同社が自社工場でこの技術をまだテスト中であると語った。長年にわたる実証実験を経て、ハードウェアの軽量化、音声認識の向上、そして膨大な技術マニュアルを検索できるAIの登場により、スマートグラスはついに日々の工場業務で十分に役立つ実用性を備えるようになったかもしれない。
保全担当者は、工具を置かずに機械を見てマニュアルを呼び出せる。経験の浅い従業員は段取り替え(ラインの切り替え)の最中に指示書を確認でき、品質検査官は端末まで戻ることなく、部品を基準値と比較できる。熟練の作業員は、自身のナレッジが失われる前に、困難な課題をどのように解決したかを記録できる。参考書を調べたり、スマートフォンを取り出して写真を撮りAIで解析したりすることなく、未知の部品を特定するという極めて単純なケースであっても、時間の節約になり、非常に有用である。
トレーニングこそが、最も強力なユースケースかもしれない。デロイトと製造業研究所(MI:Manufacturing Institute)による2026年の調査では、2025年から2030年の間に、製造業および関連する技術職において230万人の求人が発生すると予測されている。スマートグラスが熟練の技術者を生み出すわけではないが、経験の浅い作業員が仕事を進める中で、適切な指示や工場のナレッジを目の前に提示することはできる。
ボーイング(Boeing)では、技術者が約10年間にわたり、複雑な航空機の配線設置作業を進めるためにスマートグラスを使用している。AR(拡張現実)スマートグラスは、技術者が見ている航空機の部位にデジタルの配線図を重ね合わせ、ステップバイステップの視覚的な指示を提供する。これにより、組み立て作業が高速化し、エラーが減少する。この技術を使って訓練された技術者は、印刷されたマニュアルを使用した場合はわずか50%だったのに対し、初回の試行で90%の精度を達成している。このシステムは、新入社員の立ち上がり期間(一人前になるまでの時間)を1年から約1週間に短縮する。これは、人材不足が深刻化する製造業者にとって、おそらく最大のアピールポイントだろう。
BMWは、車両修理における事例を提供している。2019年、BMWは全米347カ所の全サービスセンターにスマートグラスを導入し、技術者がハンズフリーのビデオ通話を通じて専門のエンジニアとつながるようにした。これは工場の生産現場ではなくディーラーのサービス部門での事例だが、問題は同じだった。すなわち、専門的な指導を必要とする技術者が、設備から離れることなく、リアルタイムでその指導を受けられるようになったことだ。
DHLは自社の倉庫で、ビジョンピッキング(画像認識によるピッキング)ソフトウェアを搭載したスマートヘッドセットを使用するプログラムを導入し、従業員が注文を処理する際に視覚と音声の合図で誘導している。この技術により、注文の精度は99.6%に向上し、DHLの倉庫管理システムと統合されているため、在庫は自動的に最新状態に保たれ、新入社員でも初日から戦力として稼働できる。工場は、この手法を部品の補充やキッティング(部品のセット化)、部品の選定に応用できるだろう。
もっとも、スマートグラスがすべての場面で正解となるわけではない。QRコードを読み取れば数秒で正しい設定シートが開くのであれば、QRコードを使い続けるべきだ。固定されたスクリーンの方が、オペレーターが複数のデータポイントをよりよく確認できるのであれば、スクリーンを維持すべきだ。スマートグラスやその他のウェアラブルデバイスが価値を発揮するのは、作業員が探し回る手間、設備から離れる手間、別のデバイスを操作する手間、あるいは数日かかるかもしれない専門家の助けを待つ手間を省ける場合である。
ルールの策定を最優先にすべき理由
作業員がカメラ、マイク、AIツールを顔に装着した瞬間、ルールは一変する。そのデバイスは、他の従業員や、顧客の部品、機密である製造プロセス、あるいは業務とは一切関係のない会話を記録してしまう可能性がある。製造業者は、スマートグラスが何を録画・録音できるのか、データはどこへ送られるのか、誰が閲覧できるのか、そしてどのくらいの期間保管されるのかを決める必要がある。
ウェアラブルを既存の社内ポリシーに組み込む。 ハードウェアは急速に変化するが、秘密保持、情報セキュリティ、安全性、従業員の録音・録画に関する基本ルールは変わらない。それぞれのスマートグラスを、認証、承認済みソフトウェア、セキュリティアップデート、暗号化、アクセス権限の削除手段を備えた、会社の管理下にあるデバイスとして扱うべきだ。米国国立標準技術研究所(NIST:National Institute of Standards and Technology)による企業向けモバイルデバイスのガイドラインが、有益な出発点となる。
スマートグラスを使用できる場所とできない場所を明確にする。 デバイスの着用、AI機能の使用、および録画・録音には、それぞれ異なるルールが必要になるかもしれない。顧客向けの業務、研究開発、コンピューターの画面、独自の機密プロセスには、より厳格な制限を設ける必要がある一方で、トイレや休憩室は録画・録音を禁止すべきだ。作業員は、カメラやマイクがいつ作動しているのか、映像の所有権は誰にあるのか、そしてトレーニングやトラブルシューティング目的で作成された録画が後から人事評価に使用される可能性があるのかを知る必要がある。バックオフィスでは、おそらく当面の間、スマートグラスの有用性はないだろう。就業規則に新たなポリシーを設けることで、直接的な適用性がない場所での録画・録音デバイスの使用を禁止することを検討すべきだ。
安全性は作業エリアごとに判断しなければならない。 周辺視野を遮るデバイス、稼働中の設備の近くで注意力を散漫にするデバイス、あるいは保護具の邪魔になるデバイスは、そのエリアに持ち込むべきではない。米国労働安全衛生局(OSHA:Occupational Safety and Health Administration)は、作業員が関連する危険に直面する場所での、適切な目と顔の保護具の着用を義務付けている。AIによるガイダンスにも制限が必要であり、特にロックアウト・タグアウト(事故防止のための機械の稼働停止と標識表示)、電気工事、および有資格者が責任を持ち続けなければならない重要な品質判断においては制限が必要である。
まずは1つの有益な試験運用から始める
賢明な次の一歩は、繰り返し発生する1つの課題に焦点を当てた、小規模な試験運用(パイロット)である。例えば、特定製品群の機械のトラブルシューティングや、第2シフトのメンテナンスチームのサポート、あるいは1つのラインにおける段取り替えのガイダンスなどだ。実際にスマートグラスを着用する作業員は、生産部門、安全管理部門、IT部門、人事(HR)部門と共にこのテストの設計に協力すべきである。なぜなら、保護具の下でデバイスが曇るか、騒音の多いエリアで音声コマンドを聞き落とすか、あるいは「一見正しそうだが実は誤っている回答」を提示するかといったことに最初に気づくのは、彼らだからだ。
その上で、作業員がより早く答えを見つけられるようになったか、エラーが減少したか、設備から離れる時間が短縮されたかを測定する。また、提示されるガイダンスを信頼しているか、デバイスがいつ録画しているかを理解しているかを尋ねる。最初のカメラのスイッチが入る前にルールを整備し、試験運用から得られた知見に基づいてルールを修正していくべきだ。
スマートグラスが、スマートフォンがどこでも普及したように工場の現場で当たり前の存在になるかどうか(あるいはいつになるか)はわからない。しかし、製造業者にとって今日、その答えは必要ない。重要なのは、ハンズフリーの情報が真に作業員の助けとなる職務を見つけ出し、工場の実際の環境下でその技術をテストし、技術が普及する前に明確な境界線を引くことである。
振り返ってみれば、私の働き方を変えたすべてのデバイスは、必要な瞬間に有益な情報をより身近に引き寄せてくれたからこそ、その役割を果たした。そして、メガネ型デバイスは工場の現場でそれを実現できる。もしスマートグラスが、誰かが機械から離れることなく課題を解決するのを助け、作業員がその技術の使われ方を信頼するならば、自ずと現場での地位を確立するだろう。



