私たちの会社では、自社のAIソリューションスイートが最良の友となっている。私たちはそれに話しかける際、「お願いします」や「ありがとう」と言っている(もっとも、そうすることは良くない考えだと考える人々もいるが)。私たちはその洞察を高く評価し、すべてのクライアントのために行動へと移している。
20年以上にわたり経営コンサルタントおよびCEOのアドバイザーを務めるなかで、私は「データは大量にあるが、それが何を意味するのかわからない」「手作業のプロセスがあるが、自動化の方法がわからない」「価格シグナルがないため、新しい市場で手探り状態にある」といった、企業の抱えるさまざまな課題を目の当たりにしてきた。
特定の目的に特化したAIソリューションは万能薬ではないものの、自社のビジネスの具体的なニーズに合わせて構築されるため(レゴブロックを選ぶようなものだ)、必要な機能を選択し、既存のワークフローに統合することができる。一般的な汎用AIツールとは異なり、それは完全に自社専用のものであり、誰とも情報を共有することはない。
多くの企業が、バリューチェーン全体にわたってAIを活用しなければならないというプレッシャーを感じている。しかし、その大半は大手AIベンダーからの関心を引くことができず、このテクノロジーを構築・導入するための社内人材も不足しており、ライセンスを購入した後も、手元に残るのは請求書だけで、見るべき成果はほとんどない状態に陥っている。
AIは自社のビジネスに合わせて構築されるべき
AIがあっという間に世間の話題を独占した一方で、あらゆる規模の企業における「適切な」導入のスピードは遅い。AIの採用を宣言し、その取り組みを公にアピールし、必ずしも具体的な戦略がないままAIツールを導入するという「形だけの」PR手法は、現時点では通用するかもしれないが、長期的には「裸の王様」になるだけだ。
中堅企業と仕事をするなかで、私はAIの導入度が「テクノロジーがどれだけの価値を生み出すか」ではなく、「何人の従業員がAIエージェントにアクセスできるか」で測られているケースをよく目にする。私たちの経験から言えば、このアプローチが不十分である理由は5つある。
1. 大手AIベンダーは特定の中堅企業に注力できない
大手AIの「ビッグ10」(ChatGPT、Claudeなど)は、特に中小・中堅企業に対して注力することはない。彼らが、適切な価値獲得ツールを構築できるほど詳細かつ微妙なニュアンスまで、ある業界や企業の価値提案を理解することは決してない。
2. 個人の効率化は企業価値ではない
多くの企業が採用しているお決まりのアプローチ(デスクトップエージェントなど)は、ある程度の効率化(特定のタスクをより早く終わらせるなど)をもたらすが、最大のメリットを享受することはできない。現在「流行している」トップダウン型のアプローチは最適とは言えない。AIはユースケース(活用事例)ベースで使用されるべきである(もちろん、時間が経つにつれてパターンが現れ、コードの共有やワークフローでの利用は増加していくだろう)。
3. 文脈が精度を決定する
よく知られたエージェントは複雑な質問に答えることができるが、問題は細部に宿る。エージェントには適切な文脈(コンテキスト)が必要だ。その文脈(ある意味でのカスタマイズ)がなければ、出力結果に欠陥が生じることになる。
4. 最適なAIツールには専門人材が必要
適切なAI導入には、希少で高価な技術人材が必要となる。多くの場合、求められる人材は非常に新しい領域であるため、入念に編成された専門チームの中にしか存在しない。一企業が自社でそれを実現しようとすれば、コストは高くなる。
5. 自社のデータは自社のものにとどめるべき
最後に、どのビジネスにとっても機密保持は最優先事項である。もし汎用的なエージェントが学習のために自社の情報を使用すれば、自社のノウハウが世間に知れ渡る可能性が非常に高くなる。『ニューヨーク・マガジン』誌が表現したように、「ChatGPTは巨大な告げ口屋」なのだ。
なぜ中堅企業は大手にとって対象外なのか
第一に、大手AI企業の投資期間はより長期にわたる。顕著な例として、彼らは莫大な投資を要するデータセンターの建設を進めている(2026年にはこれまでに少なくとも1300億ドル(約20兆5000億円)がそうした取り組みに費やされている)。
第二に、彼らの目的は、適切な価値獲得ツールを構築できるほど、特定の業界や企業の価値提案を詳細かつ的確なニュアンスで理解することではない。彼らのアプローチはマクロでトップダウンだが、実際の価値獲得は通常、より短期のボトムアップな取り組みに存在する。
そのため、より小規模で起業家精神にあふれた企業のほうが、AIスイートをよりモジュール(構成単位)化し、アジャイル(機動的)で、カスタマイズや統合が容易なものにする支援ができると私は考えている。さらに、これらのモジュールは、最も一般的なユースケース(ワークフローの自動化など)に合わせて設計することが可能だ。
すべての人にAIを
デスクトップにClaude(またはその他のAIツール)を導入していない人は、別の現実に生きていると言える。Claudeなどのツールは、各従業員が業務を効率化し、時間を節約し、ひいては仕事の質を高めることを可能にする。しかし、このアプローチは極めて断片的な導入につながる可能性がある。
誰もが任意のタスクにAIエージェントを使用できる。その結果、ビジネス全体を軸に設計されるのではなく、一度に1つのタスク、1人の従業員、または1つの部門にのみAIが適用されることになる。確かに財務チームのレポート作成は早くなる。マーケティングチームのアウトリーチキャンペーンは改善される。しかし、個人の効率は向上するものの、これは組織全体にとってAIがもたらし得るメリットのほんの一部にすぎない。
精度が重要である理由
精度に関して言えば、世の中には「80対20の法則(パレートの法則)」が適用できない領域が数多く存在する。プライベート・エクイティ業界のデータや洞察を提供する際、「おそらく」という曖昧さは許されない。私たちのクライアントは、より信頼性の高い別の情報源へとすぐに乗り換えてしまうだろう。
主要なAIエージェントを使用して、今年のすべてのフィンテック取引のリストなど、具体的な情報を検索してみてほしい。その回答には、何度も失望させられることになるだろう。適切な文脈がなければ、エージェントは不正確な回答(時にハルシネーション(幻覚)と呼ばれる)しか返さない。
妥協できない機密保持
データや製品の特許が流出すれば、他社との差別化は失われる。もし「よく知られた」AIエージェントが学習のために企業の情報を利用すれば、そのノウハウは公のものとなってしまう。機密性を保持するためには、信頼できるパートナーとともに維持管理される、モジュール化され完全に自社が所有するAIソリューションを採用する必要がある。
ユースケースを熟知し、精度を提供し、機密性を維持し、希少な人材をもたらしてくれるパートナーは、素晴らしい「AIへの滑走路」を築くことができる。だからこそ、大局的に考えつつも、焦点を絞って構築することを忘れてはならない。勝者となるのは、単に基本的なユースケースにAIを利用するだけでなく、そもそも自社を他社と差別化していた強みをさらに増幅させるためにAIを活用する企業なのだ。



