AI企業はこの数年間、ますます強力なモデルの開発に奔走してきた。そして現在、彼らはより困難な問いに直面している。それは、それらのモデルが実際の企業内でどのように価値を創造するのか、という問いだ。
17世紀、イングランドは今日でも耳にするような大きな問題に直面していた。自らの野望が、自国の手が届く範囲をはるかに超えて広がっていたことだ。
大西洋を何千マイルも越えたカリブ海にまで支配を広げることを望んだ彼らは、私掠船(しりゃくせん)という解決策を見出した。これは国王から敵船の攻撃や国益の追求を代理で行う許可を得た、民間の武装船のことである。
私掠船が効果的な戦略となったのは、単に遠くまで航海できたからではない。その戦略的価値は、イングランド自身が存在できない場所に、同国の能力を運ぶことにあった。
現在のAIも、これとよく似た戦略的課題に直面している。
最大級のAIモデルはすでに巨大な能力を備えている。しかし、能力だけでは価値を生み出せないことは極めて明白だ。真の優位性は、その能力を特定のミッションにどのように適用し、環境に適応させ、そこから最大限の価値を引き出すかを知っていることから生まれる。
ここで重要になるのが、「フォワード・デプロイド・エンジニア(現場配備型エンジニア)」である。彼らの役割は、単にモデルを配備することではない。むしろ、モデルが持つ強力で汎用的な能力を取り入れ、適切なデータ、システム、ワークフロー、意思決定と結び付けることで、特定のビジネスユースケースにおいてその能力をより効果的に機能させることにある。
業界はこのモデルに本格的な取り組みとリソースを投入し始めている。OpenAIは、組織が同社のモデルを実運用環境へ導入するのを支援することに特化した、新たな導入支援会社を立ち上げた。同様に、マイクロソフトは25億ドル(約3940億円)の投資と6000人の業界およびエンジニアリングのエキスパートを擁するMicrosoft Frontier Companyを設立し、企業におけるAI導入の成功に焦点を当てている。OpenAIやマイクロソフトにとどまらず、AWSもまたフォワード・デプロイド・エンジニアリングのモデルを中心としたAI導入イニシアチブに10億ドル(約1580億円)を投じることを約束している。
ある意味で、これはイギリスが何世紀も前に学んだ戦略的教訓と同じである。能力が成果を生み出すのは、それをミッションが存在する現場へと持ち込み、実際に機能させたときだけなのだ。
なぜAIの経済圏は川下へとシフトしているのか
同じ時代に生まれた経済学の概念が、もう一つの有益な視点を与えてくれる。それは「分業(専門化)」だ。
1776年3月9日に出版された、スコットランドの経済学者アダム・スミスによる著書『国富論(原題:An Inquiry into the Nature and Causes of the Wealth of Nations)』は、有名なピン工場の例を用いて分業の概念を説明した。作業を専門的なタスクに分割することで、生産量を劇的に増加させられることを示したのだ。
ソフトウェア業界、より具体的にはSaaSは、この専門化のアイデアを体現している。SaaSプロダクトは通常、特定のユーザー層向けの明確に定義された課題を解決するために構築される。CRMは顧客関係を管理し、HRプラットフォームは人事労務を管理する。プロダクトが専門化されているのだ。そのビジネスモデルは主に、プロダクトを一度構築し、それを規模に応じて繰り返し配信することを中心に回っている。
しかし、AIは異なる。
最も強力なAIモデルは、ますます汎用的になっている。同じモデルが、開発者のためにコードを書き、銀行のために文書を分析し、カスタマーサービスチームを支援し、製造業者が業務データを理解するのを助けることができる。
だが、筆者はAIモデルのこの汎用化がサービス業界にもたらす機会を確信している。基盤となるインテリジェンス(知能)が汎用的になればなるほど、その適用方法はより専門化される必要がある。そしてこれこそが、AI経済が川下へと移行し始める場所なのだ。すなわち、インテリジェンスの構築と配信から、そのインテリジェンスをどのように適用するかという専門化への移行である。
これは、興味深い経済的交差点を生み出す。
• 配信 + 反復 = プロダクトの経済学
• 専門化 + 適用 = サービスの経済学
OpenAIやマイクロソフトのような企業は、この両方を組み合わせようとしている。汎用的な能力を大規模に構築・配信し、そのうえで各企業、ワークフロー、成果に合わせて適用を専門化するのである。
サービス業界がすでに握っている「圧倒的な優位性」
サービス企業が持つ最大の強みの一つは、一朝一夕には構築できないものである。それは、企業が実際にどのように機能しているかという「組織的知見(インスティチューショナル・ナレッジ)」だ。
この組織的知見は、ビジネスにおいて最も重要な次のような問いに対する答えを握っている。AIは自社のレガシーシステムと連携できるか? 何を安全に自動化できるか? 人間の判断はどこに残すべきか? 既存のワークフローにどう適合させるか?
AIが川下へと移行し、実際に価値が生み出されるシステム、ワークフロー、意思決定に近づくにつれ、この組織的知見はさらに重要性を増していく。
もし、この組織的知見がAI時代における戦略的優位性になり得るとしたらどうだろうか。
サービス企業がさまざまな業界、ワークフロー、アーキテクチャ、変革を通じて学んできたパターンが、AIの設計、展開、ガバナンスの手法に組み込まれるとしたらどうだろうか。
それは、サービスポートフォリオに単にAIを追加することよりも、はるかに興味深い機会である。
つまり、サービス業界がすでに企業について知っていることを活用し、AIをより文脈に即した、より信頼性が高く、より有用で、より専門化されたものにするということだ。
サービスをスケールさせるための新ルール
筆者は、サービスがプロダクトになる必要はないと考えている。しかし、価値の創造とスケーリングについてプロダクトから学べる教訓を、サービスも取り入れる必要があると確信している。
「人」から「プラットフォーム」へ
専門知識を個人の手から、再利用可能なエンジニアリングプラットフォーム、フレームワーク、ツール、アクセラレーターへと移行する。
「プロジェクト」から「プロダクト」へ
同じ問題に何度も直面しているなら、毎回ゼロから解決するのはやめよう。代わりに、これまでに学んだことを再利用可能なIP、コンポーネント、プロダクトへと変換するのだ。
「時間」から「成果」へ
価値の単位を、提供された労力から創出された成果へとシフトする。
「提供」から「導入」へ
ソリューションを単に納品するだけでなく、実際の企業環境でそれを確実に機能させる段階へと進む。
結論
私掠船は有用な教訓を与えてくれる。能力は、価値を生み出すことのできる環境に到達するまでは、単なる可能性にとどまるということだ。
AIもすでにこれと似た局面に入っている。驚異的な汎用インテリジェンスが構築された今、価値は「AIに成果を出させる」という、より困難な領域へと移行しつつある。
これこそが、AI企業が今、導入支援やサービスという川下の領域に進出している理由だ。これはサービス企業にとって戦略的な好機となる。ただし、それまで蓄積してきた組織的知見を、単なる人員数に依存しない、よりスケーラブルなものへと変換できる場合に限られる。
次世代のサービスモデルは、その知見を異なる方法で構築することになる。すなわち、人からプラットフォームへ、プロジェクトからプロダクトへ、時間から成果へ、そして提供から導入へである。
筆者はこれを、プロダクトとサービスの競争とは捉えていない。むしろ、2つの価値、すなわち「ソフトウェアの規模(スケール)」と「サービスの文脈(コンテキスト)」の融合であると考えている。



