過去の前提が通用しなくなるとき:物理的リスクエクスポージャーの再評価
物理的リスクを伴うビジネス判断は、数十年にわたり、ある単純な原則に導かれてきた。それは、過去に起きたことが将来起きることの信頼できる予測材料になる、というものだ。
これまで浸水したことのない物件は比較的安全と見なされ、何年もの嵐を中断なく乗り切ってきた施設については、多くの組織が自社のリスクプロファイルを十分に理解していると考えてきた。しかし、今日のビジネス環境は、そうした前提に疑問を投げかけている。
豪雨の激化や都市の拡大から、インフラの老朽化、気象パターンの変化に至るまで、商業用不動産が直面するリスクは変化しつつある。その結果、過去の前提に依存し続ける経営者は、財務・業務面で重大な影響をもたらしうるエクスポージャーを過小評価している可能性がある。
これに対応するため、組織は資産をより適切に保護し、事業継続性を維持し、長期的な成長を支えるべく、自社の物理的リスクを再評価できる。
新たな開発、新たなエクスポージャー
リスクエクスポージャーを再形成している最も重要な要因の1つが、都市開発である。
地域社会が成長するにつれ、自然の景観は道路、駐車場、屋根、その他の不透水面に置き換えられることが多い。開発は経済的機会を生む一方で、水が環境の中をどのように移動するかにも影響を及ぼす。降雨は自然に地中へ吸収される代わりに雨水排水システムへ流れ込み、激しい気象事象の際にはその処理能力をたちまち超えてしまうことがある。
その結果、流出量が増え、過去に大きな洪水被害を経験していない可能性のある地域でさえ、局地的な浸水の可能性が高まる。急速に発展する商業回廊、住宅分譲地、拡大する都市中心部の近くに立地する企業は、その物件が当初建設された時点でははるかに小さかった水関連リスクに直面する可能性がある。
ハリケーン・ヘリーンは、物理的リスクを海岸からの近さだけで評価することはできないことを示した。同ハリケーンはジョージア州、テネシー州、ノースカロライナ州の一部で壊滅的な内陸洪水を引き起こし、海岸線から数百マイル離れた地域社会全体に被害をもたらした。
経済損失の推計は750億ドル(約11兆8000億円)を超え、従来のハリケーン被害想定地域から遠く離れた企業であっても、重大な業務・財務上の影響を受けうることを浮き彫りにした。
それから2週間もたたないうちに、ハリケーン・ミルトンがフロリダ州を襲い、壊滅的な高潮、激しい降雨、洪水、そして広範囲に及ぶ竜巻の発生をもたらした。多くの組織にとって、この立て続けに発生した嵐は、もう一つの新たな現実を浮き彫りにした。すなわち、1つの災害からの復旧作業が、事業運営が完全に安定する前に別の災害によって中断されうるということだ。
洪水リスクにおける複雑化
2024年には、アイオワ州北西部、サウスダコタ州南東部、ミネソタ州南西部で、数日間続いた豪雨の後に歴史的な洪水が発生した。一部地域では10〜20インチの降雨が観測され、過去最高水位、事業の広範な混乱、主要幹線道路の閉鎖、数百軒に及ぶ住宅や事業所の破壊を引き起こした。
同様に、ヒューストン地域でも2024年春、複数回にわたる豪雨により一部地点で15インチを超える雨量が記録され、水路が処理能力を超えたことで、地域全体に大きな影響を及ぼす深刻な洪水が発生した。
残念ながら、多くの組織はいまだにリスク管理における最も一般的な誤解の1つに依存している。すなわち、指定された洪水区域の外にあることは、洪水エクスポージャーの外にあることを意味する、という思い込みである。
洪水マップは依然として有用な計画ツールだが、保証ではない。多くは古くなっている。洪水は、激しい降雨、処理能力を超えた排水システム、雨水インフラの閉塞、急速な開発、局地的な気象事象など、さまざまな理由で発生し得る。多くの場合、洪水の被害を受けた企業は、水が必ずしも行政上の境界線に従うわけではないことを知ることになる。
現実には、洪水エクスポージャーは連続的な幅をもって存在する。最もリスクの高い洪水区域の外に位置する物件であっても、条件がそろえば洪水関連の重大な損失を被る可能性がある。気象パターンの予測が難しくなり、開発が地域の排水特性を変え続ける中で、組織は洪水リスクを固定された指定ではなく、継続的な評価対象として捉えるべきである。
業務上の影響
構造物への損傷が最も注目されがちだが、より広範な事業への影響はしばしばそれを大きく上回る。洪水、激しい嵐、ひょう、強風、冬季気象、その他の危険事象は、業務を中断させ、在庫に損害を与え、サプライチェーンを混乱させ、生産性が低下する期間を長引かせる可能性がある。
多くの組織は年次の予算見直し、設備投資計画、成長性の評価を実施しているが、自社の保険プログラムが現在の現実をなお反映しているかどうかの評価には、比較的少ない時間しか費やしていない。資産価値は変化する。建設コストは上昇する。新たな拠点が追加される。サプライチェーンは進化する。業務上の依存関係も変化する。
数年前に自社のニーズを満たしていた保険プログラムが、もはや十分でなくなっている可能性がある。
リスク認識
進化するエクスポージャーの管理においては、教育も重要な役割を果たす。多くの組織は、フランチャイズ網、ポートフォリオ企業、地域拠点、または第三者の不動産管理契約を通じて事業を運営している。こうした環境では、リスク認識は拠点やリーダーシップチームによって大きく異なり得る。
経営幹部が時間を割き、気象パターンの変化、洪水エクスポージャー、保険要件、事業継続に関する期待事項について、フランチャイジー、不動産管理者、事業パートナーを教育すれば、より強靭でレジリエンスの高い組織づくりに寄与できる。
おそらく最も重要なのは、物理的リスク評価を成長戦略や資本配分の意思決定に組み込むことである。
新施設、買収、開発プロジェクト、地理的拡大の機会を評価する際、組織は市場の潜在力だけでなく、長期的なレジリエンスも考慮すべきである。洪水エクスポージャー、排水インフラ、厳しい気象への脆弱性、業務継続性に関する問いは、投資をめぐる議論の一部となるべきだ。
気象パターンが変化し、開発が進み、業務の複雑性が増す時代において、最も強力な競争優位は未来を予測することではないかもしれない。それは単に、昨日の前提がもはや通用しないと認識することなのかもしれない。



