また、在庫状況についても、公表された金額という大まかな数値以上の改善が求められる。ナイキは旧製品の在庫量を減らし、新製品を投入するスペースを確保しなければならない。高額な製品が減少したことで数量の増加が相殺され、在庫総額が横ばいにとどまっているのだとすれば、依然として値下げ販売を迫られるリスクは消えていないことになる。
経営陣は中国市場の実態について、投資家に対してより明確な説明を行うべきだ。不要な在庫はどの程度残っているのか。小売店での製品消化スピードは上がっているのか。ナイキは市場の健全化に向けて出荷量を抑えているのか。同地域が「引き続き重要である」という曖昧な約束だけでは、企業の事業価値を評価する上では何の役にも立たない。
実質的な粗利益率は、再建にどれほどのコストがかかっているかを物語る。利益率はすぐに改善しなくてもよいが、経営陣は利益率への下押し圧力がどの具体的な施策によるものかを紐付け、それらの投資がいつリターンを生み始めるかの道筋を示すべきである。
外部の者がこのプロセスを加速させる余地は限られている。以前、解説したとおり、ナイキが採用している二層株式構造(デュアルクラス株式)により、一般の株主は、他の業績不振企業に対して行使できるような影響力を発揮することができない。しびれを切らした株主の思惑とは裏腹に、現経営陣は時間をかけて再建策を実行していくことになるだろう。
近年の出来事は、ナイキがどれほど地盤を失ってきたかを浮き彫りにしている。サッカーフランス代表のキリアン・エムバペ選手がOnとの契約へ切り替え、ナイキの株価下落は将来的にダウ工業株30種平均の構成銘柄から除外されるリスクをもたらしている。筆者は「ナイキ株、エムバペのOn移籍でダウ構成銘柄の座を失う可能性」の中で、この両方のトピックについて論じた。いずれの出来事も10月1日の決算自体を決定づけるものではないが、ナイキの文化的・財務的な重要性は不変のものであるというかつての常識に冷や水を浴びせるものだ。
ナイキには依然として、立ち直るための十分なリソースがある。手元資金、グローバルな流通網、一流アスリートとの関係、および世界中で知れ渡るそのブランド名。これらにより破綻する可能性は低いと言えるが、最終的な業績回復が、かつて株主が記憶しているような高い利益率を再びもたらすかどうかまでは保証されていない。
ナイキの決算は、再建にかかるコストについてさらに多くを明らかにするだろう。もし顧客が戻り、製品が値引きなしで売れ、古い在庫が処理できているのであれば、一時的に利益が弱含んだとしても、それは十分に許容範囲内である。しかし、もし売上高の改善が主に、ナイキが小売業者に向けてより多くの製品を出荷し、それらを維持するために多額の費用を費やしていることに起因するのであれば、同社の業績回復はまだ証明されていないと言わざるを得ない。


