モビリティ

2026.09.28 08:32

水素列車の夢に陰り──台頭するバッテリー電車と全面電化

Adobe Stock

Adobe Stock

鉄道の「脱炭素化」手段として売り込まれてきた水素だが、実際にどこまで有用なのかには疑問が残る

Googleの検索結果を信じるなら、水素燃料は鉄道分野で大きな話題になっている。過去1年だけで、インド、韓国、ロシア、日本、スイス、トルコ、ルーマニア、英国、米国のプロジェクトを報じるニュース記事が1万3000本以上公開された。

こうした列車は、温室効果ガスの混合物ではなく水蒸気を排出するため、特に非電化路線における「従来型ディーゼル列車に代わる気候にやさしい選択肢」と位置づけられている。仕組みは、通常は車両屋根上の頑丈なタンクに貯蔵される水素ガスを、燃料電池スタック内で空気中の酸素と結合させるというものだ。燃料電池は水素を陽子と電子に分離する。電子は回路に流され、列車を動かす電流を生み出す。燃料電池の反対側では、陽子、酸素、電子が結合して水を生成し、わずかな熱も発生する。これらが水素列車からの唯一の排出物である。

そのため、2018年9月にドイツ・ニーダーザクセン州の全長100 kmの鉄道路線が、世界初の全水素旅客鉄道路線として発表された際、期待は大きかった。1日の燃料補給は1回のみで、航続距離は1000 kmに設計されたこれらの列車、すなわちAlstom製のCoradia iLintは、「モビリティの未来に向けた革命」と表現され、「排出ゼロの鉄道輸送における新時代」の到来を告げるものとされた。

滑り出しは順調で、数年間にわたってサービスは問題なく運行された。だが2024年になると、水素ガスの供給をめぐる問題が運行に影響し始めた。2025年8月には、交換用燃料電池の納入遅延により、水素車両14編成のうち運行に使えたのは4編成のみだった。ほぼ同じ時期に、Alstomは政府資金の減少を理由に、既存の受注と保守契約は履行するとしつつ、水素駆動列車のさらなる開発をすべて停止すると従業員に伝えたと報じられた。2025年、ニーダーザクセン州の地域公共交通当局はバッテリー列車70編成の入札を発表したが、水素への追加投資には言及しなかった。

これらは、水素の鉄道における時代が終わったことを意味するのだろうか。どちらに結論づけるにせよ、その前にもっと基本的な問いを立てる価値があると思う。水素は実際にどこから来るのか、という問いだ。

グリーン対グレー

水素(H2)は、ガソリンのような一次エネルギー源ではなく、エネルギーキャリアである。つまり、バッテリーに少し似た形で、エネルギーを貯蔵し運ぶことができる。水素はまた、宇宙で最も豊富な元素でもあるが、単体で存在することはあまりなく、他の元素と結合していることが多い。したがって利用するには、さまざまな供給源から水素を生産、あるいは分離する必要がある。一般的には、水を分解する(H2+Oにする)か、化石燃料またはバイオマスから取り出す。加えて、これらのプロセスはいずれも稼働にエネルギーを必要とし、そのエネルギーの形態が、水素がどれほど「環境にやさしい」かを決定する。

水素には多くの分類があるが、ここで主に関係するのはグリーンとグレーの2つである。水素が「グリーン」と見なされるのは、「100%またはほぼ100%の再生可能エネルギー」を用いた水の電気分解によって生産され、ライフサイクル全体で正味排出量がほぼゼロの場合に限られる。「グレー」水素は、天然ガス(石炭と混合されることもある)を取り出し、水蒸気改質と呼ばれる工業プロセスにかけてつくられる。想像できる通り、これには相当なカーボンフットプリントが伴い、年間8億3000万メートルトンのCO2規模に達する。これは世界のCO2排出量全体の2.5%に相当する。

国際エネルギー機関(IEA)によると、2024年にあらゆる用途向けに生産された約1億メートルトンの水素のうち、低排出または無排出に該当したのは1%未満だった。残りは化石燃料を使ってつくられた。現時点でグリーン水素の生産コストはグレー水素より高い。IEAは以前の報告書で、グリーン水素は「排出削減対策のない化石燃料由来の生産より1.5~6倍高コスト」だとしている。

ここから示唆されるのは、明確に別の説明がない限り、現在の水素列車はグリーン水素ではなく、グレー水素で走っている可能性が高いということだ。

ニーダーザクセン州のiLint列車については、まさにそうだった。2022年時点で、これらの列車は化学産業の「副産物」として生産された水素を使っており、その生産には「ガスまたは石炭火力発電所のエネルギー」が用いられていた。目標は、2026年までに水素充填ステーションに設置した太陽光発電と風力タービンという再生可能エネルギーへ生産を切り替えることだった。私が確認できる限り、それは実現していない。現在も運行しているサービスは、依然としてグレー水素を使っている。ドイツの別の地域でも、H2列車の別の車両群が同様の問題に直面しており、導入の遅れとグレー水素への継続的な依存が生じている。

過去1年、カリフォルニアにも独自の水素列車があり、サンバーナーディーノ・ダウンタウンとレッドランズ大学を結ぶ9マイルの路線で通勤サービスを提供している。Stadlerが製造したFLIRT H2 ZEMU(Zero-Emission Multiple Unit)は、「ディーゼル列車がなお使われている、より長い非電化路線」向けに設計された。その水素の供給源を突き止めるのは難しかった。供給業者のAir Liquideは、カリフォルニアでグレー水素とグリーン水素の両方を生産しているからだ。

列車メーカーAlstomのバイスプレジデントであるBrahim Souaは、グレー水素を完全に否定すべきではないと主張する。「グレー水素を使ってプロジェクトを始めることは、すでに良い解決策である。ディーゼルと比べて排出量を45%削減できるからだ。ただし、ネットゼロへの道筋においては、より多くのグリーン水素を生産できるほど望ましい」

充電という選択肢

ここアオテアロア・ニュージーランドの首都、北島南端では、鉄道利用者が新しい列車群の到着を待っている。Tūhonoと呼ばれるこれらの車両は、ウェリントン(Te Whanganui-a-Tara)から伸びる2つの長距離通勤路線、パーマストンノース(Te Papa-i-Oea)行きとマスタートン(Whakaoriori)行きで現在使われている老朽化したディーゼル駆動車両を置き換える。より速く、より頻繁なサービスを提供することに加え、Tūhonoの車両群には別の注目点がある。電化区間と非電化区間の両方を走行でき、必要に応じて電源をシームレスに切り替えられるのだ。

このために水素燃料を使うのではなく、車両群はバッテリーで駆動される。南半球初の取り組みである。Tūhonoのバッテリー電車(BEMU)は、電化されたネットワーク区間では既存の架空電車線から充電し、それ以外の区間では蓄えた電力で走行する。両方に対応できることは重要だ。ニュージーランドの鉄道路線約4130 kmのうち、電化されているのは600 km未満(約14%)で、そのすべてが北島にあるためである。

水素よりバッテリーが魅力的である理由は、一部にはそれを可能にするインフラ整備コストにあり、一部には不要なエネルギー変換を避けられることにある。グリーン水素で走る列車は、水を水素に変えるために電力を必要とし、その水素を圧縮して貯蔵し、さらに車内の燃料電池で再び電気に戻す必要がある。各段階でエネルギーが失われる。ある推計によれば、グリーン水素で走る電車(EMU)の井戸から車輪までの効率は25~35%である。電力網から蓄電、走行へと直接つなぐバッテリーEMUでは、効率は70~80%程度になる。

2020年、VDE(ドイツ電気・電子・情報技術協会)は、同等の路線ではバッテリー列車を水素列車よりおよそ3分の1低いコストで建造・運行できると報告したらしい。「らしい」と書くのは、実際の技術報告書をどこにも見つけられず、プレスリリースしか確認できないためだ。

では、なぜ水素を選ぶ地域があるのか。それは結局、既存の鉄道インフラに帰着する。架空電化が一部ある路線では、一般的なBEMUの航続距離である40~120 kmが非常にうまく機能する。例えばウェリントンのTūhono列車は、58.5 kmと81 kmの非電化区間を想定して設計されている。だが、架空電化や軌道電化がまったく存在しない場所では、バッテリーEMUの有用性は限られる。航続距離を伸ばすにはバッテリー重量を増やす必要があり、その重量を運ぶためにさらにエネルギーが必要になる。一定の距離を超えると、バッテリーの効果は逓減する。

また、H2列車の水素「発電所」も重いとはいえ、1 kg当たりのエネルギー出力をバッテリーと比較すると別の側面が見えてくる。バッテリー電車は通常、バッテリー管理用電子機器、熱管理、筐体を含めると、1 kg当たり約120~160 Whのエネルギーを供給する駆動用パックを搭載する。列車に用いられる水素貯蔵システムは、かなり高い出力を提供する。鉄道向けエネルギー貯蔵に関する2021年のレビューでは、システムレベルで利用可能な水素のエネルギー密度をおよそ200~600 Wh/kgとしている。非電化路線での長距離移動には、水素は有力な選択肢である。ただし、必要なときに必要な場所で水素燃料を入手できるなら、という条件がつく。

つながる鉄道

しかし最終的に、目標がエネルギー効率とライフサイクル排出量の低減の両方であるなら、鉄道にとって進むべき道は全面電化、特に再生可能エネルギー主体の電力網を通じた電化である。

線路の上に張られた緊張架線を用いる架空電車線は、通常より高い電圧で運用され、高速・長距離の幹線に適しており、ほぼあらゆる場所で新規電化の標準的な選択肢となっている。ニュージーランドで使われているのもこれだ。

もう1つの選択肢は、走行用レールの脇または間に設置される導電レールである。これはロンドンの郊外・地域ネットワークの多くや、ニューヨークの通勤鉄道ネットワークで使われている。低い電圧で運用され、最高速度に達する列車がほとんどないため、高密度の都市部や地下鉄環境で好まれる。

路線を電化するこれらの選択肢はいずれも安くない。架空電車線ネットワークのコストは、1 km当たり$600,000(約9460万円)から$3 million(約4億7300万円)に及ぶことがあり、しかもこれはトンネル、橋梁、しばしば必要となる複雑な建築限界確保作業を考慮する前の金額である。

大規模なインフラ投資がない場合、水素は有用な橋渡し技術になり得る。低炭素の大量輸送と貨物輸送へ向かう足がかりである。適切な回廊であれば、グリーン燃料であれグレー燃料であれ、水素列車はディーゼル列車より改善である可能性が高い。

そして、ディーゼル列車でさえ道路車両より環境にやさしい選択肢になり得ることを忘れてはならない。Royal Society Te Apārangiが公表した専門家助言文書は、「現在の鉄道電化水準において、鉄道による貨物輸送は、平均してトンキロ当たり、道路による貨物輸送と比べて通常3分の1程度の排出量しか生じない」と述べている。2024年、ニュージーランドの全国鉄道網を運営するKiwiRailは、鉄道貨物がわずか1年で23万トンの排出を削減したと推計した。

では、水素列車ブームは息切れしているのか。鉄道の脱炭素化に向けた万能の解決策としては、答えはイエスだと思う。代わりに台頭しているのは単一の技術ではなく、より実務的な仕分けである。十分な交通量とインフラ投資の正当性がある場所には架線や第三軌条を敷き、非電化区間の隙間はバッテリーで埋め、距離が長い場合や貨物が重い場合には水素を使う。望むほど整然とした姿ではないかもしれないが、実際に線路上に現れつつあるのはこの姿である。

(forbes.com 原文)

タグ:

advertisement

ForbesBrandVoice

人気記事