賢明な投資家はなぜ、循環を見抜きながら投資を続けるのか
ガネサンが手がかりにする2つ目の考え方は、本稿冒頭で挙げたプリンスのものだ。この考え方は、循環がはっきり見えているのに、なぜ賢い人たちが踊り続けるのかを説明してくれる。ガネサンは、ダンスフロアにいる人たちを2つのグループに分けている。
初期投資家が抱える含み益は、最も危険な種類の金
1つ目のグループは、早い段階で投資した人たちだ。彼らの含み益は莫大で、「ハウスマネー」で勝負しているような気分になっている。ハウスマネーとはカジノの用語で、胴元(ハウス)から勝ち取った金、いわばあぶく銭を指す。
行動経済学者は、この心理を何十年も研究してきた。リチャード・セイラー(2017年にノーベル経済学賞を受賞)とエリック・ジョンソンは1990年、人は利益を得た後には、より大きなリスクを取るようになることを明らかにした。儲けた分を、自分の金とは見なさなくなるからだ。ガネサンは、これを最も危険な種類の金だと呼ぶ。苦労して稼いだ金と同じようには、誰もこの金を大切にしないというのが、その理由である。
乗り遅れ巨額を投じる後発組、逃した好機を本物の損失に変える
2つ目のグループは、初期のラウンドに乗り遅れた人たちだ。彼らのファンドに資金を出している年金基金などの出資者、つまりリミテッド・パートナー(LP)も、同じく乗り遅れた。そこで彼らは今、非常に遅い段階で非常に大きな金額を投じ、遅れを取り戻そうとしている。
ガネサンに言わせれば、機会損失をほぼ確実に本物の損失に変えてしまう戦略があるとすれば、まさにこれである。片側にはハウスマネーがあり、もう片側には取り残されることへの恐れ(FOMO。fear of missing out)がある。そして相互作用性が、その両方をあおっている。誰にも踊り続ける理由があり、しかもその理由は人によって違う。だから、誰も他人を説得してダンスフロアから降ろすことができない。
VCの勝敗を左右する、投資額を見極める力
こうした状況に対して、ベンチャー投資の世界でお決まりの答えは、投資先をもっとうまく選ぶことだ。正しいネオラボを見つければ勝てるというわけである。
ガネサンは、それこそが罠だという。価格がシグナルになっている市場では、企業に対する見立ては正しくても、価格を10倍も見誤ることがありうるからだ。ガネサンは、上場株に投資する一流の投資家たちを引き合いに出す。彼らは、何を持つかと同じだけの時間を、どれだけ持つかに費やしている。
VCなら誰もが答えるべき2つの問い
ガネサンは、今後10年のベンチャー投資で勝ち残るのは、ポートフォリオの組み立てと、1つひとつの投資先にどれだけの資金を振り向けるか(ポジションサイジング)を、有望な投資先の発掘(ソーシング)と同じくらい真剣に考える投資家だと予想する。その上で、ベンチャーキャピタルのパートナー(投資判断を担う幹部)なら誰もが答えるべき問いを2つ挙げている。
ファンドのうち、どれだけの資金が、売上高ではなく前回のラウンドを根拠に評価額がついている企業に投じられているか。そして、循環が5年後ではなく来年途切れたら、ポートフォリオはどうなるか。


