ビジネス

2015.12.16

「ヒットされるなら膝より頭の方がいい」と語るNFL選手の現状とは

Diamond Images / Getty Images

アメリカンフットボールと頭部外傷の因果関係は誰が見ても明らかだが、NFL(National Football League)はそれを何十年も否定し続けた後で、脳震盪対策と受け止められる多くの安全措置を実施してきた。しかし問題なのは、これらルールの導入により、かつてないほど選手の膝が攻撃を受けやすい状態になってしまっていることだ。

New England Patriotsの花形選手、タイトエンド(TE)のRob Gronkowskiは、Denver Broncosのフリーセイフティ(FS)、Darian Stewartのローヒット(太腿より下の部分に対する攻撃)を受け、膝を負傷し退場した。このプレーを見て、2年前、当時Cleveland Brownsに所属していたストロングセーフティ(SS)のT.J. Ward(偶然にも現在はDenver Broncos所属)がGronkowskiの太腿下に突っ込み、Gronkowskiはそのシーズンは残り試合を全て欠場する事態となったことを思い出した人も多いのではないだろうか。

Patriotsにとっては幸運なことに、Gronkowski選手の復帰はプレーオフに間に合いそうだ。PatriotsとGronkowskiの家族は柄にもなく12月1日に共同でコメントを発表し、Gronkowskiの怪我の回復について毎週公表する予定だと述べた。

Patriotsは危ういところで最悪の事態を免れたようだが、ローヒット禁止について発言する選手が最近になって出てきている。12月1日、Tom Brady選手はNFLに対し、レシーバーの脚を守るべきだと熱く訴えた。

「ディフェンスが付かないレシーバーに関するルール改正が必要と言いたい」とBradyは話す。「あのプレーにチョップブロック(隣り合うライン2選手が2人がかりで1人の選手の上体と太腿から下を同時にブロックすること)と何か異なる点があったとは思えない。NFLではレシーバー以外は全てのポジションで脚の防具を付けている。クォーターバック(QB)は脚の防具を装着している。ディフェンスもラインバッカーの選手も同様だ。なぜディフェンスがいないレシーバーが防具を装着しないのか、理由が分からない」と言う。

現在、ディフェンダーが頭部または首にタックルすることは禁止されており、ローヒットを狙う以外に選択肢がない場合がある。Gronkowski選手に対する2年前のプレーについてWard選手が発言した通り、これは通常レシーバーに突撃する際の唯一の手段だ。

「板挟みのような状態に陥っている。どう動くか決めるのは選手だが、ルールには従わざるを得ない。ルールを制定する時に、そのルールを決めたことによってどういう事態が生じるか分かっていたはずだ。あの態勢になったら、起こり得ることだ。どうにも回避しようがない。こういう状況に仕向けられたのだ」とWardは言う。

最近、頭部外傷の危険性は広く知られるようになった。この秋、既に他界しているNFLの選手の96%が変性脳疾患である慢性外傷性脳症(CTE)の兆候を示していたことが研究によって明らかになった。しかし、これらの疾患は全般的に長期にわたる影響が害を及ぼすものだ。もし選手が試合中に頭にヒットを受けたとしても、シリーズを棒に振ることはないだろうし、年間の残り試合を気にすることなどないだろう。しかし逆に膝の負傷なら、そのシーズンは怪我をした時点で終わってしまうこともある。前十字靱帯を断裂した場合、回復までにかかる時間は平均で6-9ヵ月に及ぶ。

12月2日、Danny Amendola選手は、その現実を考えると、頭部よりも膝への攻撃の方が怖いと話した。

Patriotsのワイドレシーバー(WR)、Danny Amendolaは、「少なくともヘルメットを着けているのだから、自分なら膝を狙われるくらいなら、頭の方がマシだ。普通なら、よっぽどのことがない限り試合中は適切にガードされている。もちろん脳震盪はとても大きな問題だ。(頭を狙ってはいけないという)ルールも理解している。それを考える時間などほとんどない試合中はフィールドのあちこちで、危険プレーが頻発している。いずれにせよ、状況は悪くなるばかりだ」と話している。

ボストンの日刊紙Boston HeraldのJeff Howe氏が報告していたが、Patriotsに所属する現役選手のうち12人は、プレー中に脳震盪を起こしたことがあるという。その12人のうち、シーズン途中で脱落した選手はいない。昨年のスーパーボウルで、Julian Edelman選手は、Seattle Seahawksのストロングセーフティ(SS)、Kam Chancellor選手からヘルメット同士がぶつかる強烈な頭突きを受けたが、最終的にはタッチダウンパスを受けチームを勝利に導いた。しかしEdelmanがその勢いで片膝に攻撃を受け、それを耐えたのだとしたら、ロッカールーム行きは免れなかっただろう。

熱い試合のさなかに選手が長期的視野で全体像を描くことは、大抵の場合難しいだろう。脳の損傷を招くプレーがもたらすリスクについて、Pittsburgh Steelersのクォーターバック(QB)、Ben Roethlisberger選手が今週コメントしたことからも分かる通り、おそらくこれは変わっていくだろう。

しかし頭の中で理解したとしても、11月29日の対Seattle Seahawks戦において、Roethlisberger選手は、ディフェンシブ・ラインマンのMichael Bennett選手による頭部への突撃で地面に倒れた後、9回スナップを放った。Roethlisberger選手は試合に欠場することなくシリーズが終わるまで様子を見た。

結局のところ、選手はフィールドに立つことを望んでいるのだ。プレーする分には、膝の負傷よりも腫れた脳の方が差し障りない。

編集 = Forbes JAPAN 編集部

ForbesBrandVoice

人気記事