ビジネス

2015.12.16

「文化や価値が問われる」時代の新しいビジネスや働き方をつくりたい

photograph by Chikashi Kasai

G1サミットで語られる政治やマクロ経済というテーマは、実は私にとって苦手な分野です。国家のあり方や世界経済の動きというのはスケールが大きすぎて、自分の手には負えませんから。いつも場違いな感じを抱いています(笑)。とは言いつつも、代表の堀義人氏とは学生時代からの顔見知りで、G1サミットには初回から参加し、強いインスピレーションを受けたこともあります。

「世界における日本の発信力」をテーマにした分科会に参加した時です。壇上では、日本人の真面目さや技術力について熱く語られました。政治やマクロ経済といった話題からは離れ、政治家や経営者、起業家たちが意見を交わしている―。その場で私は、「日本人の優しさや丁寧さをビジネスを通じて世界に届けたい」と気持ちを高ぶらせたのを覚えています。

 当時、「PASS THE BATTON」を立ち上げようとしていました。個人のセンスで見出された品物や、元の持ち主の人となりが伝わるような品物を扱うセレクトリサイクルショップ。ちょうどお店のコンセプトを考えていた時期で、G1サミットでの議論に触発された勢いに乗ってか、帰りの新幹線の中で一気にコンセプト文を書き上げました。

 私は経営者ですが、アートが好きで、「Soup Stock Tokyo」のロゴマークは自分でデザインしました。普段はアーティストやクリエイターたちと会うことが多いです。そのためか、最近思うのは、ビジネスの世界にもアートの要素が入り込む余地ができてきたということ。これは今の時代を反映した自然な流れだと思います。G1サミットの場でも、アートとビジネスについて話ができる起業家が増えてきた印象です。そもそも仕事の進め方というのは、「アート的」だと言えなくもありません。「こういうものが欲しい」とイメージするところから始まり、まだ見ぬものを形にするために手探りを繰り返し、ビジネスとして立体化させていきます。これは彫刻やコンセプチュアルなコンテクストとどこか通じるものがあります。

 20世紀は「経済」が主役の時代でしたが、これからは「文化や価値が問われる」時代。それに伴い、働き方や暮らし方も変わっていくでしょう。河口湖に会社の「社員別荘」があり、社員たちと訪れています。昭和に建てられた古い民家をリノベーションし、居心地のいい空間を自分たちで造り上げました。ここ来ると誰もが自分の別荘にいるような気分になり、豊かさを感じるようです。ここでずっと仕事をしたいという人も出てくるぐらい(笑)。あくまでも一つの例ですが、こうした方法を通して、これまでとは違う会社のあり方や働き方を提示できればいいですね。

遠山 正道 とおやま・まさみち◎1962年、東京都生まれ。三菱商事初の社内ベンチャーとしてスマイルズを設立。2008年MBOにて100%株式を取得。Soup Stock Tokyo、ネクタイブランドgiraffe、PASS THE BATONの企画・運営を行う。NY、青山などで絵の個展も開催。

野口孝行 = 構成 笠井爾示 = 写真

この記事は 「Forbes JAPAN No.16 2015年11月号(2015/09/25 発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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