年齢を重ねてもなお認知機能を維持するための研究が、この1年間で相次いで発表されている。その多くはパズルやサプリメントに関するありきたりなアドバイスよりも実践的なものだ。特に注目すべき研究結果の中には、食事内容や他人のサポート、さらには自宅の空気の質など、頭のトレーニングとはまったく関係がないものも含まれている。
心理学者は、その根底にある考え方を「認知予備能」と呼んでいる。これは数十年にわたる消耗が蓄積しても、脳が良好な働きを維持する能力を指す。この予備能は生まれつきのものではない。生涯を通じて築かれるものであり、その人の生き方に応じて変化し続けるため、日々の些細な習慣が人々が考えている以上に重要になる。本稿では研究が繰り返し指摘している、認知機能の維持に役立つ5つの習慣を紹介しよう。
習慣1:苦手なことを学び続ける
最も裏付けのある習慣は、最も手間のかかる習慣でもある。継続的な努力を要する学習は、長期的に思考力を維持する効果があるようだ。その最もわかりやすい例が語学学習だ。
2025年に学術誌『Nature Aging』に掲載された研究では、欧州27カ国の8万6000人以上の成人を対象としている。それによると、多言語環境に身を置く人は、健康、身体機能、認知機能のあらゆる指標において、加齢に伴う認知機能低下のスピードが緩やかになることが明らかになった。
語学学習が有益である理由の1つは、決して現状に満足させない点にある。新しい言語による会話では、時間的なプレッシャーがある中で単語を思い出し、話す間ずっと文法を考え、本来使いたい言語表現を抑えるなど、常に新たな課題を伴う。つまり、楽な選択肢をあえて選ばず、難しいが正しい選択肢を選ぶという作業は、騒がしい部屋の中で集中力を維持するときと同様な精神的な操作が必要となる。
この点について、科学的な観点からは留意すべき明確な注意点がある。バイリンガルの優位性については現在も活発な議論が続いている。また、多言語能力は教育や機会と密接に関連していることが多く、言語そのものと、それに伴うあらゆる要素とを切り離して考えることは難しい。
より広範な原則については確固たる根拠がある。長期間にわたって「不慣れな状態」に身を置くことが、適応を促す原動力となる。慣れ親しんだことを難なくこなせる状態ではそうした適応は起こらない。だからこそ、慣れ親しんだ分野で数十年にわたって専門性を磨くことよりも、不慣れな分野を数カ月間にわたって経験したほうが、あなたにとって有益である可能性が高い。
習慣2:知識ではなく処理速度を鍛える
脳トレゲームの大半は、知識があることを評価する。だが、加齢とともに衰えが顕著になるのは知識の有無ではない。頭がどれだけ素早く情報を取り込み、それに基づいて行動できるかを指す「処理速度」の低下だ。これこそが、40代のころには何ともなかった交通量の多い交差点が、70歳になると複雑に感じられる原因だといえる。
処理速度が落ちると、グループでの会話にひどく疲れを感じたり、標識を読み取れず、曲がるべき道を通り過ぎてしまったりすることが増える。人は通常、こうした瞬間を記憶力や注意力の問題だと解釈するが、根本にある問題は、あらゆる情報が脳に入る速度にある。
この区別が重要なのは、トレーニングに関する研究結果にばらつきがあるからだ。脳トレとして売り出されているものの多くは、訓練している特定の課題においてのみ改善をもたらす。これに対し、適応型トレーニングではより確かな効果が示されている。これはすでに習得したレベルにとどまるのではなく、上達するにつれてタスクのスピードが上がり、難易度も高くなっていくというトレーニングだ。
2026年に学術誌『Alzheimer’s & Dementia: Translational Research & Clinical Interventions』に掲載された研究では、無作為化試験の参加者を20年間にわたって追跡した。その結果、処理速度のトレーニングとその後の追加セッションが、認知症のリスクの低下と関連していることが示された。一方、記憶力や推論力のトレーニングでは同様の効果は見られなかった。
この違いはトレッドミルでのウォーキングと、インターバル・トレーニングを分けるのと同じだ。クロスワードパズルは楽しいのであればやる価値がある。しかし、自分の処理能力の限界まで負荷をかけるものでなければ意味がない。
習慣3:他者の役に立つ
人とのつながりは、認知機能の向上と関連づけられてきたが、その中でも特に際立っている形が1つある。つまり、「誰かに必要とされること」には、単に楽しく人と過ごすだけでは得られない何かがある。ボランティア活動もその1つだ。しかし、近所の人を何かの予約に車で連れて行ったり、孫の世話をするといった、ボランティアとはいえないようなちょっとしたサポートもそこには含まれる。
他の人と連携して行動するとき、その最中には何も感じていなくても、認知的には負荷がかかっている。孫と午後を過ごすなら、孫が何を食べたかを把握し、何時までに家に送り届けるかを覚えておき、公園で孫が泣きわめいたら予定を変更しなければならない。そのいずれもが頭のトレーニングを行っているようには感じられないが、まさにそこが重要な点といえる。実験室では決して自ら進んで引き受けないような困難も、誰かがあなたを頼りにしているとなれば容易に受け入れられる。
また、それによって1週間に生活のリズムが生まれ、外出する理由もできる。心理学者はこれを刺激ではなく、モチベーションを通じた認知機能の健康と結びつけている。他人に対する責任は、自身に対する責任よりも先延ばしにしにくい。
2025年に学術誌『Social Science & Medicine』に掲載された研究では、20年以上にわたって成人3万人超を追跡調査した結果、正式なボランティア活動と非公式な他の人のサポートの両方が、認知機能の低下を遅らせることに関連しており、週に数時間行う場合に最も明確な効果が認められた。また、他者のサポートを完全にやめることは、認知機能の低下と関連していることが明らかになった。
退職や病気、引っ越しなどによってこうした役割が一度に全てなくなることが往々にしてあり、それらが自然に何か他の活動に置き換わることはない。そのため、他者のための活動を完全にやめるのではなく、規模を縮小していくことが推奨されている。



