企業が危機に直面した際、経営陣は状況のすべての詳細を把握していない理由を説明するのに苦慮することがある。「ノーコメント」と答えるのは決して良い考えではない。経営陣が質問の答えを知っているにもかかわらず情報を開示せず、隠蔽しているのではないかという疑念を生むリスクがあるからだ。
同様に致命的なのは、企業の担当者が自らの把握している事柄について、誤った印象を与えてしまうことだ。APCOで危機管理コミュニケーションおよび訴訟コミュニケーションを専門とするディレクター、エリー・ラトランド氏はメール取材に対し、「危機に直面したリーダーがすべての答えを持ち合わせていないとき、最大の過ちは知っているふりをすることだ。人々は情報不足を許すことはできても、誤解を招く情報や不正確な情報に対しては、はるかに厳しい態度をとる」と語った。
信頼の確立と維持
危機が進行するなかで、ビジネスリーダーは自らが知っていること、知らないこと、そして状況をさらに把握するために何を行っているかを明確にすることで、信頼を確立し、維持することができる。ラトランド氏は次のようにアドバイスする。「ステークホルダーは必ずしも確実性を求めているわけではないが、誠実さと行動は期待している。最初のメッセージとして適切なのは、その時点で判明している確認済みの事実、状況に対処するために取られている措置、そして次の状況説明がいつ行われる予定であるかに焦点を当てることだ」
次の2つの事例は、危機発生時にビジネスリーダーが直面し得る困難を浮き彫りにしている。何が起きたかは把握していても、その原因や影響の範囲、今後明らかにすべき点まではわからない場合があるのだ。
ユナイテッドヘルス・グループ
2024年2月にユナイテッドヘルス・グループ(UnitedHealth Group)傘下のチェンジ・ヘルスケア(Change Healthcare)がサイバー攻撃を受けた後、同社CEOのアンドリュー・ウィッティ氏は、回答できない質問に直面した。2カ月以上経過した後の議会公聴会での証言で、彼は攻撃者が利用したサーバーで多要素認証(MFA)が有効化されていなかった理由が分からないと述べた。上院財政委員会の公聴会における証言の記録によると、ウィッティ氏は次のように述べている。「なぜそのサーバーがMFAで保護されていなかったのか、正確な原因を突き止めようとしているところだ。この事実については、私も誰よりも不満を感じており、当時なぜ適用されていなかったのか、正確な理由を理解するために取り組んでいる」
ペーパーカット
2026年8月、印刷管理ソフトウェアプラットフォームのペーパーカット(PaperCut)は、何者かがセキュリティ上の弱点を利用して同社のソフトウェアに攻撃を仕掛けていることを発見した際、この危機について迅速に伝えた。CEOのクリス・ダンス氏はブログ記事の中で、サイバー攻撃の全容や、他に誰がその脆弱性を悪用しようとしているのかについては把握していないと述べた。同社は顧客に状況を警告し、取るべき対策を提案した上で、調査の進展に伴いオンラインで更新情報を発信し続けた。
法務チームとの連携
危機の状況に対応する上で、法務チームが果たす役割は大きい。しかしハケット・コミュニケーションズ(Hackett Communications)の創設者であるヘザー・デール氏は、オンラインインタビューで次のように語った。「危機管理コミュニケーションは、法的に差し支えのない範囲で極力発言を控える、といった行為であってはならない。広報担当者は『これは従業員、顧客、あるいは株主に実際にどう受け止められるだろうか』と自問できなければならない。そして人々が関わっている以上、人間味のあるコミュニケーションをとる必要がある」
更新情報の投稿とタイムスタンプの付与
危機に関する最初の情報を提示した後は、ソーシャルメディア上で事後説明や更新情報を投稿し、状況の新たな詳細を継続的に人々に伝えるようにする。
それぞれの更新情報にタイムスタンプ(発信日時)を明記することを忘れてはならない。ボウリング・グリーン州立大学とバージニア・コモンウェルス大学で広報(PR)を教える非常勤講師のジェニファー・トーマス氏は、メールで次のように助言してくれた。「(タイムスタンプは)組織やビジネスリーダーが主体的に関心を寄せ、答えや情報、解決策を見つけようと取り組んでいることを示す。これは、ハリケーンなどの潜在的な危機を前に、自治体の担当者が行う定期的なアップデートと似ている。すべての答えを持ち合わせていないからといって沈黙を守ることは、受け手とのつながりを欠いていることを示すに等しい」
企業が「もしも」の事態や最悪のシナリオを想定した危機対応訓練を行う際には、経営幹部が顧客やステークホルダー、メディアからの質問に答えるために必要な情報をすべて持ち合わせていない状況も含めるべきだ。企業の担当者にとっては、世間の注目を浴びるなかで危機の基本的な質問に答えられず恥をかくよりも、非公開の場でそのような状況を想定した訓練をしておく方が賢明である。



