リーダーシップ

2026.10.18 09:15

「大胆細心な儀式」ベルナール・アルノー 贈りたくなる言葉集 vol.13

Forbes JAPAN編集長編著『Forbes JAPANが選ぶ 未来をひらく言葉』から、Forbesが過去取材したビジネスリーダーたちの名言を紹介する。

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正解のない時代に「未来をひらく」仕事をなし得た彼ら・彼女たちは、自らの行動からどんな言葉を紡ぎ、何を導き出したのか。「名言こそ未来に伝えるべき共有物だ」をコンセプトに、リーダーたちの言葉をひもとき、われわれの「今日の行動」に転換すべく読み解くコラム。第13回の今回は、LVMH会長兼CEO ベルナール・アルノーの言葉を紹介する。


大胆細心な儀式

(まだ父親の建設会社にいた)1971年にアメリカに行った時、ニューヨークでタクシー運転手に、フランスの大統領であるジョルジュ・ポンピドゥーを知っているかと尋ねた。すると、運転手は「いいや」と答えた。「でも、クリスチャン・ディオールなら知っているよ」って言ったんです

──ベルナール・アルノー

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Getty Images

このタクシー運転手との会話でアルノーは、「政治権力よりもブランドという無形のもののほうが人の記憶に刻まれる不変の価値がある」と確信した。この有名なエピソードにこそ、彼がラグジュアリーブランド帝国を築くまでになる商才が見て取れる。2019年、米Forbes誌の「LVMH帝国の10兆円の男」と題した取材に対して、彼はこう言っている。

「ルイ・ヴィトンやディオールといったブランドは、なぜこれほどまでに成功しているのかわかりますか?矛盾しかねない2つの側面があるからです。時代を感じさせないのに、最先端の現代らしさも備えている…。火と水のようなものですね」

永遠に色あせないブランドの魅力を守り抜くために、伝統以外のすべて(販売や宣伝など)に最新テクノロジーを取り込み、徹底して価値を磨き上げる。それが彼の言う「火と水という矛盾の統合」だ。彼がブランド帝国を築き始めた1980年代に比べると、現在、世界の人々の価値観は「所有欲」から「使用欲」に大きく変わった。

デジタル革命によって、家も自動車もスマホでシェアが可能になり、デジタルによる「機能性」で生活は満たされる。それでいながら、LVMHが売り上げを伸ばし続けるのは、「所有することでしか満たされない特別感」を提供するからである。彼が追求し続けていることとは、人々に「無形の資産価値」を感じさせるにはどうしたらいいか、なのだ。その追求とは、次の規律の中にある。

「父は24時間、働いています。眠っている時は、新しいアイデアの夢を見ていますよ」と、ルイ・ヴィトンの幹部である長女のデルフィーヌ・アルノーは言う。

毎朝、パリの豪邸で6時半に起床し、まず、クラシック音楽を聞く。それから業界ニュースに目を通し、家族や各ブランドのトップにテキストメッセージを送る。8時にはオフィスに到着して、遅い時は夜9時までそこで過ごす。時折、20~30分間仕事の手を休め、オフィスがある部屋でヤマハのグランドピアノを弾く。

毎週土曜日、アルノーはグループの小売店を回り、バッグのディスプレイをいじったり、販売員に提案をしたりする。多い時には、その日の朝だけで競合も含め25店舗も回るという。「それが儀式になっています」と、タグ・ホイヤーのCEOで三男のフレデリックは言う。そうして店舗巡りで気づいた細かい点をトップブランドの責任者に伝える。

また、毎月、自家用ジェットで68ヶ国4590店舗のどこかに視察に行く。重要な点は、売り場面積当たりの売り上げといった通常の指標と同じくらい、アルノーの直感と出店先の地域の雰囲気が、店舗の運命(閉店)を決定づけていることだ。

2018年、フロリダ州にあった店舗を閉店した。近隣の店や駐車場に高級感がなかったからだ。自分たちの価値が下がることへの危機感だ。また、中国はルイ・ヴィトンの主要消費国である。しかし、あえて店舗数を制限し、出店ペースを抑えている。

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