マーク・ザッカーバーグが、まだこの未来の技術を諦めていなかったことは公然の秘密だった。投資規模を縮小したと言われながらも粘り強く続け、そしてやっとその未来的な野望は結実しようとしている。
Meta Connect 2026の基調講演で紹介した「Meta VR Glasses」は、約100gのメガネ型VRデバイスだ。基調講演でザッカーバーグはヘッドセットを装着することに難色を示すユーザーの意見に触れ、没入感と周囲景色を確認できる新しいスタイルを説明し、10年以上にわたるVRディスプレイの研究開発が生み出した成果について胸を張った。
FacebookがOculusの買収を発表したのは2014年。それから12年が経ち、会社の名前はMetaに変わった。かつて顔を覆っていたゴーグル型のVRは、今度はメガネに近い姿にまでスリムダウンされたのである。
私は今回の会場には足を運んでいないが、試作機を事前に体験する機会を得た。その完成度には正直、驚いている。外の様子が自然に見え、その中に浮かぶアプリの画面を視線と手で操作できる。Apple Vision Proに近い感覚が、約100gの軽さで実現している。「MR(ビデオシースルー機能を持つ複合現実デバイス)でここまで来たのか」というのが率直な感想だ。
この製品にはザッカーバーグという経営者の性格がよく表れているのかもしれない。買収し、技術を育て、巨額の資金を投じ、社名まで変えて追い続けてきた。その執念こそが、多くの挑戦者が事業継続を断念してきたジャンルでの製品化に必要だったものだ。
Oculus買収時から“ゲームの先”を見ていたザッカーバーグ
2014年3月、FacebookはOculus VRを約20億ドルで買収する合意を発表した。当時のOculus Riftは、まだ開発者向けの機器であり、主な用途は業務用途とゲームだった。
その発表で、ザッカーバーグはモバイルの次に来るプラットフォームへの準備を語っている。Facebookが示した用途はゲームにとどまらず、コミュニケーション、メディア、教育などに及んでいた。人が働き、遊び、会話する方法を変える可能性を、あのゴーグルに見ていたわけだ。
そして2021年10月、彼はFacebookからMetaへの社名変更を発表する。同時に公表した創業者のメールには、巨大なSNSを持つだけでは、コンピューティングの基盤を自分で決めることはできない。自分たち自身が、未来のコミュニケーション基盤を作っていくべきだという意思が示されていた。
SNS企業として十分に成功した創業者が、次の新しい事業を模索する。その程度の話なら、社名を変える必要はなかったはずだ。Facebookという世界的な名前を会社の看板から外すほどに、ザッカーバーグはこの構想に自らを重ねていたのだ。
もちろん、当時描かれたメタバースが、そのまま日常になったわけではない。今回のグラスを体験しても、仮想空間へ移住したいと思ったわけではなかった。いつものPC作業や映画鑑賞から、新しいデバイスも使われていくだろう。そのコンセプトの違いは小さくない。
ザッカーバーグが追い続けた方向には一貫性があるが、実際に提供される製品、求められている製品像は変わってきた。周囲を見ながら使えること、顔に負担をかけないこと、いま使っているアプリやコンテンツを持ち込めること。今回の製品には、日常と仮想現実をどのように繋ぐのか、現実解へと近づこうとした痕跡が見える。



