Forbes JAPAN 2026年11月号の第2特集は、日本発で世界を驚かす共創プロジェクトに光を当てる「Xtrepreneur AWARD 2026」。4回目の今回は応募要件から大企業の参画を外した。これまで以上に多彩な顔ぶれから、6つの共創プロジェクトを選出した。組織のレガシー(資産)をかけ合わせ、一社単独では生み出せない大きなインパクトを創出する共創物語に迫る。
乗客の安全を守り、セーフモビリティ賞を受賞したのは、AIによる乱気流予測で航空安全を高める産学連携プロジェクトだ。運航コストを最適化する乱気流予測技術をANAと慶應大が共同開発。現場の声とAI理論がもたらした突破口は、空の安全を新たな次元へと引き上げる。
飛行中の突発的な乱気流は、乗客・乗務員の負傷事故を引き起こすリスクである。世界的に悪天候による損害が十兆円規模に及ぶなか、高精度な気象予測への需要が高まっている。この難題に対し、慶應義塾大学発の新興企業BlueWX(ブルーウェザー)とANAの共創が突破口を開いた。
きっかけは2019年、ANAの松本紋子と気象シミュレーションを専門とする慶應義塾大学の宮本佳明の出会いだった。「現場の負傷をなくしたい」松本と、「基礎研究の成果を社会実装したい」宮本の志が合致し共同研究が始動。従来の理論モデルに対し、AIによるアプローチを選択したことがブレイクスルーにつながった。
「AIに大量のデータを入れるだけでなく、仮説をもとにエッセンスを抽出して学習させたことで、精度が向上しました」(宮本)
風力発電や次世代モビリティにも適用
開発の成否を分けたのが、予測モデルを「0→1」で共同開発するための資金確保と現場との連携だ。当時はANA社内でAIへの信頼が確立されておらず予算確保が難しかったが、内閣府の委託事業に応募・採択されたことで資金を獲得。宮本と松本は二人三脚でモデル開発を進めた。
松本は「信頼しているパイロットに声をかけ、集めてくれた有志に開発の思いを伝え、試験的に使ってもらった」と明かす。試作品のヒアリングを経て、2500名を超えるパイロットを対象に4年間の実用トライアルを実施。現場のフィードバックを反映したところ、最大36時間先まで正答率86%という高精度を達成。現場で「神アプリ」と評判を呼び、25年に正式導入された。
この成功により事業化に着手。航空業界全体での活用や中立性の観点からBlueWXを創業した。CEOの渡辺和成は、「まずは『風予測』という世界トップクラスの尖ったコンテンツの制作と技術開発にフォーカスしたい」と世界展開を推進する。「上空の風の予測精度が高まれば、最適な燃料と経路で目的地に着く『経路最適化』が可能になります」。そう話す松本は技術を雲の高さ予測のほか、ドローンなどの次世代モビリティへの応用も期待している。宮本も「理論的には、ほかの現象も高い精度で予測できる可能性が十分にある」と確信を示す。風力発電の風況予測など他産業への展開も進み、空の安全から始まった共創は社会全体の持続可能性を支える技術へと成長を遂げている。
宮本佳明◎慶應義塾大学環境情報学部准教授/BlueWX代表取締役ファウンダー最高技術責任者。気象シミュレーションの理論研究から転換し、AI技術を融合させた高精度な乱気流予測モデルを開発した。(写真左)
松本紋子◎ANAホールディングス/BlueWX社外取締役。運航管理者の経験を生かし、AI乱気流予測モデルの共同研究を主導。公的資金獲得や現場実証を通じ、技術の社会実装に貢献した。(同中央)
渡辺和成◎BlueWX代表取締役社長(CEO)。東京大学工学部航空学科卒。商社やBCG等で航空ビジネス・経営変革を主導した経験を生かし、独自のAI乱気流予測技術の世界展開を牽引する。(同右)



