ビジネス

2015.12.16 10:00

不動産王のジェフ・グリーン、テクノロジーが労働市場に与える影響を懸念

Willyam Bradberry / Shutterstock

Willyam Bradberry / Shutterstock

レストランではスクリーンをタッチして注文し、ロボットが車を組み立て、Uberのようなアプリがタクシーやリムジン業界で主流になっていく―これらは素晴らしい技術革新である一方、人間の仕事を奪っていくものであると危機感を募らせているのは、ビリオネアのジェフ・グリーン氏だ。

「3、40年前にグローバル化の波が始まりブルーカラーの仕事や労働者階級の人々の生活に影響を与えたが、それと同じようなことがより速いスピードで、人工知能やロボットの開発を通じてホワイトカラーにも起きようとしている」とグリーン氏。同氏はこのままでは今後益々貧富の差が広がるとみる。伝統的に人の手で行われていた仕事がどんどん自動化されているのに、社会はその問題に対して対策をとってこなかったと感じている。

「これは今日のアメリカが直面する最も大きな脅威だ」とグリーン氏は語る。「だからこそ、アカデミアや政府、ビジネス、NGOなどあらゆる英知を集結させて、現実的に今何が起きているのかを話し合う場を持ちたかったんだ」。

グリーン氏はフロリダ州にあるリゾート施設で「ギャップをなくす―インクルーシブな経済への解決策」というテーマを掲げ2日間の日程で会議を開いた。スピーカーには前イギリス首相のトニー・ブレア氏をはじめ、作家のトマス・フリードマンやAppleとPepsiのCEOを歴任したジョン・スカリー、弁護士やテレビのパーソナリティとして知られるスター・ジョーンズ、伝説のボクサーマイク・タイソンなど豪華な顔ぶれがそろった。

会議では、技術革新によって職場環境が崩れたことによって生ずる新たな貧富の差に政府がどう対応していけばよいかや、公平な社会の実現や企業の社会的責任といった幅広く意見交換が行われた。

グリーン氏は、これから社会で何が起きていくかを人々が意識的に考え、新しいテクノロジーをどのように人間活動に取りこんでいけばよいか話し合うことを目指して会議を主催した。グリーン氏は2016年の大統領選の前哨戦について、共産党は小さな政府の一点張り、民主党は富裕層への増税を主張し続けている一方で、だれも近い将来テクノロジーによって職を失う人々に焦点を当てられていないとみる。

「大統領候補者の誰一人として、問題に気が付いていないのだ」というグリーン氏は、2010年に上院選に出馬し落選した経験も持つ。ハーバードビジネスレビューが、アメリカ国民のうち4,000万人の人々が、近い将来経済的価値のない仕事のスキルしか持ち合わせない状況になると示した研究結果を指摘し危機感を強める。

会議では、300人以上が1枚2,000ドルから4,000ドルするチケットを購入した。入場料や多額のスポンサー料を受け取ってもなお、33億ドル(4,026億円)の資産家であるグリーン氏は、1年以上構想を練ってきたこの会議のために50万ドル(6,100万円)のポケットマネーを出した。

グリーン氏がこのような会議を開くことを意外に思う人がいるかもしれない。世界有数の大富豪である同氏は、ダボス会議でアメリカ人に対して「よりコンパクトで、より良い人生を」とライフスタイルの変革を呼びかけたにも関わらず自身と家族は自家用機で会議会場へ往復するなどして批判されたことは記憶に新しい。また、去年ビバリーヒルズの大邸宅を1億9,500万ドル(237億9,000万円)で売りに出し、アメリカ不動産市場で最高額を打ち立てたことでも知られる。

そんな巨額の富を築いたグリーン氏が貧富の差の解消にこれほどまで思い入れがあるのは、彼の生い立ちに由来する。マサチューセッツ州の中流階級の両親のもとに生まれた同氏は、小児科医や塗装員、工場作業員など、多様な職業の人々が暮らす地域の中で育った。「私は皆を受け入れる経済社会の中で育った。そこではだれもがお互いのことを思いやり、お互いに良い感情を持っていた」とグリーン氏は振り返る。

そんなとき、父の勤めていた工場が安い労働力を求めて南部へ撤退し、工場閉鎖にともなって父も職を失った。一家はフロリダへ移住し、父は自動販売機の入れ替え作業で職を得た。母もウェイトレスの仕事を始めた。グリーン氏はジョンズ・ホプキンス大学へ進学し、ヘブライ語を教えたりバスボーイとして働いた。

ハーバード大学のビジネススクールに在学中、7,400ドルで3人家族用の家を入札してそのうちの1室を自分の部屋として住んだ。MBAを修了し、ロサンゼルスの不動産会社へ行くが、不動産価格の下落によって破産寸前になった。苦境をしのぎ、2006年にはカリフォルニア州南部に約7,000の不動産を所有し、7億ドル(854億円)の資産価値をたたき出した。バブル崩壊前、不動産価格の上昇を懸念していたグリーン氏の予感は見事的中し、結果的に一代で不動産王と言われるほどの富を築いた。

そのときの勘と同じような確信をもって、テクノロジーによる自動化がアメリカ経済に多大な及ぼす影響と感じている。グリーン氏は、グローバライゼーションや自動化が起こることを受け入れることは大切であり、そのうえで労働者にいかに変化し続ける環境に適応し、自動化によって職を失う可能性がある人々の手助けになるようテクノロジーを役立てなければいけないと考える。「テクノロジーによってもたらされるメリットは数えきれないほどある。薬や医療、教育の民主化は素晴らしいことだ。私がただ1つ懸念しているのは、テクノロジーによって実際に生きている人々を置いてきぼりにしてしまうことだ」。

その状況は現実世界にあふれているという。会議が始まる前、グリーン氏は掃除機で床掃除をする女性や、駐車場の誘導員、入口で人々を迎える受付の人々を見かけた。しかし、指紋認証や目のスキャンによって受付で働く人員が不要になったり、自動走行車が誘導なしで駐車をする光景は、容易に想像できると話す。掃除をしていた女性の代わりは?普及が進んでいるiRobotだろう。「こんな風に考えるのはクレージーではなく、実際にそんな世界はすでに我々の目の前まで到来しているんだ」。

編集 = Forbes JAPAN 編集部

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